共鳴式ロック音楽ヒトガタガ夏


 うだるような暑さの休み時間に、いつものように、教室でイヤホンをつけて、ロボットらしく黒板を見つめてひとりで座っていると、


「何聴いてるの?」


 誰にでも優しい女の子が話しかけてきて、両腕を僕の机の上に載せてきた。


 僕が聴くのは、バンドの曲ばっかりなんだ。ミーハーそうな彼女にこのバンドが分かるだろうか。


 懸念けねんや語りたいことは山ほどあるけれど、答える僕はあくまでも、自分に与えられたロボットの役割を続けなければならない。


「ロックです」 


「良かった! 私も好き」


 彼女は誰にでも優しい女の子だから、過度かどの期待をしてはいけない。


「シャカシャカしてたから」


 休み時間にイヤホンで音楽を聴くようになってから、ずっと音が漏れていたらしい。


 僕はかぁっとなって、ロボットの役割も忘れてあわてて音量ボタンを下げた。


 そんな僕を見て、彼女はクスクスと笑う。


「いいんだよ、そのままで」


 それから、彼女と僕は、なんの曲? 新曲の宇宙初うちゅうはつオンエアがあるの知ってる? 等といった二、三往復のやりとりをした。


「聴くようになったきっかけは?」


「どこかでたまたま流れていたラジオです。たしか、家の物置で見つけて、それ以来聴いています。我々向けのロックを探すのにはピッタリです」


 ロボットのぶんざいで、喋りすぎてしまったかと、再び顔がかぁっと熱くなる。


 彼女はにしし、と笑った。


「もうわかってるかもしれないけど、その番組、私も聴いてるよ」


「そうなのですね」


「あの番組で流れてる感じのロックが特に好きなの?」


「ええ、僕にはロックが必要だからです」


「ふぅん――あ、そうだ」


 彼女は何かを思いついたように、僕の飲みかけのペットボトル入りのさわやかな飲料を奪うと、いっきに飲み干した。


 間接的に触れたのだと自覚する合間も無かった。


「ロック。それは素晴らしいものです」


 めりめりと筋繊維きんせんいが引きちぎれる音がして、彼女の首が上の方にごりごりと回り始めた。


 首をかしげたかっこうで、彼女は、機械のように答える。


「ご覧の通り、私もロックを聴きます」


 頭部を一回転させた彼女は、ぎざぎざの歯を見せて、飲んだばかりの清涼飲料水を口からだばだばと垂らした。


「だから、仲間です」


 僕は中途半端な人間だから、首はほとんど回らない。


 回らないなりに、精いっぱい両手で自らの頭蓋ずがいをねじり上げて、誰にでも優しいというわけでは無さそうな彼女と共鳴を図ろうとする。



「そうなのですね。あなたも、非常にロックです」








   




 

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