マオマオくん生誕秘話

魔王真緒〔マオマオくん〕が生まれた、あの日……

 これは、マオマオくんが生まれた日のお話──。


 コチの世界の魔王城『マオーガ』で、その日──新たな命が生まれようとしていた。

 魔王ダゾの妻である、某島国から一年前に連れ去られてきた王女『ヤサ・シーナ』は、ベットの上で魔物の侍女たちに見守られ。

 第一子の出産を行っていた。

「んあぁぁ……あぁぁぁぁあっ……あぁぁぁ!」

  予定日よりも早い陣痛がはじまり、魔物の侍女に手を握られて励まされているシーナの顔に汗が浮かぶ。

 魔王ダゾは、少し遠方に急用があって出掛けていて、急いで城へもどってきている途中だった。

「んあぁぁ……はぁはぁあああっ!」


 寝室には、侍女たちの他にも執事の『荒船・ガーネット』がいて、クモ頭で心配そうに王女の出産を見守っている。

 一つ目侍女の一人が言った。

「卵の先端が見えてきました、もう少しですシーナさま頑張ってください! 卵の色は金色です、リキんでください」

「んあぁぁ……んんっ!」

 王女の体からスルッと黄金の卵が出てきて、膨らんでいた王女の下腹部が凹む。

 産卵が終わったシーナ王女の口から、安堵の吐息がもれる。


 湯気が立ち上っている卵が少し動いたのを見て、荒船・ガーネットが木槌を持って待機していた。侍女姿の第四の壁越え女神『ロヴン』に言った。

「さあ、その手にした木製ハンマーで卵の殻を叩き割って、赤ちゃんに真の誕生の祝福を」

「怖いです……間違って殻だけじゃなくて、赤ちゃんの頭まで割ってしまったらと思ったら、手が震えます」

「大丈夫……自信を持ってハンマーを振り下ろしなさい」


 フラフラと異世界小旅行をしていて、旅費稼ぎのために、侍女のバイトをしていただけのロヴンは。

(まさか、こんな形で出産に立ち会うことになろうとは)

 と、思った。


 まだ温かい黄金の卵が、動かないように木枠で固定され。

 侍女ロヴンが、木製ハンマーを勢いよく振り下ろす。

 卵の表面に亀裂が走り、割れた卵の中から白身に包まれた男の赤ちゃんが産声をあげた。

 産湯で綺麗に体を洗われた男児は、温かい産衣に包まれて。

 母親のヤサ・シーナの枕元に寝かされ、対面をする。

 微笑むシーナ。

「はじめまして、あたしがママよ、これからよろしくね」


 我が子に挨拶を済ませたシーナは、寝具から上体を起こすと、床に下りて言った。

「体が軽くなったから産後の散歩に、中庭を歩いてるわね」

 卵で我が子を生んだ直後に散歩に行こうとする王女もスゴいが、その生まれた子はもっとスゴかった。


 パチッと両目を開けた生まれたばかりの子ともは。最初は小馬のような格好で立ち上がり。次に二本足で立ち上がると母親の後を追ってトコトコと歩き出した。

 カルガモのように、後をついてくる我が子に、シーナ王女は微笑み言った。

「あなたも、一緒にお散歩に行くの?」


 魔王城に帰ってきた魔王ダゾは、無事に我が子が生まれたコトを聞いて安堵の息をもらした。

「そうか、無事に生まれたか……今、母子は? 庭を親子で散歩をしている? 元気なのは良いことだ」

 魔王の玉座に座って、頭から生えている水牛角を、布で磨いて手入れをしていた若き魔王は、連続する城の揺れを感じた。

 魔物の兵士が慌てた様子で、玉座の部屋に駆け込んできて言った。

「大変です! 数十分前にお生まれになった、ご子息が壁の反動を利用した、真空三段蹴りをして遊んでいます」


 兵士からの報告を聞いて驚き、玉座からズリ落ちそうになる魔王。

「なにっ? 生まれてから間もない赤ん坊が、壁の反動を利用した真空三段蹴りだと!?」


 今度は別の兵士が部屋に飛び込んできて、慌てた様子で魔王に言った。

「ご報告します、生まれたばかりのご子息が、近くを通りがかった女神の侍女を、巴三段投げで遠方に投げ飛ばしてしまいました」

「なにっ? 赤子が侍女に、空中巴三段投げだと!?」


 少し考えてから魔王が兵士に言った。

「占い師を呼んでくれ」

 呼ばれて城にやって来た占い師は、遊び疲れて産衣に包まれてスヤスヤ眠っている、魔王の息子を占い驚きの声をもらす。

「こ、これは!? むむむ……ご子息は、遠方でお育てになられた方が。この子は幸せになります」

「遠方と言うと、どのくらい離れた場所で?」


「遠ければ、遠いほどいいです〝アチの世界〟でお育てを……数日後に勇者の一行が魔王城に到着します、その勇者に名づけ親になってもらい。転移魔法で城ごとアチの世界に移住を」

「わかった、我が子のために、転移魔法の準備をしよう」


 それから数日後──勇者『メッキ』の大パーティーが魔王城に到着した。

 勇者一行と魔物たちの宴を物陰から覗いていた、他人の肉体に何度も魂を入れ替えて生き延びてきた。

 西方地域の占い師『ググレ・グレゴール』が心の中で呟いた。


(早く、アチの世界へ移住してくれ……魔王の息子が、コチの世界に残ったら大魔王になって世界が滅びる……そうなれば、わたしの地位も危うくなる)



魔王真緒〔マオマオくん〕が生まれた、あの日……

~おわり~

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