有刺肉詰都市景

 陽炎かげろうは現実に背を向けて立つよ。


 許せ、貴様のいやな香料。


 ガラス瓶入りの眼球が、有事ゆうじ胎動たいどうを告げている。


 WARNING……

 WARNING……

 WARNING……


 降り注ぐガスマスク高校生達の集団に注意。


 この現象は都市で不定期に発生中。


 既に、呼称をテロから災害へ切り替え。


 高い建物からの集団飛び降り。


 ハリガネムシの寄生を連想される行為に自由度は無く、彼らもまた被害者。


 原因は不明。すなわち重篤じゅうとくな自然災害。


 災害は無残むざんに頭部がひしゃげても復活し、ガスマスクの下に手を突っ込んで、襲った人間の肉片を喰らいます。


 


 蝋人形ろうにんぎょうは夕焼けに向かって走るよ。


 許せ、無様な夏の告白。


 毛髪と爪の生えた文庫本が、万事ばんじ終幕しゅうまくを告げている。


 WARNING……

 WARNING……

 WARNING……


 まだ人間が残っていた頃、この災害を未然に防ぐために、全ての高層物の屋上に幾重いくえにも張り巡らせた有刺鉄線ゆうしてっせん


 防火扉は既に破り壊され、今日も彼らは屋上へ続く階段を行進する。


 避難誘導を完了させた都市で、見棄てられた高校生達は、肉が削れるのも構わずに永遠を繰り返します。


 ざくりざくりと絶え間なく。


 彷徨さまよいます。


 もはや肉体の痛みを避けることもせず、都市が遺した有刺鉄線のウロボロスに喰われ続ける。


 この街は、そんな鈍色にびいろ薔薇ばらに覆われています。



 





 

 

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