心象の向日葵

 電信柱にもたれかかる、演劇向け人形の目立つ化粧。


 五体満足のつやめかしい球体関節にひざまずき、その人間は何度もなんどもなんども人形のひじひざにキスをします。


 通学路の怪異。


 視線を合わせぬように少年は横切る、しかし、前方から現れたカオスの怪物が無気力に道を塞ぎます。


 ゆらゆらと幻覚のように田園の砂利道、および炎天の住宅街のアスファルトに現れる。


 四肢にくぐらせた月桂冠げっけいかんのフラフープは少年のために。

 右手にさなぎを、左手に氷菓を持つ。


 謎掛けを解かれると逃げてゆく繊細な怪物は、しかし今は謎々のストックが無く、無力に地面を叩きます。可愛いやつです。


 その間に、球体関節愛の人間は、後ろから少年を半分に切ります。


 ええ、切ります。少年という概念を。


 だって生まれて初めての、絶対の絶対に裏切られたくないって心から思えた約束、昔、したんだもの。


 だから、見つけて。


「サナトリウムの廊下を、来院者が外靴を履いたまま歩くような、無機質な音が続くイメージ。それから、心象の場面は向日葵畑ひまわりばたけへ変わる」。


 少年が愛したBGMを、見つけて。


 同じ感性を持った人間は、同じイメージを、ミツケルだろう。


 その時はじめて、少年は再び縫合ほうごうされる。


 きっと、神妙な夏景色は、心象の向日葵畑より、高彩度に咲キホコルだろう。





 

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