第1029話 後片づけ
さすがにこの場で料理をするわけにはいかなかったので、最初に準備した薪が燃え尽きたところで終わりにしよう。トイレとお風呂の使用感については、そのときになって使ってもらうことにしよう。
「ユリウス様、お風呂のお湯はどうするのですか?」
「もちろん魔法で準備しますよ。その方が早いですからね。薪を使って水を温めていたら、かなりの量の薪が必要になりますので」
「そうでしたか。お湯も魔法で」
うーん、と考え込んでいるセレス嬢。俺たちがなんでもかんでも魔法で片づけているので、ちょっと困惑しているみたいだな。
確かに考えてみれば、魔法を攻撃以外に使うって珍しいのかもしれない。髪を乾かしたり、薪に火をつけたりくらいはするけどね。
「魔法って、奥が深いですわよね」
「そうだね。想像次第で、色んな使い方ができるってことだよ。そのためには、基礎的な魔法をしっかりと習得しておく必要があるけどね」
ファビエンヌも思うところがあったようだ。どうやらこれまで以上に魔法に興味を持ってくれたみたいだね。魔法の得意、不得意はあるかもしれないけど、訓練次第では色んなことに使えるのだ。
日はまだ高い位置にあるな。せっかくの機会なので、さっそくファビエンヌにガイアコントロールの使い方を教えようかな? ガイアコントロールを自在に使えるようになれば、ファビエンヌに頼ることができるからね。
「ファビエンヌ、さっそくガイアコントロールの練習をしよう」
「分かりましたわ」
「あの、私にも教えていただけないでしょうか?」
「もちろん構いませんよ。それではセレス嬢はイジドルに教えてもらってはどうですか?」
ちょっと強引にイジドルへ話を振る。まさか自分に話がくるとは思っていなかったのか、イジドルの目が大きくなった。だがそれも一瞬のことで、すぐに元に戻っていた。どうやら理解してくれたようである。
「ボクは構わないよ。ガイアコントロールは慣れるまでちょっと難しいからね。同時に二人を教えるのは難しいかもしれない」
「それではイジドル様に教えていただきますわね」
これでよし。これでさらにイジドルとセレス嬢の距離を近づけることができたはずだぞ。あとはイジドルのがんばり次第だ。がんばれ、イジドル。俺たちは少し離れたところでニヤニヤしながら見守っているぞ。
「ユリウス、俺はどうするんだ?」
「そうだった。たき火はみんなで見ながら管理することになるから暇だよね?」
「それでは、我々と打ち合いをやりませんか?」
すかさず先ほどから見守ってくれていた騎士たちが声をかけてきた。アクセルはロンベルク公爵家の訓練場でしっかりと鍛錬をしているみたいだからね。打ち合いをしてみたいと思う騎士は多いのかもしれない。
「よろしくお願いします」
「ではこちらに」
数人の騎士と一緒にアクセルが移動する。もちろんこちらの監視にも騎士が残っているぞ。
そんなわけで、俺たちはそれぞれ行動を開始した。たき火の火が消えるころまでにファビエンヌもセレス嬢もガイアコントロールをマスターすることはできなかったが、一歩前進することはできたようである。
「火も消えましたし、野営の練習はここまでにしておきましょう」
「そうですわね。明日は西の辺境伯領へ向けて出発しますものね」
「それじゃ、元の状態に戻しておくね。ガイアコントロール!」
イジドルが魔法を使うと、あっという間に平らな地面ができあがった。そこに先ほどまで小屋とトイレ、お風呂があったとはだれも思わないだろう。
さすがはイジドル。完璧にガイアコントロールを使いこなしているな。師匠として、鼻が高いぞ。
あとはたき火に使った石を適当な場所に分散して置き直せば、後片づけは完了である。
「魔法って便利だよな」
「なんだかもったいない気がしますわね」
「残して置いてもよかったような……」
アクセルとファビエンヌがなんだか複雑そうな顔をしている隣で、セレス嬢がなんだかとんでもないことを言っているな。
野営の訓練場所にそんな物があったら、野営の練習にならないと思うんだけど。もしかして使ってみたかった? それならそれで、西へ向かったときに野営を体験させてあげるのもいいかもしれないな。
野営の練習を終えた俺たちは屋敷へと戻った。ここからの作業は明日の準備と、西の辺境伯領までの、行程の確認である。
屋敷へ戻るとすぐに、ライオネルとネロがやってきた。どうやらすでにこちらの準備は整っているみたいだね。さすが。
「ライオネル、ネロ、ご苦労様。準備は終わったみたいだね」
「つつがなく準備は終わりましたよ。ロンベルク公爵家の方々と一緒に準備を行いましたので、荷物も分散して載せております」
「それで問題ないよ。それじゃ、さっそく確認しに行こうか」
大事なことはすぐに確認しなければ。あとから時間に迫られて確認作業をして、抜けがあったりしたら大変だ。今ならまだ、不足している物を足すことができるからね。
そう思っていたのだが、ネロからストップがかかった。
「ユリウス様、その前に休憩を入れた方がよろしいかと思います。みなさんも一息入れたいと思っているのではないでしょうか」
「そう言えばそうだね。野営の練習を始めてから休憩してなかったよ。それじゃ、みんなで休憩することにしよう」
いかんいかん、西の辺境伯領のことが気になって、つい、急ぎ足になってしまっている。ここで俺があせったところで何も変わらないのだ。それよりも、手抜かりのないように、慎重に動いた方がずっといい結果になるはずだ。
あせる気持ちを抑えて、みんなと一緒にサロンへと移動した。
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