第749話 仲間を集めて

 結界の魔道具を試験するために、王都から一番近い場所にある魔境へ行くことになった。詳しいことはダニエラお義姉様と王妃殿下が決めてくれるようだ。それならばと言うことで、俺は一緒に行くメンバーを集めることにした。

 昼食を終えた俺はすぐにライオネルとネロへそのことを話した。


「やはりそうなりましたか。しかし、ダニエラ様もご一緒することになるとは思いませんでしたな」

「この間の黒い魔物の討伐が影響しているのかもしれないね。ダニエラお義姉様がそれで自信をつけてしまったのかもしれない」

「それは……困りましたな」


 どうやらライオネルは本当に困っているようである。眉がこれまでにないほど垂れ下がっている。ライオネルにとっては、俺一人でも大変そうだからね。そこに王族であるダニエラお義姉様が加わったら、とんでもないことになると思っているのだろう。


「カインお兄様とミーカお義姉様、それにアクセルとイジドルにも参加してもらおうと思っているよ。このメンバーならお互いのことが分かっているし、実力も申し分ないと思う。どうかな?」

「それがよろしいかと思います」


 ライオネルが何度もうなずいている。頼りになる人が多くなれば安全性も高まるからね。間違っても、前回の黒い魔物の討伐隊を呼ぶべきではないな。

 彼らにはあまり危機感というものがなさそうだった。結界の魔道具があるからと言って、気が緩みそうな気がする。


 今回は性能試験なので、あくまでも結界の魔道具はおまけのような存在で扱わなければならないと思っている。しっかりと周囲を警戒して過ごさなくてはいけないのだ。

 善は急げとばかりに、アクセルとイジドルを探す。今日は訓練場で打ち合いをやっているみたいだった。イジドルが一方的に打たれてるみたいだけどね。


「アクセル、イジドル」

「おう、ユリウスじゃないか。どうしたんだ、厄介事か?」

「ユリウス! 助かった~。聞いてよ、ユリウス。アクセルがさ~」


 どうやらイジドルは相当追い詰められていたようだ。プンプンとほほを膨らませて俺の不満を言ってきた。そんなイジドルを見て、ちょっとやりすぎたと謝るアクセル。自分と打ち合える友達が増えてうれしいんだろうな。もちろんその中には俺も含まれていることだろう。


 二人を近くのサロンへ誘う。訓練の途中だったのだが、ダニエラお義姉様の名前を出して二人を連れ出した。もちろん何か文句を言ってくるような人はいなかった。視線は感じたけど、気にしない。


「訓練中に呼び出してごめんね。二人に頼みたいことがあってさ」

「別に構わないさ。ダニエラ様からの指名なら断るつもりはないからな」

「ボクたちも注目されるようになったよね~」


 俺がダニエラお義姉様の名前を出したときの光景を思い出したのか、イジドルたちょっと遠い目をしている。周囲にいた人たちの視線が集まったからね。二人も一目を置かれる立場になりつつあった。


 でも、悪いことばかりじゃないと思うんだよね。二人の後ろにはダニエラ様がいるぞってことにつながるのだから。常識がある人なら、二人に妙なことはしないだろう。むしろ逆に、これまでよりも丁寧に扱うはずだ。


「それで、何があったんだ?」

「結界の魔道具の修理が終わったんだ。それで、その性能試験につき合ってほしい。ダニエラお義姉様も一緒なんだ」

「なるほど。そりゃ大変だな。万が一のことがあるとまずい」

「アクセルの言う通りだね。もちろん協力するよ」

「俺も協力するぞ。それに、楽しそうだからな。結界の魔道具か~。超気になるぜ」

「ありがとう。本当に助かるよ」


 まさにワクワクと言って間違いない顔をするアクセル。イジドルも期待しているのか、アクセルほどではないが、顔を輝かせていた。

 そう言う俺の顔も輝いているんじゃないのかな? この試験がうまくいけば、多くの人たちが救われることになるだろうからね。そこへ俺が改良した魔法薬が届けば、何をか言わんやである。その日が来るのが待ち遠しいな。


「カインお兄様とミーカお義姉様にもお願いするから、そのつもりでいてほしい」

「おお、七不思議探索メンバー再び、だな。ますます楽しみになってきた」


 アクセルの返事に、イジドルもうなずいている。一緒に戦った仲間だからね。身分の差はあれど、そこには壁がないようだ。これなら問題なさそうだ。

 そのまま話が盛り上がっているところに、ダニエラお義姉様がやって来た。もしかして、もう話がまとまったのかな?


「アクセルとイジドルからの協力を取り付けることができたみたいね」

「二人とも喜んで引き受けてくれましたよ」

「頼もしいわね。大体の話がまとまったわ。国王陛下も、早く例の魔道具が使えるようになることを望んでいるわ」


 真剣な表情をしたダニエラお義姉様が俺たちを見つめた。例の魔道具と言っていることから、まだ結界の魔道具のことは秘密にしておきたいようである。

 何か政治的な問題でもあるのかな? でも期待をしているところを見ると、他から横取りされることを恐れているのかもしれない。ラザール帝国とかね。


「ダニエラお義姉様、試験をするのは私たちだけなのですか?」

「それなんだけど、あと二組ほど追加したいみたいなのよ。追加の魔道具を作ることはできるかしら?」

「時間をいただけるのなら、問題ありませんよ」

「分かったわ。準備にもう少し時間がかかりそうだから、あせらなくても大丈夫よ」

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