第702話 対等な関係

「とにかく、みんなが無事でよかったわ。疲れたでしょう? しっかり休んでちょうだい」

「ありがとうございます。そうさせてもらいます」


 さすがにちょっとほこりっぽくなっていたので、シャワーを浴びる。もちろん今回はみんなバラバラである。さすがにアクセルとイジドルが水着を持ってきてはいなかったからね。


 出されたお茶とお菓子を食べて、一息ついた。もちろんミラにもクッキーを食べさせている。なんだかチョコレートを欲しそうにしていたが、残念ながら、もうほとんど残っていなかった。


「ダニエラお義姉様、チョコレートの王都での発売はいつごろになりそうなのですか?」

「それがね、貴族たちに大人気みたいで、王都にある支店で売り出すのはまだ先になりそうなのよ」

「えええ!」


 思わず叫んだイジドルが顔を赤くしてうつむいた。困った顔をするダニエラお義姉様。すぐにみんながチョコレートが販売されるのを楽しみにしていることに気がついたようである。


「ごめんなさいね、イジドルくん。なるべく早くみんなが食べられるように努力するわ。それでね、ハイネ商会にチョコレート専門の部署を立ち上げようと思っているのよ」

「そこまでですか。さすがにそこまでの予想はできませんでしたね」

「作り方を公開しようと思っているわ。利益は減るけど、こちらにはユリウスがいるからね。品質で勝負すれば問題ないと思う」


 おお、なんか期待されているな。チョコレートを使ったお菓子なら色々と知っているからね。味や舌触りなんかは魔法薬師としての知識と経験が非常に役に立っているのは間違いない。


 問題となりそうなのはカカオの実が確保できるかどうかだな。取り合いになるんだろうなぁ。うちにはカカオ農園があるから問題ないけど。


 ハイネ辺境伯家に戻ったら急いでカカオ農園を拡張しないといけないな。いや、それよりも、ファビエンヌに頼んでおこうかな? それなら俺が戻るころには量産体系が整っているはずだ。


 アクセルとイジドルには定期的にチョコレートを贈ってあげよう。それと引き換えに、王都の情報をもらうことにすれば、二人も気兼ねなくもらってくれるだろう。


「そう言えば、本当にユリウスは聖剣の使い手を探す選抜会に参加しないのか?」

「しないけど……」

「ええ! 試しに参加してみればいいのに」


 カインお兄様が残念そうな口ぶりでそう言った。どうやらカインお兄様は参加するみたいだな。この感じだと、ミーカお義姉様も一緒に行きそうな感じがする。

 そんな中、イジドルが一人納得したかのようにうなずいている。


「ユリウスなら聖剣の使い手に選ばれそうだもんね。大丈夫だよ、ユリウス。聖剣なんてなくても、ユリウスが強いことはよ~く知っているからね」


 何が大丈夫なのかは分からないが、どうやらイジドルは俺のことを信頼してくれているようである。それを聞いたアクセルもうなずいていた。

 どうやらこれで選抜会に参加しなくてもすみそうだ。


「確かに選抜会に参加するかどうかは自由だけど、今回も聖剣の使い手にだれも選ばれなかったら、ユリウスにお願いするかもしれないわ」


 どうやらダニエラお義姉様、いや、王家としてはどうしても聖剣の使い手が欲しいようである。どうか今回の選抜会で、無事に聖剣の使い手が見つかりますように。俺はそう祈るしかなかった。


 夕食を一緒に食べないかと誘ったのだが、アクセルとイジドルからは断られた。これ以上、ユリウスに借りを作るわけにはいかない。

 そう言われてしまっては、俺も強く言うことができなかった。

 ちょっと納得できなかったので、ミーカお義姉様に相談してみた。


「地下道の調査を手伝ってもらったんだから、これくらい気にしなくていいと思うんですけど。違いますか?」

「そうね~、地下道の調査だけならよかったかもしれないけど、ユリウスちゃんは二人に小型蓄音機をプレゼントしたんでしょう? それに、チョコレートもごちそうしたみたいだし」

「確かにそれなら遠慮するかもしれないな。ユリウス、二人の気持ちも考えてあげないといけないぞ。悪気があって断ったわけじゃないんだ」


 ミーカお義姉様の意見にカインお兄様も同意のようである。二人に悪気がないのは分かっているけど、これくらい。でも、この考えがいけないんだろうな。きっと二人は俺と対等な関係を築きたいのだと思う。

 それなら遠慮なく、俺も二人を頼らないといけないな。




 後日、聖剣の使い手を選ぶ選抜会が行われた。そこでは無事に聖剣の使い手が誕生し、その日の王都は大いに盛り上がった。

 カインお兄様とミーカお義姉様、アクセルも挑戦したのだが、残念ながら選ばれることはなかった。


「聖剣の使い手に選ばれなかったのは残念だけど、聖剣を触れただけでもよかったな」

「もう二度と、触れないかもしれないものね。ユリウスちゃんは本当に参加しなくてよかったの?」

「構いませんよ。聖剣なら、レイブン王国の聖剣を間近で見たことがありますからね」

「ユリウスなら選ばれたかもしれないのになー。残念だ」

「それってカインお兄様が近くで聖剣を見たかっただけでしょう?」


 バレたか、と言いながらカインお兄様が笑った。それにつられるようにみんなで笑う。


「まあ、私たちには聖なるしずくがあるものね。聖剣は必要ないと言えばそうよね」

「確かに間違いないな。あ~、もう一回、聖なるしずくを使って戦いたいな~」


 どうやらカインお兄様はハイゾンビを倒したときの手応えが気に入ったようである。でもそんなに都合のいいことは、早々起こらないと思う。

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