第2話 COMING OUT

「──お兄ちゃん。実は私、VTuberなんだ」


「──は?」


いきなり俺の部屋に入ってきて、何を言っとるんだ?

この妹は。


「Vtuberって……嘘、だよな?」


Vtuber。

俺の頼りない記憶によれば、確か2DCGとかで描かれたキャラクターを使って動画投稿や生放送を行う配信者のことだ。


「いや、本当のことだよ! ほら」


深雪はそう言って、俺にスマートフォンの画面を差し出してくる。


「個人勢VTuber、星音ほしのねきらる……チャンネル登録者数、15万人!?」


見ると、画面には黄金のティアラをかぶった青髪の可愛らしい少女のアイコンが映し出されており、その隣に太字で「チャンネル登録者数15万人」の文字が堂々と表示されていた。


「嘘だろ……いつの間に?」


「1年前! 最初は企業のオーディションとかに応募してみようと思ったんだけど、お父さんにバレたらマズいかなーって思って」


てへぺろ、と舌を出しながら苦笑する深雪。


……待て、落ち着け、落ち着くんだ、俺。

パニックで何も考えられないぞ。


「重ねるようで悪いんだけどさ──」


「なんだ? さっきの衝撃がデカすぎて、今はもう大抵のことじゃ驚かなくなってるぞ」


当たり前である。

妹がVtuberでした、なんて漫画やラノベみたいな展開、この一瞬で受け入れられるわけがない。

しかしそんな俺の心情など知ったことかというように、深雪は次の言葉を紡いだ。


「──お兄ちゃん、VTuber?」


さっきよりも、長い沈黙が流れた。


「……え、やだ」


言うと、深雪は再び真剣な表情になる。


「それは、どうして?」


「いや、仮に俺がライバー活動を始めたところで人気になれると思うか? 深雪は声も可愛いし性格も優しいし顔も良いから、人気になるのは当然だろうけど」


「ちょ、それは褒め過ぎだって……でも、私から見たらお兄ちゃんなら人気でると思うんだ。 絵も上手だし、話も面白いし」


顔を赤くしながらも、必死に俺を引き留めようとする深雪。

そう言われてもな……俺には絵師という仕事があるし、勉強も最低限はやらなくちゃだしな。


「それなら大丈夫だよ! 絵師をやりながらVtuberもやってる人って結構いるんだ。配信内で絵を描いてみたりすれば、絵師としての知名度も上がるだろうしね」


「……!」


なるほど、それは盲点だった。

確かに普通に絵師のみでやっていくよりも、Vtuberという立場を上手く使ってファンを獲得するほうが遥かに効率がいい。 


それに──。


「可愛い妹の頼み、だしな。……分かった、やってみるとしよう」


「──ほっ、ホントに!? やったぁ!!」


子供のように喜ぶ深雪が満面の笑顔で俺の肩に抱きついてくる。


「とりあえず、今日お兄ちゃんに話したかったことはこれだけ。明日は朝から雑談配信があるから、私は寝るねっ!」


「お、おう。おやすみ」


「おやすみ〜!」


それだけ言い残して、深雪は鼻歌を歌いながら部屋を後にしたのだった。


◇◇◇


「……VTuber、ね」

 

就寝時間に入った俺は、ベッドに寝転がりながら暗い天井を見て呟く。


今日は濃厚な一日だったな……深雪がVTuberだったことも知らなかったし、俺もその場のノリでVTuberになるって言っちゃったし。


「てか、VTuberって色々と費用がかかるんじゃないのか?」


……まあ、何とかなるか。


俺は深く考えるのを止めて、穏やかな眠りについた。


◇◇◇


私の名前は秋本深雪。

流れ星の欠片から生まれてきた妖精「星音きらる」として配信活動する、自称清楚系VTuberだ。

そんな私は今、喜びの極地にいる……。


──なんと、悠人お兄ちゃんがVTuberになってくれるのだ!


「……っ、やったぁ!」


嬉しさの余りベッドの上で飛び跳ねてしまう私。


私にとって、悠人お兄ちゃんは大好きで大好きで仕方ない存在である。

そんな悠人お兄ちゃんがライバー活動を始めてくれるなんて……この上ない幸せっ!


「えへへっ、この流れに乗って、あの二人も……」

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