第718話 おなかをポンポンの刑

 みんなと楽しく話しながら果物を食べていると、ふとアクセルが何かに気がついたようである。


「そういえば、ユリウスは何を報酬にもらうことになってるんだ?」

「王城にある武器工房を借りることになっているんだ」

「武器工房? あ、分かった! 聖剣を作るつもりなんだね」


 目を輝かせながらイジドルがそう言った。どうしてそうなるんだよ。そんなことを思っていると、ネロがなぜか目を輝かせていた。

 もしかして、聖剣が欲しいのかな? いや、でも、さすがに聖剣を作るのはまずいと思う。俺が作ろうとしているのはネロの手になじむように作った、普通の剣である。


「そんなわけないでしょ。普通の剣だよ」

「ユリウスが作ると、普通の剣じゃすまないような気がするんだよね~」

「分かった、分かった。それなりに普通の剣を作るつもりだよ」


 やれやれ。イジドルからはあまりうれしくない方面で俺を信頼されているみたいだ。まあ確かに、これまで珍しいものを色々と作ってきたので、そんな風にもなるか。

 だがしかし、そんなに真剣な表情をして考え込まなくてもいいんじゃないかな? ライオネルにアクセル。


「本当に大丈夫でしょうか? なんだか急に不安になってきました」

「俺もユリウスの剣が欲しい」


 震えるライオネル。そして自分の欲求に忠実なアクセル。アクセルは国から剣をもらえるんだから、それで我慢しなさい。イジドル、キミもだよ。だからそんな欲しそうな目で俺を見るんじゃない。


「ねえ、ユリウスが剣を打っているところを見学することはできないのかな?」

「できるとは思うけど、国王陛下たちも一緒に見学することになるよ。それでもいいかな?」

「やっぱりやめとく~」


 イジドルもまた、自分の欲求に忠実なようである。これでよかったと思うことにしよう。俺が剣を打っている姿なんて、別に見ていても面白くはないだろうからね。

 みんながフルーツの詰め合わせを食べ終わったところで解散になった。ダニエラお義姉様へ連絡を入れてもらい、馬車置き場で合流する。


「お待たせしました」

「気にしないで。私も今来たところだから」


 馬車に乗り込むと、ダニエラお義姉様にアレックスお兄様の反応を聞いた。ここからの手順次第では、俺の王都での滞在時間が延びるかもしれないのだ。


「とても喜んでいたわ。思ったよりも早く事業を展開できてるってね。人員はお母様が準備して下さるので、商品だけをこちらへ送ってもらうことになったわ」

「それでは馬車が足りなくなりそうですね」


 ハイネ辺境伯家で使っている馬車は荷物運びや、他国や他の領地への連絡で、すでに一杯一杯である。新たに何台か荷馬車を追加する必要があるだろう。

 だが、俺のそんな心配を吹き飛ばすかのように、ダニエラお義姉様が朗らかに笑う。


「心配はいらないわよ。ユリウスがハイネ辺境伯領で競馬を始めたことで、領内には馬がたくさんいるわ。すぐに追加の馬車が準備できるはずよ。ユリウスはここまで考えて競馬を始めたのかしら?」

「そんなことありません。偶然ですよ、偶然」

「そうかしら?」


 首をひねるダニエラお義姉様。そんなポーズを取るダニエラお義姉様は、いつもよりも幼く見えた。これは将来、ダニエラお義姉様も年齢が推測できない人種になりそうだな。


「でも、問題なさそうでよかったです。新しい店舗を出したのに売る商品がないとか、一番あってはならないことですからね」


 疑い始めたダニエラお義姉様の思考をそらせるべく、慌てて言葉を紡ぐ。

 商品が王都へ滞りなく届けられるのなら、俺が王都に残って商品を作る必要はなさそうだな。仮にそんなことになったとしても、ハイネ辺境伯家から商品が届くまでの、わずかな期間だけですむはずだ。


「これも緑の精霊様から加護をいただいたおかげね。もしかして、これも……?」

「違いますからね!? 偶然ですよ、偶然!」


 どうしたんだ、ダニエラお義姉様。なんだかやけに俺を予言者みたいな感じに捉えているみたいだけど。もしかして、黒い魔物の二匹目を見つけたことも、偶然じゃないとか思われてる?

 国王陛下たちも含めて、俺がどのような人物として見られているのかが気になってきたぞ。聞けないけど。


 馬車はそのままトラブルもなくタウンハウスへと到着した。

 タウンハウスへ着いたとたんに、ドッと疲れが襲いかかってきた。どうやら王族だけのお茶会が、思った以上に精神的に応えたようである。もう慣れっこになったと思ったのに、俺もまだまだだな。


「ただいま戻りました」

「ただいま、カインくん、ミーカさん」

「お帰りなさいませ。あれ? ユリウス、なんか疲れてない?」

「お帰りなさいませ。お茶の準備はできていますよ」


 そのまま二人に案内されてサロンへと入る。俺はちょっと食べすぎなので、お茶だけにしたのだが、ミラは普通に食べていた。

 これはあれだな。悲しい顔をしながら、ミラのおなかをポンポンしてあげないといけないな。


「ダニエラお義姉様、黒い魔物を討伐したお話を聞かせてもらってもいいですか?」

「あの、どんな姿をしていたんですか?」

「もちろんよ。ユリウスがどれだけ活躍したのかを、しっかりと話してあげるわ」


 うわ、ダニエラお義姉様、余計なことを! 聖剣の使い手の活躍だけでいいじゃない。二匹目の黒い魔物も、一匹目と同じ姿形をしていたんだからさ。

 ほら、カインお兄様とミーカお義姉様が”またお前、何かやったのか”みたいな目で見てるじゃないか。

 あああ、またお父様とお母様に報告されるんだろうな。ハイネ辺境伯家に帰るのが怖くなってきたぞ。悪いことはしていないはずなのに。どうして。

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