第5話 機材を揃えよう
荒れに荒れた雑談配信が終わって、俺は配信用の機材を揃えるために深雪と共に近くの家電量販店に来ていた。
「なあ、機材っていっても何を買えばいいんだ?」
「んー、webカメラは必須かな。あとはPCだね」
「PCは持ってるぞ?」
「あれじゃスペックが足りないよ。最低でも15万円くらいのPCじゃないと」
「……マジ?」
「マジなのです!」
リュックから財布を取り出し、中身を確認してみる。
──ダメだ、7万円しか入ってない。
銀行に入れてある金を足したとしても、10万円くらいにしかならないぞ……。
「あー、悪い深雪。今は金が足りないから、また今度に──」
「払わなくていいんだよ?」
帰ろうとする俺を見て、深雪はきょとん顔で呟く。
まるで、自分が払うとでもいうような顔で。
「いやいや、そんな大金、さすがに持ってないだろ?」
「持ってるよ。お小遣いは貯めてるし、スパチャで稼いでるからね」
ドヤ顔で財布の中身を見せてくる深雪。
そこには1万円札や5千円札が、これでもかというほどギッチリと詰まっていた。
マジかよ……いや、本当にマジかよ……。
こんな金額、某テレビ番組の賞金くらいでしか見たことないぞ。
「末恐ろしいな、我が妹よ」
「ふっふ〜ん、この大金で、お父さんの負担を少なくしてあげるんだ〜!」
悪そうな顔をしてはいるが、言っていることは家族を大切に想う天使である。
「じゃあ、8万円分は頼んだぞ。その分は金が貯まったら絶対に返すから」
「えっ?」
「……え? まさか全額、払うつもりでいたのか?」
「うん!」
くっ、何というブラコン……!
ここまで重度になってくると、これからの未来が逆に心配になってくるぞ……。
「まあ、深雪は元々そういう人間だもんな。気持ちはありがたいけど、さすがに全部は払わせられないよ」
そう言って、俺は深雪の頭にポンと手を置き撫でた。
「むぅ……遠慮しなくていいのに」
深雪が何か呟いているが、気にしない気にしない。
◇◇◇
「ねえ、お兄ちゃん。私のアバターを描いてくれた絵師さんって知ってる?」
電器屋からの帰り道、俺は深雪に突然そう問われた。
「ん? ああ。アバターを見ただけで誰か分かったよ……かの有名な、
──江波ナオ。
デジタルの絵師界では名の知れた、自由奔放な女子大生だ。
同じ業界の端くれとして、俺が密かに憧れている人物の1人である。
「……まさか、会わせてもらえたり!?」
「うん! 5時ごろに家に来るみたいだから、早く帰ろ!」
よっしゃあ────って、え?
「……ごめん、聞き間違いかもしれないんだけど」
「あ、そろそろ家に着くってさ!」
……あぁ、そうか。
家に来るんだね、うん。
担当の絵師なんだし、面識があるのは分かるよ。
でもさ、家に呼ぶなら普通さ、もうちょっと事前に伝えておくべきものなんじゃないかな?
「なんか、もう……なんでもアリだな」
信じられないことが立て続けに起きすぎてるからか、前よりもリアクションが薄くなった気がする俺であった。
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