第735話 やつらの狙い
チラリとダニエラお義姉様を見ると、困ったように眉が下がっていた。これは間違いないな。国王陛下が来るようだ。そうなると、王妃殿下も一緒に来るのかな?
カインお兄様とミーカお義姉様が借りてきた猫みたいに、ならなければいいんだけど。向こうは俺たちから、詳しい事情を聞きたいと思っているはずだ。
ここは二人に心の準備をさせるためにも、俺が聞いておこう。
「ダニエラお義姉様、国王陛下がいらっしゃるのですよね? 王妃殿下も一緒ですか?」
「ええ、そうね。二人とも一緒に来るみたいよ」
「ヒェ」
声を上げたのがどっちなのかは分からないが、二人ともすでに顔色が悪くなっている。
これはまずいな。このままだと、俺一人ですべてを説明することになってしまう。それでもいいんだけど、意見に偏りが出てしまう可能性があるんだよね。
俺には簡単に倒せた相手だったとしても、他の人が戦えば、また違った評価になるのは間違いない。
今回、メインで戦ったのはカインお兄様とミーカお義姉様だし、ここは頑張ってもらわなければ。
ダニエラお義姉様と一緒にカインお兄様とミーカお義姉様をなだめていると国王陛下と王妃殿下がお出ましになった。
少しはマシになっていた顔が、再びカチコチになる二人。これはもうダメかもしれない。
「急に呼び出してすまなかった。直接、本人たちから話を聞きたくてな。それに、調査の進み具合も聞きたいだろうと思ってね」
「ごめんなさいね。これには口止めの意味合いもあるのよ。黙っていたら、独自で調査しそうだのもね?」
そう言って、王妃殿下がダニエラお義姉様の方を見た。それからその視線を俺たちへと送る。
確かにその可能性は高いな。もちろん俺も気になるし、きっとカインお兄様とミーカお義姉様も気になることだろう。
そこで俺たちに動かれて、それが原因で国中に妙な情報が行き渡ると困る。そんなところだろう。これはハイネ辺境伯家にも連絡が行っているな。カインお兄様とミーカお義姉様も自分たちが呼ばれた事情を理解したようで、ちょっと落ち着いた顔になってきた。
もしかして、怒られるとでも思っていたのかな? そんなことないのに。むしろ逆に、ほめられるのではないかと思ってる。だって、黒い魔物に臆することなく、勇敢に戦ったのだからね。
あそこで逃げていたら、観客たちに被害が出ていたことだろう。そんなことにでもなっていたら、この程度の騒ぎでは収まらなかったはずだ。王都は混乱し、王立学園も年単位で閉鎖していたかもしれない。
「まずは、みんなよくやってくれた。キミたちが勇敢にも黒い魔物へ立ち向かってくれたおかげで、被害はなかった。感謝しているぞ」
「もったいないお言葉です」
背筋を伸ばして、最初に返事をする。このメンバーの中で一番、王族に耐性があるのは俺だ。俺がやらねばだれがやる。
ダニエラお義姉様も一緒に戦っていたなら、ダニエラお義姉様なんだけどね。さすがにあのときは一緒に連れて行くわけにはいかなかったし。
「大したことではありません」
「いえ、そんな……」
カインお兄様とミーカお義姉様もそれに続いた。ちょっと声が固かったり、震えていたりしているけどね。このくらいなら問題なし。返事をしないのが一番困ることになるのだ。
「脅威を未然に防いでくれた恩賞を与えよう。宝物庫から好きな物を持って帰るといい」
それって、ライオネルとネロもだよね? 実にありがたいことである。みんなで声をそろえてお礼を言った。それを満足そうに聞いていた国王陛下が表情を改めた。俺たちも姿勢を改める。
「どうやら、剣術大会の優勝者を狙ったようだな。スペンサー王国の若き獅子を殺害することで、こちらの権威を落とそうとしていたようだ。もちろんそこには王立学園の評判を地に落とす狙いもある」
「やはり隣の大陸からの者だったのですか?」
「そうだ。本人は否定しているが、こちらも色々と調べたからな。間違いない。もっとも、他にも情報を引き出すために、こちら側は知らない振りをしているがね」
どうやらこれでラザール帝国が関与していることが確定したようだ。一体、あの国は何を考えているのだろうか。精霊の力をないがしろにするような政策をとって、国内を疲弊させているのに、他国を狙うとは。その前に足下を固めた方がよいのではないだろうか。
「あの黒い水晶はなんだったのですか?」
「どうやらけがれを封じ込めたものらしい」
「触っても大丈夫なのですか?」
「ああ。そのための水晶だそうだ。どうやら水晶の中に封じ込めることで、持ち運べるようにしているようだな」
まさかそんなことができるだなんて。俺の知らない技術だな。あのサイズの水晶なら、簡単に国内に持ち込むことができるだろう。すべての船を隅から隅まで調べることはできないだろうからね。これは厄介なことになってきたぞ。
「この国が狙われているということでしょうか?」
「それが、どうやらそうでもないようなのだよ」
「それはどういう?」
ダニエラお義姉様が首をかしげている。黒い水晶が見つかったのは、まだこの国だけのはずだ。ラザール帝国の狙いがスペンサー王国であることは間違いないような気がするんだけど。
「今回の作戦はうまくいっても、うまくいかなくても、どっちでもよかったらしい」
「それは……他の国にも同じようなことを仕掛けているからでしょうか?」
無言で国王陛下がうなずいた。これは予想以上に厄介なことになりそうだぞ。スペンサー王国はともかく、他の国ではまだ対策がとれていないはずだ。そこに黒い魔物が現れたりしたら、大変なことになるぞ。
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