第746話 今ひとつの性能
驚くライオネルに、結界の魔道具が動くようになったことを話した。ライオネルは結界の魔道具のことをあまり信じていなかったのか、ものすごく驚いている。
「さすがはユリウス様ですな。しかし、本当にこのような魔道具があったとは。これは大騒ぎになりますよ」
「そうかな? それじゃ、俺が修理したことは内緒にしてもらうことにしよう。きっと理解してもらえると思う」
俺の返答に苦笑いするライオネル。どうやらライオネルも国王陛下が俺に遠慮があると思っているようである。
どうしてこうなっちゃったかなー。俺ってそんなに傲慢に見えるかな? そんなつもりはまったくないのだけど。これからはもっと用心した方がいいのかもしれない。
「すぐにダニエラ様に報告へ向かいましょうか?」
「いや、それはまだしなくていいよ。まだやるべきことがあるからね」
「やるべきこと?」
「性能試験だよ。この魔道具がどのような仕組みなのかを理解しないといけないからね」
それもそうだと思ったのか、ライオネルとネロがうなずいている。
もちろん性能試験もするが、魔法陣の変更も行うつもりだ。俺が知っている結界の魔道具も積層魔法陣にする必要があるし、ちょうどよい。
二人と一緒に試験を行う。どうやら魔石に反応するようで、魔石が通過するときに、バチッと電流のような物が魔石に流れる構造になっていた。
たぶん反応しているのは魔力だろうな。魔石と周辺に集められた魔力がお互いに干渉しているのだろう。
人間で言うところの心臓のように、魔物は魔石を体内に必ず持っている。それに外から干渉することで、魔物が近づくのを阻止しているのだろう。
弱い魔物ならこれで十分そうだが、強い魔物なら気にせずに結界を通過しそうな気がする。
やはり俺の知っている魔法陣に変更した方がいいな。俺の作る結界の魔道具は、体内に魔石を持つものが、結界の張られている場所を認識できなくなるようになっている。ついでに言えば、無意識に忌避する効果もある。つまり、最初から魔物が近づいて来られないのだ。
体全体が魔石のような構造になっている黒い魔物にも、間違いなく効果があるはずだ。いや、魔物以上に効果があることだろう。
よし、覚悟を決めよう。ゲーム内にあった結界の魔道具に切り替える。
俺は性能試験をしつつ、魔法陣の改良を行うことにした。ライオネルも魔石が反応するだけの魔道具にはちょっと頼りないと思っている様子だった。
何度も俺に”これで大丈夫なのか”と聞いてきたくらいだからね。
そんなわけで、二人の意見を聞き入れたという体にして、魔法陣を描き直すことにした。そしてそれをする場合、結界の魔道具の完成までには今しばらくの時間がかかることになる。そのため、今日のところは改善点を洗い出すところまでで終わることにした。
王城からタウンハウスへ戻ると、すでにダニエラお義姉様が戻ってきていた。もちろんミラも一緒である。俺を見つけたミラが飛びついてきた。おお、よしよし。
寂しかったのかな? 俺も癒やしがなくて、ちょっとささくれた気分になりつつあるところだったのでちょうどよかった。ここぞとばかりになでまわしておく。
「ユリウス、何も問題はなかったかしら?」
「特には何もありませんでしたよ。一応、結界の魔道具の修理は終わったのですが、性能が今ひとつだったので、改良することにしました。完成までにはもう少し時間がかかりそうです」
「あらあら」
あ、ダニエラお義姉様が遠い目をしている。修理だけにとどまらず、さらに改良を加えようとしていることに対して、気が遠くなったようである。ダニエラお義姉様は結界の魔道具が修理できればそれだけで十分だと思っていたのかな? でもね、役に立たなければ意味がないと思うんだ。
「そうでした。昨晩、みんなで話した通りに、タイマーの魔道具を改良しておきましたよ。それに伴って、新しい魔道具が増えました」
「それは、えっと」
「これです。アラーム付きの時計の魔道具です」
「アラーム付きの時計の魔道具」
ダニエラお義姉様の前に四角い魔道具を置いた。正面にはデジタル時計が見えているはずだ。卓上用の時計だと思ってくれることだろう。だがしかし、上部には少し大きめのスイッチがついている。気になったのか、それをダニエラお義姉様が押していた。
「この魔道具は設定した時間が来たら、音で教えてくれる魔道具です。ダニエラお義姉様が触っているスイッチを押すと、音が止まる仕組みになっています。ちょっとやってみますね」
そう言ってから、アラームを十分後にセットする。もちろんやり方をダニエラお義姉様に教えながらである。それほど複雑ではないので、一度使ってみれば、だれでもできるようになるだろう。
アラームがなるまでの間に、ダニエラお義姉様の首尾を聞くことにした。
「カインお兄様は無事にラニエミ子爵家に滞在することになったみたいですね」
「ラニエミ子爵夫妻が喜んでいたわ。やっぱりミーカさんがいなくて寂しく思っていたみたい」
「ミーカお義姉様はあまり帰りたくなさそうでしたね」
そのことを話すと、ダニエラお義姉様が困ったように眉を下げた。どうやら何か原因があるようだ。俺が聞いて良いのやら、悪いのやら。
だが、ダニエラお義姉様は俺に話すことにしたようだ。
「ラニエミ子爵夫人がミーカさんにかわいい服を着せたがるのよ。でも、ミーカさんはそれを嫌っているの。そんな服を着たら、悪い虫が寄ってくるってね」
ああ、なるほど。ミーカお義姉様は小柄でスタイルがよくて、守ってあげたいタイプだもんね。以前にそれで嫌な目に遭ったって言ってたっけ。だからかわいい服を着るのが嫌なんだろうな。
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