失われた5番目の季節と夏の牢獄にまつわる新規解釈

 僕は、彼らと一緒にいられるだけで、幸せだった。


 通学路を、邪魔にならないように、歩いている5人のグループがいた。


 これは、いつも通りの光景。


 僕が大好きな、風景。


 談笑する彼らと一緒にいるだけでいい。僕は多幸感に包まれる。


 だけど、僕の言葉だけが、そこには存在しなかった。


 そして、僕は、彼らのことを、よく知らなかった。


 頭に靄がかかったみたいに思い出せないけど、たしか、とても、辛いことがあって。


 僕の頭は、それ以来、別の世界にピクニックにでも行くみたいに、きれいな蝶になって遊び歩いてしまった。


 いっしょに、彼らにまつわる大事な思い出も、ごっそり抜け落ちてしまった。


 それよりずっと前に、皆の反対を押し切って、死者に会うための変なおまじないをためしたことだけは、覚えている。


 お医者さんには、一時的なショックだと言われた。


 叙述トリック好きに語るには残念だけど、僕は別に幽霊とかじゃなくて、生きている。

 それが前提になって、この誰にも物語らない内心の独り語りは進んでいく。


 あの日の軽率なおまじないで失ったのが、言葉なのか、感情なのか、それらを伝える能力なのか、僕にはわからない。


 皆、悲しそうな顔をする。そんな顔をしないでほしい。


 そもそも、僕はどうして平然と学校に通えているのか、わからない。


 校門には、『分校』、と書いている。


――、ああ、そうか。


 この学校、僕たち五人しかいないんだ。今年で閉校だとも聞いていた。


興味がない奴1のことは、ハル、と呼んでいる。

不明瞭のことは、ナツ、と呼んでいる。

不詳ノコトハ、■■、ト呼ンデイル。

興味がない奴2のことは、フユ、と呼んでいる。


 僕の次に無口な■■は、微笑をたたえてぽつりと言った。


「僕はアキの影だから」



「私、もうこんなの、ヤダよ!」


 ハルがとつぜんわっと泣き出した。


 フユはただおろおろしている。


 ハル達は同じ演劇の練習を、繰り返している。



「どうせ……次だって、また繰り返すのに!! こんなこと、しても、無駄なのに!! アキの、人間を覚えるための記憶が1日しかもたないことには、変わらないのに!」


 僕の世界は、そこで停止した。



「ようこそ」


 そう言って迎えてくれた4人は、僕が記憶をなくす前の友達だったらしい。


 そんなわけで、僕の隣には、ハルとナツと■■とフユがいる。


 彼らが好きだ。僕は幸せだ。


 でも、なんだか、物足りないような、そんな気がした。




 僕は■■のために、命を捧げたはず。



 ああ、皆がいる。良かった。

 ううん。僕は■■を助けないと。


 だけど、きっと、僕は、過去の記憶で……ナツを選んでしまった。



 次には忘れるけれど、自ら望んで囚われたことに気づきたどり着いた僕には、一本の万華鏡が支給された。


 万華鏡の中で、4人は、大人になって、それぞれの道を進んでいた。


 結局、僕は、あの通学路のあとすぐにどうあがいても事故で死ぬ運命らしい。


 それから僕は、彼らの人生の、ほんのワンシーンを切り取った、世界で、一生、生きていくことを、選んだのだろう。



「あーあ、明日から、学校かあ」と■■はぼやいている。


 でも、明日を迎えられないのは、別に問題じゃない。

 それに、意味のないことだ。


 この幸福の夏の牢獄に、秋は永遠に訪れないのだから。






















 

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