VTuber、はじめました。
RYU
第1話 我が家の日常
早朝、まだ日が昇りきっていないころ。
静けさに包まれた街の中でも一つ、明るく賑わう住宅があった。
──そう、我が家である。
「おはよう……相変わらずみんな早いな」
俺の名前は
デジタル専門の絵師としてSNSで活動している、冴えない高校2年生だ。
……そんな俺には今、4人の家族がいる。
「もー、お兄ちゃんが遅いだけでしょ?」
ちょっぴりワガママだけど甘えん坊な妹、
「5時起きなら充分早えーほうだろ──っと、そろそろランニングの時間だわ。行ってくる!」
バリバリの運動系の兄、
「アタシもあの脳筋ぐらい運動すりゃあ、ちょっとはスタイル良くなっかな……」
いつもツンツンしている姉、
「おはよう、悠人。そろそろ父さんも仕事いってくるから、家のことは頼んだぞ」
目の下のクマが常に酷い父、
母さんは亡くなった。
……12年前、重度の肺炎を患って。
俺は一介の兄として、泣き叫ぶ妹の深雪を慰めることに専念した。
……でも、間違いなく一番ショックを受けていたのは深雪ではなく父さんだろう。
元々、父さんは母さんと共に働いて収入を得ていたので、片方が欠けた今、彼は俺たち家族の生活費を稼ぐために年中無休で働き続けているのだ。
もちろん、俺たちは父さんに無理をしてほしくないと考えている。
姉の柚葉はバイトをしながら読者モデルを目指しているし、兄の和哉なんかは有名なスポーツ強豪大学に推薦で通っているほどだ。
俺も、今はSNSで絵師として活動して収入を得ているが、安定しなくなったら自分の才能を活かして、意地でも大手の企業に就職するつもりである。
選考に落ちる可能性は勿論あるが、それなりに自信はあるつもりだ。
「よし、そろそろ俺も勉強はじめるか。……姉ちゃん」
「わーってるよ! ちゃんとイヤホンで聴くから!」
朝っぱらから爆音でデスメタルを聞く迷惑姉に釘を刺しつつ、朝食を食べ終えた俺は軽やかな足取りで自室の扉へと向かった。
◇◇◇
「さて、何から手つけるか……」
俺は机に並べた教材を一通り見て、勉強の優先順位を決めていく。
今日は学校も部活もない土曜日だが、ここで怠けると必死に勉強している奴らとの差が開いてしまうのだ。
「……まあ、とりあえず出されてた課題をやるか」
頬を叩いて己を鼓舞したあと、机の端に積んであるプリントの一枚を手に取る──そのときだった。
「お兄ちゃん、ちょっといいかな?」
聞きなれた声と同時に、ギシっと扉の軋む音が鳴る。
入ってきたのは、異様なまでに
「深雪……何か用か?」
ノックと同時に入っちゃ意味ないだろ、というツッコミは控える。
真面目な深雪のことだ、きっと必要以上に緊張しすぎて普段の冷静を保てていないのだろう。
「あのね、あのね」
「うん」
瞬間、場を支配する沈黙。
意を決したのか、震える深雪は両目を瞑りながら言った。
「──お兄ちゃん。実は私、Vtuberなんだ」
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