第1027話 役割分担
そうして一度、自分のやり方を考え直したところで作業を再開する。
俺は俺しかできないことをする。残りはみんなに任せることにしよう。そうすれば、みんなの経験値もあがるはずである。
「それじゃ、アクセルたちはかまどの用意をして欲しい。まずはたき火の準備だね」
「了解だ。任せておいてくれ。その辺りにちょうどよさそうな石が転がっているみたいだからな」
そう言ってアクセルが周囲を見渡した。
確かによさそうな石がいくつも落ちている。さすが騎士たちが野営の練習をしてるだけはあるな。そのときに使ったであろう残骸が残されていた。
「ファビエンヌ、手が汚れると思うけど、あとで水魔法を使って洗えるから、そこまで神経質にならなくてもいいよ」
「分かりましたわ。家ではお庭や薬草園の手入れをしておりますので、心配はいりませんわよ」
「そうだったね」
思わず照れ笑いする俺。どうやら過保護すぎたようである。ちょっとうれしそうな顔をしたファビエンヌが、すぐにアクセルを手伝い始めた。
「ファビエンヌ様はお庭だけでなく、薬草園も作っておりましたのね。色々とお話を聞きたいですわ」
「もちろん構いませんわよ」
そんな話をしながら、セレス嬢がファビエンヌたちを手伝い始めた。
周囲にいる騎士たちが手伝うべきかとハラハラした様子だったが、俺たちがやっていることに理解を示したようで、手伝うことはなかった。
それでいいと思う。セレス嬢だって、自分の力で何ができるのかを試してみたいと思っているだろうからね。
まあ、そう思いながらも、俺もハラハラした気持ちでファビエンヌの動きを見守っているんだけどね。石を足の上に落としたりしないかな?
「ほら、ユリウス、何ボーッとしてるんだよ。ボクたちはボクたちの仕事をしないと」
「そうだったね。それじゃ、次はトイレを作ることにしよう」
「それじゃ、ボクが穴をあけるから、壁はユリウスがお願いね」
「了解だよ」
そうして二人でガイアコントロールを使って、数秒でトイレが完成した。扉はないが、のの字型にしてあるので、外からは見えないようになっているぞ。これなら外から声をかければ、人がいるかどうか分かるし、扉がなくても大丈夫だ。
「こんなもんかな」
イジドルと一緒にトイレの具合を確かめる。問題なさそうだな。これならそこそこ快適に用を足すことができそうだ。
「それじゃ、イジドル、次はお風呂だね」
「大きさはこのくらいでいいかな?」
そう言ってイジドルがお風呂建設予定地の地面に、棒で印をつけた。みんなで一緒にお風呂に入ることにはならないはずなので、これくらいで十分だろう。大人二人が入れるほどの大きさだ。
再びガイアコントロールを使い、お風呂を完成させた。あとは壁をつければ完成である。
こちらは小屋とは違うので、天井をつける必要はないぞ。露天風呂だね。雨が降っていても、どのみちぬれることになるので問題ない。
「この大きさなら十分だね。せっかくだから、装飾を施しておこうかな」
最近、ガイアコントロールの精度を高めたいと思っているイジドルがそう言った。せっかくなので、俺も一緒に鍛錬をしておこうかな。最近は移動やらなんやらで、魔法の訓練がまともにできていなかったからね。
どんなことでも基本が一番大事だと俺は思っている。
「いいね。俺も一緒にやろうかな」
「それじゃ、ユリウスも一緒に……」
「ちょっと、またとんでもない物を作ろうとしてないか?」
たき火の準備ができたのか、アクセルがこちらへとやって来た。ファビエンヌとセレス嬢は俺たちが作ったトイレを見学しているみたいである。
あ、出てきた。なんだか二人ともちょっと遠い目をしているな。
「アクセル、お風呂は必要だぞ?」
「それはそうだが、装飾は必要ないんじゃないかな」
「確かにそうかもしれない。よし、まずはお風呂を完成させよう。イジドル、壁を作るぞ」
「分かったよ」
苦笑いするアクセル。それもそうだな。つい、別の場所に力を入れるところだった。
そうしてイジドルと一緒にお風呂の壁を建設しようとしていたところに、ファビエンヌとセレス嬢がやって来た。
「お風呂もあるのですね」
「野営というものは、もっと何もない、不便なものだと思っておりましたわ」
困惑している様子のファビエンヌとセレス嬢。魔法のない世界での野営なら、確かにそうかもしれないな。テントを張って、簡易的なかまどを準備すれば終わりだろう。
当然、お風呂はないし、トイレもその辺のいい感じの茂みですることになるだろう。
だが、この世界には魔法があるのだ。そんな便利な物があるのなら、有効活用した方がいいに決まっている。
快適な野営になればなるほど、心身共に短時間で回復させることができるのだ。
「なければ作ればいいのですよ」
「いや、ユリウス、俺たちの野営は普通じゃないからな?」
「そうなの? やっぱり普通は魔力を温存しておくものなのか」
ううむ、なるほど。寝ればある程度、回復するとはいえ、魔法は切り札の一つだからね。ギリギリまでとっておくのがセオリーらしい。
そう思ったのだが、アクセルは首を左右に振っていた。どうやら違ったらしい。
「ガイアコントロールをここまで使いこなせるのは、ユリウスとイジドルくらいだからな? 普通はこんなことできないから」
本当にそうだろうかと思って集まってきた人たちの顔を見ると、大きくうなずかれた。どうやらそういうことらしい。
「……そうみたいだね」
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