第726話 杖の真価

 タウンハウスの庭でダニエラお義姉様たちと鍛錬をしていると、ライオネルもやってきた。ちょうどよいので、ライオネルにお願いして、ネロと打ち合ってもらう。

 俺だけじゃなくて、他の人と戦ったときの感触もつかんでおくべきだろう。


 二人の打ち合いを見ながら、ダニエラお義姉様に杖術を教える。ここでは杖で殴っても構わないので、わら人形を配置してもらい、実際にその手応えを確かめてもらった。

 わら人形に対して、殴る、突く、などの一通りの動作を確かめたダニエラお義姉様。


「練習で使っていた杖よりもずっと使いやすいわ。それにたたくと、しっかりとした手応えが返ってくる。剣と違って、杖なんてどれも同じだと思っていたけど、そんなことはなかったわ」

「よろこんでもらえてよかったです。あ、そうでした。その杖には硬質化と魔力強化を付与しているんですよ。よければ魔法も試してもらえませんか?」

「え?」


 ピタリと時間が止まったように感じた。何この空気。付与する話はあらかじめしていたよね? 他の人には話さないことになっていたけど、そのことを知っている人になら別に話しても問題ないよね。


「ユリウス様、魔力強化とはどのような付与なのでしょうか?」


 どこか俺の様子をうかがうかのようにライオネルが聞いてきた。そんなに疑問視するようなことはないと思うんだけど。もしかして、嫌な予感がしてる? そんなことはないぞ。


「ああ、魔力強化は使う魔法の威力を強化することができるんだ。だから、例えばファイヤーボールを使ったとしたら、いつもよりも大きなものが放たれることになるね」

「なるほど。それではいつも以上に注意して魔法を使わなければならないということですな」


 納得したのか、ライオネルがうなずいている。ダニエラお義姉様は杖をジッと見つめているな。まさかそんな効果があるとは思っていなかったのかもしれない。話しておいてよかった。


「ダニエラお義姉様は魔法も得意なので、きっと役に立つと思いますよ」

「ありがとう。そうね、せっかくだから、試してみようかしら?」


 恐る恐る魔法的へと向かうダニエラお義姉様。どうしてそんなに恐れているのだろうか。疑問に思いつつも、何かあったときに備えて警戒度をマックスにしておく。魔法が暴走しても大丈夫。しっかりと守ることができるぞ。


「ダニエラ様、差し出がましいようですが、まずは一番、威力の低い魔法から試した方がよろしいかと」

「そうよね。私も同じことを考えていたところよ」


 ライオネルのその提案に、ダニエラお義姉様がうなずきを返している。これ完全に疑われてますよね?

 魔法的に向かって、ダニエラお義姉様が杖を掲げた。


「マジックアロー!」


 杖の先端部分から、魔法的へ向かって、勢いよく何本もの魔法の矢が放たれた。それはまるで、シャワーの先端から勢いよく水が出ているかのようだった。

 マジックアローは練習用の魔法で、威力はほとんどないのだが、これは結構な威力がありそうである。その証拠に、魔法的が嵐の中に咲く一輪の花のようにグワングワンと揺れている。


「なかなかの威力だったみたいですね」

「なかなかの威力……ユリウス、念のため言っておくけど、普通はこんなことにはならないからね?」

「そうですよね。さすがはダニエラお義姉様」

「いえ、この杖が……うーん」


 何やらダニエラお義姉様が悩んでいる様子。どうやらおまけの機能が想定外だったようである。奇遇ですね、ダニエラお義姉様。俺もそう思っていたところですよ。

 まあ、本来想定していた殴る方での使い勝手は問題みたいなので、ヨシとしておこう。現実逃避ではないぞ?


「それでは訓練の続きを始めましょうか」

「ちょっとユリウス様、このままこの話を終わらせるおつもりですか!」

「どうしたのライオネル」

「どうしたも、こうしたもないです。あのようになったマジックアローは初めて見ました。普通じゃありません」


 ライオネルが珍しく血相を変えているな。ダニエラお義姉様とネロも、”やっぱりそうだよね”みたいな顔をしている。

 これはどうやら、魔力強化の付与はまずかったようだな。劣化防止にしておけばよかった。そうだ、そうしよう。


「やっぱりまずかったか。俺もそうだと思ったんだよね、あはは。ダニエラお義姉様、杖の付与を魔力強化から劣化防止へ変更するので、杖を貸して下さい」

「付与の変更ができるのですか!?」

「……」


 驚くライオネル。無言で杖を自分の方へと引き寄せたダニエラお義姉様。絶句しているようだが、どうやら杖を俺へ渡したくなさそうなことだけは分かる。これは変更できそうにないな。


「あっと、ダニエラお義姉様がそのままの方がいいなら、それでもいいですよ。でも、劣化防止もなかなかいい付与だと思いますよ?」

「……このままがいい」

「そうですか。それではそのままにしましょう」


 ダニエラお義姉様が急に幼くなったように見えた。気のせいだよね? なんだか儚い感じがするんだけど。

 こちらはこれでいいとして、もう一つの問題点を解決しないといけないな。


「ライオネルのその反応からすると、付与の上書きはダメみたいだね」

「ダメというよりかは、そんな話を聞いたことがないというのが実情ですね」

「なるほど。それなら、付与の上書きを他のだれかがしている可能性もあるのか」

「そうなりますが……今のところはユリウス様だけですね」


 どうやら付与の技術は一子相伝のように秘密にされているのかもしれないな。おばあ様がお師匠様から魔法薬の作り方を伝えられていたように。

 これ以上の付与はやめた方がいいのかもしれない。使い方によってはゴミが役に立つアイテムに変わる、神技能なのに。でもしょうがないよね。封印することにしよう。



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