第1025話 サロンで昼食

 アクセルたちと午前中にあったことのついての話をしていると、昼食の時間になった。どうやらロンベルク公爵家の使用人たちが気を利かせてくれたようで、今日のお昼はこのサロンで食べることになるようだ。


「ダイニングルームじゃなくて、たまにはこんな場所で食べる昼食もいいね」

「そうですわね。テーブルの上が少し狭いですけど、ギッシリと食べ物や食器の載っている光景は楽しいところがありますわね」


 テーブルの上には所狭しと色んな物が置かれている。ちょっとゴチャゴチャしているけど、ファビエンヌの言う通り、楽しい光景だ。


「ユリウス、そのジャムを取ってくれ」

「これだね。なんのジャムだろう?」

「それは野いちごのジャムですわ。私のお気に入りですのよ」

「それは期待できそうですね」


 アクセルにピンク色のジャムを渡していると、セレス嬢がそう言った。イジドルもそのジャムに手を伸ばしているので、試してみるようである。

 明日には西へ向けて出発すると言うのに、みんなに気負いはないようだ。もしかして、ヒシヒシと重圧を感じ始めているのは俺だけなのだろうか。

 みんなの命がかかっているからね。リーダーの俺がしっかりしなければ。


「ユリウス様、こちらのお肉もおいしいですわよ」

「いただこうかな?」


 ファビエンヌが持ってきてくれたお肉を食べる。うん。しっかりと肉の味がして、とてもジューシーでおいしいな。西へ行っても、ちゃんと食事を取るようにしないといけないな。


「西の辺境伯領では何か名物料理があるのかな?」

「山の山菜が有名ですわ。天ぷらにするとすごくおいしいですわよ」

「天ぷらか、いいね」


 山菜の天ぷらはおいしそうだな。あれ? アクセルとイジドルが首をひねっているところを見ると知らないみたいだな。

 そう言えば、揚げ物料理ってあまり見ない気がするぞ。油が高いということもあるのかもしれないけど。そのおかげで、ランプの魔道具がよく売れるし、生活必需品になっているのだ。


 首をひねる二人に気がついたセレス嬢が天ぷらとは何かを二人に説明していた。二人はますます気になったようで、向こうへ行ったら食べに行くことになった。

 少しは楽しみができてよかった。西の辺境伯領へ行くのは悪いことばかりではないと思いたい。


「ユリウス、魔法薬師たちへの指導は終わったんだよな」

「うん、無事に終わったよ。初級回復薬と解毒剤の二種類しか教えてないけど、それでも十分に効果があるはずだよ」

「そうだろうな。飲みやすい魔法薬があれば、がまんせずに頼ることができるからな」

「早めに治すことができれば、周りの人へ広まるのを抑えることができるもんね」


 アクセルとイジドルがうなずいている。その話を聞いたセレス嬢は心配そうだな。なんと言っても、領民たちの健康がかかっているからね。対応を誤れば死人が出るかもしれないのだ。心配するのは当然だろう。


 俺ももちろん心配ではあるが、そこは魔法薬師たちがしっかりと対応してくれると思うんだよね。今も追加で魔法薬を作っているだろうし、午後からもきっと作るはずだ。

 問題になりそうなのは素材の確保の方だと思う。領都には冒険者もいることだし、周囲は緑が豊かなので、まだまだ素材はたくさんあるとは思うけど、ちょっと心配だ。


「こんなことなら、ハイネ辺境伯家から魔法薬の素材を持ってきておくべきだったな」

「確かにそうですわね。でも、品質が落ちますわよ?」

「それもそうか。新鮮な素材を使った方が、効果が高いからね」


 中に入れた物が劣化しない「保存容器の魔道具」を作ればいいのだが、さすがにあれはまだ外には出せないな。使っている魔法陣が、まだこの世界にないみたいだからね。どこで見つけたんだって追求されると困る。「俺が開発しました」と言うわけにもいかないし。

 そんなことをすれば、今度は「魔道具神」って呼ばれることになってしまう。


「ユリウス様、午後からは出発の準備をしたいと思っています。何は特別に必要な物はありますか? あればそろえておきますよ」


 ネロが食事をする手を止めて、そう尋ねてきた。午前中は俺たちと一緒にずっといたからね。明日の準備が気になるようだ。

 そこはライオネルたちが対応してくれていると思うんだけど、一応、確認は必要かな? 不安要素はなるべく取り除いていた方がいいからね。


「そうだな、念のため、保存食を確保しておいてもらえないかな? 食料が手に入らないときがあるかもしれないし」

「分かりました。すぐに手配しておきます」


 もしかすると、食べ物が手に入らないときがあるかもしれないからね。西の山へ向かうことになれば特にね。

 そんな心配はしたくはないのだが、万が一を想定しておくのが俺の役目だ。そうなりそうなら、ファビエンヌをここへ置いて行きたいのだけど、それはよくないだろう。ファビエンヌの不信感につながりかねない。


「ユリウス、嫌な予感がするのか?」

「まだそこまでじゃないけど、何かあったときの備えだよ。なんの準備もしていない状態でそんなことになったら困るでしょ?」

「まあ、それはそうだな」

「それじゃ、午後からは野営の練習もしておく?」





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