第701話 ダニエラお義姉様に説明する

 教会をあとにした俺たちは、部長さんと別れるとタウンハウスへと戻った。部長さんはこれから自室に戻って、今回のことを新たな学園の七不思議としてまとめるつもりらしい。

 もちろん、ちゃんと地下道の秘密が外に漏れないようにしてくれるそうである。


「部長さん、大丈夫ですかね?」

「大丈夫だろう。もし秘密の地下道があるなんて話が広まっても、本気でそれを信じる人はいないよ。なにせ、学園には七つどころか、山ほど眉唾物のウワサがあるからな」

「確かにそうかもしれませんね」


 全部のウワサを確かめようとする人はいないだろうな。せいぜい話のネタにくらいしか思わないだろう。ましてやその七不思議があるのは教会の敷地内である。勝手に真相を確かめることなどできないのだから。


 タウンハウスにたどり着くと、そこにはダニエラお義姉様とミラが待っていた。今日のお仕事は終わったのかな?


「ただいま戻りました」

「お帰りなさい。ユリウスに聞きたいことがあるんだけど?」

「キュ?」


 にこやかな笑顔を浮かべるダニエラお義姉様。その質問に合わせて首をちょこんとかしげるかわいいミラ。それだけで心が癒やされるな。


「なんでしょうか?」

「あの光の柱はユリウスがやったのよね?」


 どうやらダニエラお義姉様も光の柱を見たようだ。どこから見たのかは分からないが、どのみち報告するつもりだったので話しておく。


「そうです。ターンアンデットの魔法を使いました」

「ターンアンデット! さすがはユリウスね。話にあったように、地下道にはやっぱりゾンビがいたのね」


 納得した様子のダニエラお義姉様。ウンウンとうなずいている。その隣でミラも同じようにうなずいている。……意味が分かってやってるのかな? でもまあ、かわいいからよし。

 この様子だと、ダニエラお義姉様からお小言を言われることはなさそうかな?


「それなんですが、ゾンビがいることにはいたのですが……」


 言いにくそうにカインお兄様がモジモジとしている。こんな弱々しいカインお兄様を見るのは珍しいな。いつもは何が起こってもあっけらかんとしているのに。

 その様子にダニエラお義姉様が首をかしげている。


「正確にはゾンビではなくて、ハイゾンビだったみたいなのですよ」

「ハイゾンビ? 聞いたことがない魔物ね。ゾンビよりは強そうな印象を受けるけど……」

「ゾンビが長い月日をかけてハイゾンビになるらしいです」

「そうだったのね。そんな魔物がいるだなんて。でもみんな無事に戻ってきたから、問題はなかったみたいね。安心したわ」


 ちょっと顔を引きつらせたダニエラお義姉様だったが、すぐに笑顔になった。俺たちは無事に帰ってきた。結果よければすべてよしなのだ。

 そう思っていたのだが、どうやらカインお兄様はこのまま報告を続けることにしたようだ。


「問題はなかったのですが、ゾンビがハイゾンビになったのには原因がありまして」

「まさか、地下道に存在すると書かれてあった祭壇が原因なのかしら?」

「そこまでは分かりませんが、実際に祭壇がありまして、そこにリッチがいたのです。おそらくはそのリッチの影響で、ハイゾンビが現れたのだと思います」

「リッチ……」


 ダニエラお義姉様の美しい顔が引きつった。そんな顔も美しいのはちょっとズルイような気がする。カインお兄様の隣では愁いを帯びた表情のミーカお義姉様が立っており、こちらも同様に美しかった。そう言えば、顔の偏差値が高いな、うちの家族。


「もちろんリッチは倒しましたよ。ユリウスが」

「ちょ、カインお兄様!?」


 確かに倒したけど、ここで俺に振ってくるんかい!

 すべてを理解したかのような表情を浮かべたダニエラお義姉様がこちらを見つめている。何か言わなきゃ。


「リッチを倒すときにターンアンデットを使ったのですよ。ちょっと威力を見誤ってしまって、リッチの周囲にいたハイゾンビも一緒に倒してしまいましたけどね」


 いや~、予想外だったわ~的な雰囲気を醸し出しておく。これならそんなにあきれられないはず。そう願いつつ、ダニエラお義姉様の顔をチラチラと確認する。怒ってはなさそうだが、何やら考え込んでいるな。


「ターンアンデットは強力な魔法だけど、一体ずつしか魔物を倒せないという欠点があると聞いたことがあるわ。違ったかしら?」

「ええと、そうなんですが、なんか周囲にまで広がっちゃって」

「そうなのか? てっきりあれが普通かと思ってたぞ」

「そうよね。すごかったもんね。ユリウスちゃんが神々しかったもの」


 驚くカインお兄様。目を輝かせるミーカお義姉様。そんな中、ダニエラお義姉様は頭を抱えていた。なんだかとてもよくないような予感がする。聞くのが怖い。でも聞いた方がいいかもしれない。


「あの、ダニエラお義姉様、何か問題が?」

「ああ、安心してちょうだい。問題はないわよ。ただ、大騒ぎになっていた原因に納得しただけだから」

「大騒ぎに?」

「ええ。光の柱が天まで昇っていたってね。私が直接見たわけじゃないんだけど、お母様がそれを見たみたいで」

「王妃殿下が……」


 王城からも見えていたのか。そりゃ何事かってなるよね。しかも王妃殿下にまで見られていたとは。一瞬だったと思うんだけど、見られちゃってたかー。

 これは王妃殿下にも報告した方がいいのかな? そんな話をすると、ダニエラお義姉様がいい感じに報告してくれるそうである。

 さすがはダニエラお義姉様。頼りになる。

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