第727話 欲しがる二人

 庭でみんなといっしょに鍛錬していると、カインお兄様とミーカお義姉様がそろって学園から帰ってきた。

 俺はうれしいんだけどさ、ミーカお義姉様はずっとここへ帰ってきているみたいだけど、大丈夫なのかな? ミーカお義姉様のご両親、怒ってない?


「おお、やってるやってる。ネロ、ユリウスが作った剣を見せてもらえないか?」

「私もユリウスちゃんが作った剣を見てみたいわ」

「もちろん構いませんよ。こちらがユリウス様が作って下さった剣です」


 ネロがカインお兄様とミーカお義姉様に剣を見せている。もちろん付与のことは秘密なので、それについては一切、触れていなかった。

 カインお兄様とミーカお義姉様には悪いけど、二人がそれを知ったら、二人が持っている剣のすべてに、付与をすることになりそうな気がするんだよね。


 別に付与するのは構わないんだけど、いつかどこかで、ポロリと付与のことをもらしそうで怖い。さすがに家族以外の人からの付与依頼を受けるつもりはないぞ。


 ネロから剣を受け取ったカインお兄様がしっかりとその刃を確認したのち、色々な型を使って剣を振り始めた。さすがに学園で剣術を習っているだけあって、その動きはなかなかのようである。


 ただ、やはり見せるための型だな、という感じはある。あれでは魔物とは戦えないだろうな。それが分かっているからこそ、ゾンビと戦いたいと言ったり、黒い魔物と戦いたかったと言ったりしているのだろう。


「いいな、この剣。欲しい」

「カインくん、次は私の番よ」


 今度はカインお兄様から剣を借り受けたミーカお義姉様が剣を振る。こちらも美しい型である。俺もライオネルから多少の型は習ってはいるけど、ここまでキレイじゃないぞ。

 戦うだけなら、身についている剣術を使った方がはるかに強いからね。


 でも、何かのときのために、俺ももう少し剣術の型を学んだ方がいいのかもしれないな。ハイネ辺境伯家へ戻ったら、ライオネルや騎士たちからしっかりと習うようにしよう。


「欲しいわ、この剣」

「二人とも、ダメですからね。それはネロの剣です」

「分かっているけどさ~。ユリウス、俺の剣も……」

「カインお兄様はもうたくさん剣を持っているでしょう? それ以上は必要ありません」


 今回ばかりはピシャリと言わせてもらうぞ。ここで情け心を見せると、ミーカお義姉様がついてくる。二人が剣をたくさん持っているのは間違いないので、まずはそちらを使っていただきたい。


「はぁ。残念だなぁ。ユリウスが作った剣、欲しかったのに。ん? ダニエラお義姉様、なんだかよさげな杖を持っていますね?」

「本当だわ。ダニエラお義姉様、どちらでその杖を?」

「ああ、二人とも気づいちゃった? この杖はね、ユリウスが私のために作ってくれたのよ」


 ちょっとダニエラお義姉様! うれしいのは分かりますけど、火に油をそそぐようなことはやめてもらえませんかね? ダニエラお義姉様から杖を受け取った二人が素振りをしながら、”ずるい”ってブツブツ言ってるじゃないですか。


 ああ、なんだか心が痛むな。二人のために何か武器を作ってあげるかな。剣はたくさん持っているみたいなので、短剣はどうだろうか? これならそれほど持っていないはず。


 せっかくなので、二人を驚かせようかな。内緒で作っておこう。そうなると、また工房を借りないといけないな。今度は俺が直接、城下町の工房に出向いて、場所を借りるとしよう。

 そのあとはみんなそろっての夕食の時間になった。その席で、剣術大会の話をしておく。


「剣術大会を見にきてくれるのか! 絶対に優勝して見せるからな」

「私も頑張るわ」

「大会はどんなルールになってるのですか?」


 ダニエラお義姉様はカインお兄様たちと同じ学園の卒業生なので、ルールは知っていることだろう。笑顔を浮かべたままで食事を続けている。


「まずは剣術の授業の合間に予選があって、そこで勝ち抜いた人が本戦のトーナメント戦に出場できるんだ」

「男女の区別はないのですか?」

「ないぞ。まあ、女性の出場者は少ないし、トーナメント戦まで勝ち上がってくる人はもっといないけどな」

「私は勝ち上がって見せるわよ!」


 フンスと鼻息を荒くするミーカお義姉様。かなり気合いが入っているな。希少な女性剣士であるのなら、俺も猛烈に応援したい。ミーカお義姉様が剣術大会で活躍すれば、騎士を目指す女性の数が増えるかもしれないし、頑張ってほしいところだ。

 女性の活躍できる場所が増えるのはいいことだからね。


「ミーカお義姉様、剣術大会までは特訓ですね」

「ユリウスちゃん、協力してくれるのね!」

「もちろんですよ。あ、カインお兄様はダメですからね?」

「なんでだよ! ケチ!」


 カインお兄様も俺が冗談を言っているのが分かっているのか、顔が半分以上、笑っている。それを見て、みんなも笑う。王都にいる期間はもう少し。最後まで楽しむことができそうだぞ。


 翌日からは、剣術大会へ備えてそれぞれが動き出した。俺はもちろん二人に手作りの短剣をプレゼントするべく、借りられそうな工房を探す。タウンハウスで長く働いている騎士や使用人たちに話を聞いて、なんとか見つけることができた。


「ユリウス様、ここがその工房になりますね」

「ここか。正面は武器屋になっているみたいだね。奥に工房があるのかな?」

「どうやらそのようですね」


 店内に入ると、剣や槍、杖、弓などの武器が並んでいた。盾はあるが、鎧はないみたいだ。どうやら武器専門店のようだな。

 せっかくなので、商品を観察させてもらう。どのくらいの物が売られているのかを知ることは、今の俺には大事なことだからね。



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