第736話 戦いの話と宝物庫
重苦しい空気を変えようとしたのだろう。国王陛下が黒い魔物との戦いについて聞いてきた。
これにはカインお兄様とミーカお義姉様が対応した。もちろん、俺たちも補足を付け加える。
「なるほど。よく分かった。戦った者から、実際の話を聞いておいてよかった。こちらにも別の者から報告はあったのだが、どうも微妙に分からないところがあったのでな」
国王陛下が苦笑いしているところを見ると、黒い魔物との戦いを”取るに足りないもの”として報告した人がいるのかもしれないな。
確かに聖剣で倒したわけではないので、そのように判断する人もいるのかもしれない。
だが、実際には普通の剣では対応できなかったし、対応を間違えば、被害が大きくなっていた戦いだったのだ。あの場でとっさにあれだけの連携が取れたのは、俺たちがタウンハウスで特訓をしていた成果だと俺は思っている。ムダにならなくてよかった。
「スペンサー王国に素晴らしい戦士が現れたことを、うれしく思うぞ」
「もったいないお言葉です」
国王陛下から視線を受けたカインお兄様とミーカお義姉様がそろって頭を下げる。顔が赤くなっているので、うれしいんだろうな。俺も二人が評価されたのがとてもうれしい。
そしてその視線は俺の方へも向いた。
「ユリウスには世話になってばかりだな。ユリウスが作った魔法薬がなければ、この国だけでなく、この大陸のすべての国が混乱することになっていたかもしれない」
「ありがとうございます。お役に立てて何よりです」
どうやら俺の評価はまたあがってしまったようだ。まだ俺の名前は表に出ていないと思うが、そろそろ身辺に気をつけた方がいいのかもしれない。
「国王陛下、黒い水晶の作り方は分かったのでしょうか?」
ダニエラお義姉様の質問に、みんなの視線が国王陛下へと向いた。確かに気になる話である。簡単にアレが作れるようなら、これからはさらに警戒しなければならなくなる。
下手に手を打つと、国の経済が滞ることになってしまうことだろう。毎回、荷物チェックをされていたら、商人たちが立ち行かなくなる。
「いや、まだ分かっていない。引き続き調べているが、分かるまでには時間がかかるだろうな」
「そうですか。それでは警戒が必要になりますね」
「捕らえた者は他に持ってはいなかった。そう考えると、それほど簡単には作れないのではないかと思っている」
その情報だけでもありがたいな。これから港の荷物検査は厳しくなるだろうし、これまでみたいに、簡単に持ち込むことはできなくなるはずだ。黒い水晶が原因だって分かっているからね。
これは港にも聖なるしずくを常備しておく必要がありそうだ。他国に渡すことにもなるだろうし、これからしばらくは忙しくなりそうだぞ。王都にいる場合じゃない。できるだけ早くハイネ辺境伯家へ帰らないとね。
国王陛下との会談も終わり、俺たちはそのまま報酬をもらいに行くことになった。そう。これから俺たちは城の宝物庫へと向かうのだ。
「宝物庫にはどんな物があるのか楽しみですね」
「聖剣はさすがにないだろうな。でも、有名な剣ならあるかもしれない」
「剣だけじゃなくて、鎧なんかもありそうね。不思議な魔道具なんかもあるのかしら?」
カインお兄様とミーカお義姉様は元気が戻ってきたようである。さっきまでちょっと疲れた感じになっていたからね。ようやく報酬がもらえるという実感が湧いてきたのだろう。
ライオネルとネロはまだちょっとそわそわしている様子だ。
「今度は私も一緒に戦えるようになりたいわね」
「やめて下さいよ、ダニエラお義姉様。杖術を教えているのは、あくまでも護身用ですからね。前に出て戦う用ではないです」
「それは分かっているけど、いつも守られてばかりというのは……」
「それが私たちの役目ですから」
キッパリとそう言うと、ちょっと不服そうにしたダニエラお義姉様がほほをプクリとさせていた。そんなかわいらしい表情をしても、ダメなものはダメですからね。
騎士たちに案内されて、宝物庫までやってきた。思っていたよりも普通の扉である。
「ここが宝物庫ですか」
「なんか、それっぽくないですよね?」
不安そうに瞳を曇らせたカインお兄様がダニエラお義姉様に尋ねる。俺もそう思っていたし、ミーカお義姉様たちもそう思っていたようだ。うなずいているのが見える。
「そう見えるかもしれないけど、この扉には昔に作られたときの仕掛けがたくさんあるのよ」
俺たちが話している間に、宝物庫の鍵が開いたようだ。重そうな鉄の扉が開いている。さっそく中に入ってみると、所狭しとガラクタ、のようなものが詰め込まれていた。
ずいぶん前から色々と詰め込まれているようで、ゴチャゴチャしている。
「ダニエラお義姉様、なかなか探しがいがありそうですね」
「そうね……」
どうやらダニエラお義姉様もあまりここへ来たことがないみたいだな。ぼう然として、とても遠い目をしている。報酬として与えるのだから、それなりに整理されていると思っていたのかもしれない。
だが、現実は非情である。
「よし、それじゃ、手前から順番に見ていくか」
「カインお兄様、足下に気をつけて下さいね」
「おおっと、危ない危ない」
棚には収まりきらなかったようで、床にまで物が転がっていた。まずは通路の確保からだな。宝物庫が狭いので限度があるけど、それでもやらないよりはよさそうだ。
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