第717話 慣れって怖い

 ダニエラお義姉様からミラを受け取り、近くの休憩室で待っていたライオネルとネロに合流する。二人にはさっそく報酬の話をしておいた。


「ごめんね、二人の要望を聞かずに勝手に報酬の話を決めちゃってさ」

「いえ、お気づかいなく。国王陛下たちがいらっしゃる場所で、報酬を保留にする方が難しいでしょう。特に私は一介の騎士でしかありませんからね」

「私もライオネル様と同じ気持ちです。ただの従者ですので」

「そんなことないよ。二人とも立派な討伐隊監視役の一員だからね!」


 なぜか卑下する二人に、ちょっと声が大きくなってしまった。そんなことを言ったら、俺だってただの辺境伯の三男坊なわけだし。

 ちょっと心がささくれ立っている俺に気がついたのか、ライオネルがいつもよりも明るい声をあげた。


「それにしても、お酒ですか。どのような種類の物をいただけるのか、今から楽しみですな」

「ユリウス様、ありがとうございます。妹もきっと喜ぶと思います」

「離れ離れにさせてしまっているからね。これで少しはおわびができればいいんだけど」

「おわびだなんて、とんでもない!」


 慌てた様子でネロが否定した。ネロはそう言うけど、これは俺の気持ちの問題である。本当に申し訳ないと思っている。

 おっと、そうだった。


「ネロには別に俺からの報酬があるからね」

「ユリウス様からですか?」

「ほほう、それは気になりますな。一体何か聞いてもよろしいですかな?」


 ライオネルが器用に片方の眉を上げて聞いてきた。その目の光はなんだか妖しい。俺がまた妙な物をネロに渡すつもりだとでも思っているみたいだ。そんなことないのに。


「俺が作った剣をネロにプレゼントしてあげようと思ってさ」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「ほう、剣ですか」


 目を輝かせるネロ。なんだか意味ありげにアゴに手を当てているライオネル。もしかして、ライオネルも剣がよかった? でもライオネルは立派な剣を持ってるからなー。必要ないと思うんだよね。


 そんな二人を連れて、アクセルとイジドルを探すことにした。ライオネルの話によると、二人を食堂で見かけたとのことだったので、そちらへ向かう。

 そこには話にあった通り、アクセルとイジドルの姿があった。なんか食べてるな。


「キュ、キュ!」

「はいはい、ミラも食べたいんだね。あれはフルーツかな?」


 二人のところへ向かいながら、フルーツの詰め合わせをお願いする。そういえば、さっきのお茶会でミラはパクパクとお菓子を食べてたよね? まあいいか。ミラからつぶらな瞳で見つめられるよりかはよしとしよう。


「アクセルとイジドル、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

「ユリウス、報告は無事に終わったみたいだな」

「ユリウスも食べる? アクセルと一緒にお疲れ様会をしてたところなんだよ」

「そうだね、もらおうかな? 追加を頼んでいるから、すぐに来ると思う」


 ちょっと大きめのテーブル席へ移動し、フルーツを食べる。俺はおなかがいっぱいなのでちょっとだけしか食べないけど、ライオネルとネロには遠慮なく食べてほしいと思っている。


「アクセルとイジドルに国から報酬が出ることになっているよ。アクセルには剣、イジドルには杖だね」

「報酬!? いいのか?」

「もちろんだよ。それだけのことをしたからね。国王陛下たちも二人のことを褒めていたよ」

「そうなんだ~って、たち?」


 驚くアクセルと何かに気がついたイジドル。二人にその場には国王陛下だけでなく、王妃殿下と皇太子殿下もいたことを話した。二人の顔がちょっと赤くなっている。どうやら興奮しているようだな。

 これが普通の子供たちの反応か。もしかすると、げんなりするのは俺だけなのかもしれない。


「俺たち、そんなすごい人たちに認められたってことなのか」

「いいのかな? ちょっとドキドキして来たんだけど」

「よっ、有名人!」

「……余裕そうだね、ユリウスは」


 イジドルから苦笑いされてしまった。余裕と言うか、慣れって怖いよね。報酬は渡されることになるが、表立って表彰されることはないだろうということは話しておいた。二人もそれは分かっているみたいで、特に不満はなさそうだった。


「認められるのはとてもうれしいけど、目立つのはちょっと嫌だな」


 苦笑いするアクセルがブドウをかじった。そのつぶやきを拾ったイジドルは眉間にシワがよっている。


「そうでなくても、最近、目立ちつつあるもんね」

「そうなの?」


 二人が顔を合わせて、困ったように眉を下げていた。どうやら本当に目立っているようだな。でもそれはしょうがないと思う。二人ともずいぶんと成長しているからね。

 ゾンビ討伐や、黒い魔物の討伐で実戦経験を積んだことで、さらに成長しているのではないかとひそかに思っている。


「イジドルはユリウスから教えてもらった新魔法を試してたりするからなー。それを見た魔導師たちが集まってくることがあるんだよ」

「だって、せっかく教えてもらったんだよ? 体が覚えるまで練習しなくちゃもったいない。そういうアクセルだって、ユリウスに負けたのが悔しいからって、騎士相手に戦ってるじゃん」

「べ、別に悔しくなんてねーし!」

「……アクセル、まさか騎士を相手に戦って、勝ったりしてないよね?」


 サッと目をそらすアクセル。これは勝ってるなー。確かアクセルはまだ訓練生のはずだぞ? それが訓練とはいえ、本業の騎士に勝ったりしたら、そりゃ目立つよね。目立ってしまったのは二人が悪いのではないだろうか。

 そんな話を二人にすると、目を細めた二人がこちらを見てきた。


「弟子は師匠に似るって言うからな」

「あー、確かに。それなら仕方ないか」

「ちょっと二人とも、聞き捨てならないんだけど!?」

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