第734話 秋の剣術大会中止のお知らせ
剣術大会は先ほどの騒動でザワついたまま、終幕となった。学園側からしても、言って良いものか、悪いものか、判断がつかなかったのだろう。
何か魔物を召喚するような道具が使われたようだ、と言うだけにとどめていたようである。
「これから学園には色んな苦情が来るんだろうな」
「剣術大会はしばらく開催されなくなるかもしれないな」
「表彰式もなかったからね。残念だなー」
アクセルとイジドルと一緒に、これから学園で起こりそうなことを話す。その向かい側ではカインお兄様とミーカお義姉様が眉を下げていた。残念そうだな。剣術大会と言えば、学園でも人気のあるイベントだからね。
今回の様子を見ればそれがよく分かる。客席にはあふれんばかりに人がいて、立ち見をしている人の姿もあった。ダニエラお義姉様のような王族だって見にくるほどの催し物なのだ。学園側からしても、かなりの痛手になるだろう。
原因をどこまでみんなに話すことができるかだな。原因不明のままだと、剣術大会を再開することはできないだろう。だって、対策を採ることができないってことだからね。
今回はたまたま俺が観客席にいて、カインお兄様とミーカお義姉様が黒い魔物と戦える力があったからいいけど、次も同じとは限らないからね。
むしろ次は俺もカインお兄様たちもいない可能性の方が高いのだ。
学園側も大変だろうな。下手すると、学園に行くのをやめさせる親御さんも出てくるかもしれない。高位貴族なんかはそうする可能性が高そうだ。
もしかして、カインお兄様とミーカお義姉様の学園卒業も怪しくなってきちゃうかもしれないな。
「ダニエラお義姉様、王立学園はどうなるのですか?」
「しばらくは閉鎖することになりそうだわ。でも夏休み前だし、少しそれが長くなるだけだと思う。でも」
「でも?」
「秋の剣術大会は開催されないんじゃないかしら?」
「そ、そんな!」
「そ、そんな!」
カインお兄様とミーカお義姉様がまったく同じ顔をして声を上げた。絶望に震えるような声。そんなにガッカリすることだったのか。
ミーカお義姉様はカインお兄様にリベンジしたかったのかな? それなら分かるような気がする。
でもカインお兄様は……単に強いヤツと戦いたいだけなのかもしれない。決勝、準決勝と、戦っているカインお兄様の顔はうれしそうだったからね。相手からすると笑えないんだろうけど。
「とりあえず、カインお兄様とミーカお義姉様は学園を卒業することができそうですね。勉強にも集中できるし、秋の剣術大会がなくなって、むしろよかったのではないですか?」
「ユリウスの鬼」
「ユリウスちゃんの悪魔」
本当のことを言っただけなのに、どうしてそこまで言われなければならないのか。もしかして、秋に剣術大会があるから、勉強しなくていいとか思ってないよね?
これは危険だぞ。注意を勧告するためにも、お父様とお母様に知らせておかないと。
アクセルとイジドルと別れた俺たちは学園をあとにした。このままタウンハウスへ帰ることになるんだろうなと思っていたのだが、そんな俺の予想とは裏腹に、どうやら馬車は王城へと向かっているようだった。
あんなことがあったからね。ダニエラお義姉様の身の安全を確保することにしたのかもしれない。それならそうと言ってくれたらよかったのに。
「どうやらお城へ行くみたいですね」
「ごめんなさいね、言うのが遅れてしまったわ。国王陛下からお話があるみたいなのよ」
「問題ありませんよ。ちょっとゴタゴタとしていましたもんね」
騎士たちも右往左往していたからな。先ほど捕まえた、怪しい商人の輸送と、俺たちの安全確保。そしてそれらの情報の伝達。おそらくは学園側への説明にも出向いていることだろう。
国王陛下から呼び出されるのは予想外だったけど、何かしらの話があるとは思っていた。
一緒にいるカインお兄様とミーカお義姉様はちょっと不安そうな顔をしている。それもそうか。俺みたいに、国王陛下に何度も会っているわけじゃないからね。
そう思うと、俺ってかなりすごい経験をしているな。あんまりうれしいとは思えないのが難点だけど。
馬車はそのままお城の城門へと到着し、そこでしっかりとした身分の確認と、荷物の確認が行われた。
どうやらすでに黒い水晶の話は伝わっているようで、お城への入城時のチェックが厳しくなっているようだ。
いいことだと思う。ダニエラお義姉様もチェックされているからね。
無事に城門をくぐり抜けた俺たちは、停車場で馬車から降りると、そこで待っていた使用人に連れられて、王城内部へと入った。
案内された場所は王族専用のプライベートスペースではなく、高位貴族が密談するときに使う、防音の優れた部屋であった。
席に座ると、すぐにお茶とお菓子が運ばれてきた。どうやらライオネルとネロの分もあるようなので、遠慮なく二人にも座ってもらった。
使用人が何やらダニエラお義姉様に話しかけると、すぐに部屋から去って行った。これはちょっと時間がかかりそうだな。遠慮なく、いただくとしよう。うん、分かっていたけどおいしい。
「ユリウスは余裕があるな。俺はなんだか喉を通らないような気がするぞ」
「気にしてはダメですよ、カインお兄様。運動して、おなかがすいているでしょう? 少しは食べた方がいいです。国王陛下が来るまでには時間がかかりそうですからね」
「国王陛下が来るの!?」
驚くカインお兄様とミーカお義姉様。違うのかな? 違うのであれば、すぐにでもだれかが訪ねてきそうなものだけど。ダニエラお義姉様を待たせられる人って、そうはいないよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。