第1028話 キャンプファイヤー
どうやら俺たちはちょっとガイアコントロールに精通しすぎたようである。イジドルはそのことに気がついているのかな?
そう思ってイジドルの顔を確認すると、「そういえばそうだった」みたいな顔をしていた。イジドルは俺と同じ穴のムジナになりつつあるようだな。俺としてはうれしい限りである。仲間ができたよ!
「まあ、あれだよ、さすが俺ってことだね」
「うん、それは間違いないな」
「そうですわね。さすがはユリウス様ですわ」
アクセルとファビエンヌがほめてくれたような気がする。なんだかあきらめが入っているような気がするけど。
セレス嬢はセレス嬢で、俺とほぼ同じことができるイジドルのことを尊敬のまなざしで見ていた。
「さすがですわ。ユリウス様もイジドル様も、すごい魔導師なのですね」
「ボクはユリウスのまねをしているだけだから、それほどでもないかも?」
謙遜するイジドル。どうしてそこで自分をアピールしないのか。せっかくのチャンスだったのに。
だが、そんな謙虚なところが、セレス嬢には好感触だったようである。その笑顔がますます笑顔になった。
「ユリウス、あの二人はそっとしておこう。続きをやろうぜ」
「そうだね。ガイアコントロール」
さりげない感じでガイアコントロールを使って、お風呂の周囲を壁で囲う。これでお風呂は完成である。もちろん出入り口はトイレと同じように、のの字型構造である。
これで「キャー! ユリウスさんのエッチー!」なことにはならないだろう。その前に、だれがお風呂に入っているのかを把握しているので、そもそもそんなことにはならないんだけどね。
「よし、せっかくだから、アクセルたちが作ったたき火を使って、火をおこしてみよう。薪とかあるのかな?」
「こちらに用意してあります」
「ありがとうございます。助かります」
俺たちを見守っている騎士の一人が薪を持ってきてくれた。どうやらここでの野営の練習で使っているみたいだな。もしかすると、一日、ここで野営体験をしているのかもしれない。
「ユリウス、いつものように魔法でかまどを作った方がいいんじゃないのか?」
「確かにアクセルの言う通りなんだけど、やっぱり初めての人たちには『基本のたき火』がいいかな、と思ってさ。それに、そっちの方が風情があっていいでしょ?」
「風情ねえ、そんなもんか?」
そう言いながらもたき火の準備をするアクセル。かまどなら魔法であっという間に作ることができるけど、それじゃ、ファビエンヌたちがすることがなくなるからね。
それならそれで、ファビエンヌにガイアコントロールを仕込むという方法もあるな。それができれば、庭の手入れや、薬草園の手入れも楽になるはずだ。
「ファビエンヌもガイアコントロールの練習をしてみる? 慣れるまでは難しいとは思うけど、少しずつ学んでいけばなんとかなると思うよ」
「そうですわね……私はユリウス様やイジドルほど魔法の才能はありませんが、せっかくなのでやってみますわ」
「それじゃ、決まりだね」
よしよし、これでファビエンヌと一緒にいる時間が少しは長くなったぞ。これまで一緒にいる時間は、お茶の時間か魔法薬を作る時間が多かったけど、これからは魔法の練習の時間が増えるのだ。
やる気が上がった俺はファビエンヌと一緒にアクセルを手伝う。もちろんファビエンヌに薪の並べ方を教えながらである。そのうち、イジドルとセレス嬢もやって来た。これでなにかあったときは、一人でも火をおこすことができるだろう。
「こんな形に並べますのね。暖炉を使っているときはいつも使用人がやってくれるので、しっかりと観察したことがありませんでしたわ」
「私もですわ。まさか薪の並べ方があるとは思いませんでした」
「適当でもなんとかなりますが、こうやって並べた方が失敗することなく、簡単に火を準備することができるのですよ」
薪の準備ができたところで、火をつけてもらうことにした。もちろん、点火は魔法で行う。簡単な魔法くらいなら、ファビエンヌもセレス嬢も使えるからね。
火が燃え移らないように、やけどしないように気をつけながら火をつけてもらう。
「うまく火がついたね。よくやったよ。これで野営の基礎は問題ないかな?」
初めてのことばかりでどうなるかと思ったけど、なんとかうまくいったようである。ファビエンヌもセレス嬢も満足そうな顔をしている。だれもケガすることなく終われそうなので、俺も大変満足である。
「料理を作るときはどうするのですか?」
「煮物を作る場合は、ここに長い棒で三角形を作って、そこに鍋をつるすんだよ」
ファビエンヌの質問に、身振り手振りをしながら答える。どうやら想像はついたようで、なるほど、とうなずいていた。
ここにちょうどよい棒があれば再現できたんだけど、残念ながらそこまでは準備されていなかった。さすがに料理まではやらなかったようである。
それもそうだよね。すぐそこには屋敷だけじゃなく、騎士団の宿舎もあるのだ。わざわざ面倒な料理をするわけがないか。
「肉や野菜を焼くときは鍋を手に持って焼くことになるな。それが嫌なら、別でかまどを作ることになるぞ。ユリウスとイジドルなら、あっという間に魔法で作るけど、普通は石を組み合わせて作ることになる」
「そうでしたか。さすがにかまどを作れるほどの石はなさそうですわね」
ファビエンヌが周囲を見渡してそう言った。そうなんだよね、どうやらたき火の練習はしても、かまどを作る練習まではしていないようだ。
魔法で作らなければ、かまどを作るのにそれなりの時間がかかるので、しょうがないかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。