第747話 アラーム付きの時計

 ミーカお義姉様が安心してかわいい服を着られるようになるのは、カインお兄様と正式に結婚式を挙げてからになるんだろうな。そうすれば、ミーカお義姉様には辺境伯という後ろ盾がつく。


 そしてそのさらに後ろ盾には、王家の影が見え隠れしているのだ。そんな家に攻撃を仕掛けて来るような貴族はまずいないだろう。

 ミーカお義姉様の実家は子爵家だが、子爵家以上の身分を持つ家はそれなりにいるからね。その家から圧力をかけられたら、どうしようもないはずだ。


 ラニエミ子爵家は王都在中の貴族だからなー。そのため、特定の場所に領地を持っていない。それが原因で他の貴族よりも軽んじられることがあると、家庭教師の先生から教わったことがある。貴族制度も大変だな。


「それでは、近いうちに私もラニエミ子爵家へあいさつに行った方がいいですかね?」

「そうね、今以上に親密になっておくことは悪いことではないわ。ユリウスにも、家と家のつながりは必要だものね」


 そんなわけで、近いうちにラニエミ子爵家へ行くことになった。手土産として、便利な魔道具をいくつか持って行こうと思う。もちろん、開発したばかりのタイマーと、アラーム付きの時計も持って行くぞ。


 他には何がいるか分からなかったので、ダニエラお義姉様に聞いておいた。だが、向こうは俺のことをよく知っているらしい。俺の作った魔道具はほとんど持っているようだった。


 ピピピッとアラームが鳴った。ちょっと驚いた様子のダニエラお義姉様に目配せして、アラームを止めてもらう。魔道具上部のスイッチを押すとすぐに音が止まった。


「これはこれで使いどころがありそうね」

「朝、起きるときに使うのはどうかと思っています」

「いい考えね。これなら寝坊して、使用人に起こされることもなさそうだわ」


 ジッとアラーム付きの時計を見つめるダニエラお義姉様。どうやら寝坊して使用人に起こされたことがあったようである。もちろん俺も何度もあるぞ。目覚まし時計がなければ、朝起きるのは無理だよね。むしろ逆に、使用人たちがどうやって起きているのか、不思議に思うくらいだ。


「しばらくは試しに使ってみようかと思っています。よろしければ、ダニエラお義姉様にも試していただけないでしょうか?」

「もちろんよ。これは売れるわ。お母様にもお渡ししたいと思っているのだけど、どうかしら?」

「分かりました。それでは用意しておきますね。差し出がましいとは思いますが、国王陛下の物も用意しておきますね」

「よろしくお願いね」


 予定通りだな。ダニエラお義姉様はアラーム付きの時計を気に入ってくれたようである。このまま国王陛下と王妃殿下を通して、宣伝してもらうとしよう。ダニエラお義姉様もきっとそのつもりのはずだ。王族が持っているとあれば、宣伝効果はバツグンのはずだからね。

 あとはそこから、商人や庶民へと広めて行けばいいはずだ。


 さっそくダニエラお義姉様たちの魔道具を作りつつ、ミラと遊びつつ、その日は寝る時間になった。寝る前にファビエンヌへ連絡を入れることも忘れない。お互いに離れているからこそ、連絡を密にしないとね。


 ファビエンヌはミーカお義姉様が正式にハイネ辺境伯家の一員になったことを喜んでいた。頼れる姉が一人増えたと思っているのだろう。俺もそう思う。


 ハイネ辺境伯家でのホーリークローバーの栽培はうまくいっているようである。引き続き聖なるしずくを作ってもらいつつ、あまりそうな分をこちらへ送ってもらうことにした。

 これで王都周辺でのホーリークローバーの栽培が軌道に乗るまでは、なんとかなるだろう。




 翌日、ダニエラお義姉様にアラーム付きの時計を渡してから、一緒に王城へと向かった。どうやらさっそく売り込むつもりのようだな。それなら急いで追加分を作らないといけないな。


 アラーム付きの時計の魔道具を作りながら結界の魔道具にも手を加える。昼頃になって、ようやく形になってきた。

 それはいいのだが、ちょっとこれは難易度が高いかもしれないと思い始めていた。


 思った以上に積層魔法陣が難しいような気がする。これまでにはない構造だからね。お互いの魔法陣を結ぶ回路がどうしても複雑になってしまうのだ。

 それだけではない。装置の中をあちこち経由する必要があるので、内部構造も複雑になる。


「これ、作れるかな? ネロはどう思う?」

「今の私ではとても無理ですね。ですが熟練の魔道具師ならきっと大丈夫なのではないでしょうか?」


 ネロも首をひねっている。そうは言ったものの、確信は持てないようである。ネロは本格的に魔道具を作り始めたばかりだもんね。魔道具の作成難易度までは、まだよく分からないのだろう。俺だって正確には分からないからね。


「よし、試しに設計図を渡して作ってもらうか。でもその前に性能試験だね。問題ないとは思うけど。でも、どうやってやろうかな?」


 魔物にしか反応しないからなー。試験するには、実際に魔物がいる場所まで行く必要がある。魔石だけでは試験することはできないのだ。これは結界の魔道具が正式に評価されるまでには時間がかかってしまうかもしれないな。よし、まずはダニエラお義姉様に相談だ。

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