第748話 結界の魔道具の試験について

 本日の昼食はダニエラお義姉様と一緒に食べることになった。そのときに、結界の魔道具の試験について話そうと思っている。

 ダニエラお義姉様に指定された、王族のプライベートスペースにあるダイニングルームへ向かう。そこにはダニエラお義姉様だけでなく、王妃殿下の姿もあった。


 なるほど、俺をここへ呼んだのは他にも意味があったようである。ライオネルとネロは今ごろ別の場所で食事を食べているはずなので、俺一人である。いや、違うか。ミラも一緒か。


「キュ?」

「頼んだぞ、ミラ。ミラだけが頼りだ」

「キュ!」


 任せんしゃい! とばかりに手をあげるミラ。その姿に勇気づけられて、テーブルへと向かった。俺がダイニングルームへやって来たことに、すぐに二人が気がついた。


「ごめんなさいね、急に呼び出しちゃって」

「いえ、とんでもないです。私からも聞いてもらいたいことがありましたので」

「あら、ユリウスちゃんからもお話があるのね。お互いにちょうどよかったということかしら?」


 王妃殿下がニコリと笑っている。裏のない、スッキリとした笑顔だった。どうやらアラーム付きの時計の魔道具を気に入ってもらえたみたいだな。ダニエラお義姉様も笑顔だ。


 席に座るとすぐに昼食が運ばれてきた。真っ白いパンに、黄金色のスープ。そのスープにはほとんど具はない。きっとスープの中にすべて溶け込んでいるのだろう。飲むのが楽しみだ。


 ライオネルとネロにも食べさせてあげたかったが、さすがにこの空間に二人を呼ぶのはやめた方がいいかな。俺はずいぶんと慣れてきたので、リラックスして食べることができるようになってきたけど、二人にはまだ無理だろうからね。


 今日の空模様や、タウンハウスでのできごとなどのたわいない話をしながら食事を進めて行く。ひとしきり味わったところで、ダニエラお義姉様がオレンジジュースを飲んだ。

 俺も先ほど一口飲んだけど、このオレンジジュースがスッキリとした味わいでおいしかったんだよね。どこで入手できるのか、ちょっと気になる。


「ユリウスが作った、アラーム付きの時計の魔道具は、国王陛下にも好評だったわよ」

「ありがとうございます。追加の魔道具は完成してますので、あとでお届けしますね」

「まあ、そうなのね。助かるわ~。今、ダニエラが持っている物をいただこうかと思っていたのだけど、それをしなくてもすみそうね」


 どうやら王妃殿下は相当気に入ったようである。だって、ダニエラお義姉様が持っている物を取り上げようとしているのだから。

 間に合ってよかった。下手すると、ダニエラお義姉様の機嫌が損なわれるところだったぞ。


「そこまで気に入っていただけるとは思いませんでした。これなら商品として売り出しても、利益が得られそうですね」

「それは間違いないと思うわよ。ところで、ユリウスからも話があるみたいだけど?」

「はい。結界の魔道具の修復が終わりました。それで、性能試験を行いたいと思っているのですが、それには魔物がいる場所に行く必要がありまして」


 そこまで俺が言ったところで、ダニエラお義姉様と王妃殿下が顔を見合わせた。二人の目が大きくなっている。どうやら驚いているようだ。もしかして、修理できないと思われていた?


「思ったよりも早いわね。どんな仕組みになっているのか、聞いてもいいかしら?」

「もちろんですよ」


 結界の魔道具には、魔物に対しての視認性の阻害効果と、忌避効果があることを二人に話した。それを聞いた二人はちょっと眉を寄せていた。どうやって試験をするべきか考えているのだろう。俺もどうするべきか、悩んでいた。


「う~ん、危険だけど、魔物が生息している場所に行って試験をするしかなさそうね」

「お母様もそう考えますよね。私もそう思います」


 まあ、それしかないだろうな。実際に魔物がいる場所に行って、そこで数日、過ごしてみる。それで安全性を確認するしかないだろう。他の人にも一緒に行ってもらって、複数の場所で試験をすれば、それなりに有用性も確認できると思う。


「問題はだれが試験をするか、なのよね~。ユリウスちゃんは当然、行くつもりなんでしょう?」

「もちろんですよ。私が修理しましたからね。何かあったときの責任は、ちゃんと取るつもりです」

「そうよね~、やっぱりそうなるわよね~」


 そう言って困った顔になる王妃殿下。そのままその顔をダニエラお義姉様の方へと向けた。あ、なんとなく言いたいことが分かったような気がするぞ。できることなら、俺もそれを全力で止めたい。


「それなら私も一緒に行くわ。ユリウスの姉として、当然よね?」

「やっぱりそうなるわよね~」

「そうですよね。それなら……カインお兄様や私の友達にも声をかけたいと思います」


 ダニエラお義姉様の安全を確保するためには手段を選べないな。申し訳ないけど、みんなにも協力してもらおう。

 王妃殿下を見ると、納得したようにうなずいていた。


「アクセルちゃんとイジドルちゃんね。うん、そうね。ハイゾンビに黒い魔物を倒した実績のある子たちがそばにいるなら、安心かもしれないわね。ダニエラは考え直すつもりはないのでしょう?」

「もちろんですわ。私も戦うことができますから、なんの問題もありませんわ」


 うーん、ダニエラお義姉様に杖術を教えたのは失敗だったかな? どうやらダニエラお義姉様にさらなる自信をつけさせてしまったようだ。帰ったらアレックスお兄様に怒られそう。

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