第691話 ちょっとおてんばなお義姉様

 本日の作業も無事に終わり、ダニエラお義姉様と共にタウンハウスへと戻った。そこにはすでにカインお兄様とミーカお義姉様の姿があった。今日はちゃんと時間通りに学園から帰ってきたようである。


 さすがに二日連続、遅く帰ってきたら、あとでお父様に手紙で報告されるかもしれない。ただでさえ、ご令嬢と一緒なのだから。


「ただいま戻りました」

「お帰り、ユリウス。お帰りなさいませ、ダニエラお義姉様」

「お迎えありがとう。あとで二人にお話があるのだけど、いいかしら?」

「もちろんです」

「もちろんですわ。すぐにお茶の準備をお願いしますね」


 二人が早く帰ってきていたのは、どうやらダニエラお義姉様からのその後の首尾を聞きたかったという側面もあったようだ。喜々としてお茶の準備を始める二人。秘密の話になることを予感しているのか、使用人たちに声が漏れにくいサロンを選んでいるみたいだ。


 準備されたお茶を飲みながら一呼吸。ミラの分もちゃんと用意されている。猫舌ならぬ、聖竜舌というものはないようで、ちょっと熱くても平気で飲んでいた。熱耐性とか高そうだもんね。


「地下道の調査の話はしておいたわ。それで、これをカインくんに渡しておくわね」

「これは、カギ、ですか? ずいぶんと古いですね」


 こうしてダニエラお義姉様から学園内にある古い地下道の話を聞く二人。俺は一度聞いているので、流し聞きしながらミラのおやつの量を監視しておいた。

 話を聞き終えた二人は実に楽しそうな顔をしている。


「やっぱり教会の敷地内にあったのですね。俺の予想では教会内部だと思っていたのですが、外でしたか」

「あと探してないのはあそこだけだったもんね。どうやって忍び込もうかとカインくんと相談しているところでした」

「やめてよね」


 ミーカお義姉様の発言に、ものすごく眉を下げたダニエラお義姉様が、心底あきれたようにつぶやいた。思わず、といった様子である。さすがのダニエラお義姉様も、ミーカお義姉様のおてんばっぷりには、あきれられずにはいられなかったようである。


「横から失礼させていただきます。その調査にはもちろん私も含まれているのですよね?」


 ライオネルが器用に片方の眉をあげながら聞いてきた。これまで何も相談されていないからね。心配になったのだろう。答えはもちろん”含まれていない”である。

 学園内は安全性が非常に高いため、”護衛は必要ない”というのが方針らしい。


「ライオネルには悪いんだけど、一緒に行くのは無理かな。親族だって、見学会でもなければ学園内に入ることができないからね」

「カインお兄様、子供の見学は認められるのですか?」

「そうだよ。だって、学園に興味を持てば通ってくれるだろう?」


 そうだった。カインお兄様もその口だったな。アレックスお兄様に学園の話を聞いて、見学して、王都の学園へ通いたいとお父様を説得したんだったな。

 ライオネルが不服そうな顔をしているが、それ以上は何も言わなかった。たぶん知っていたのだと思う。それでも言わずにはいられなかったのだろう。


「カイン様、くれぐれも言っておきますが、危険な状況になる前に、引き返すようにして下さいね」

「もちろんだ。約束する」

「ユリウス様を引きずってでも」

「う、うん」


 俺の顔を確認するカインお兄様とライオネル。どうやらこの中で一番、引き返さないと思われているのは俺のようである。

 まあ、大概の魔物なら倒せるし、引き返す必要はないと思うんだけどね。

 ……もしかして、この考えを読まれてる?


「大丈夫よ。そのときは、私がユリウスちゃんを抱えて走るわ」


 笑顔のミーカお義姉様。抱えて走るって、そのプルンプルンの何かに挟まれることになるんだよね? それはまずい。それなら自分で走りますから!


「ちゃんと一人で逃げますから大丈夫です。心配はいりません。ライオネルもね」

「分かりました」


 納得はしていないようだが、自分ではどうすることもできないと思ったようだ。小さくため息をついている。


「ネロ、私の代わりにユリウス様を頼むぞ」

「お任せ下さい。この命に代えても……」

「ちょっと待った、ネロ! 重い、重いから。危険だったすぐに逃げるから、一緒に逃げよう」


 ヤバイ、あのネロの目。本気だった。どうやらライオネルはネロを利用したからめ手を使うことにしたようだ。

 俺が大丈夫でも、ネロがダメだと思ったら逃げるしかないのか。俺をかばうために、前に出るだろうからね。


「ライオネル……」

「なんですかな?」

「いや、なんでもない」


 実にいい笑顔をするライオネルを見て色々とあきらめた。ライオネルも俺のことを思って言ってくれているのだろうからね。ライオネルが一緒に行ければ、その役目は自分だと思っているはずだ。ここは素直にその好意を受け取っておこう。


 地下道への入り口のカギはカインお兄様が持つことになった。そして聖なるしずくの準備ができていることを話すと、さっそく”地下道調査計画”を立てることになった。

 そんな俺たちの様子に我慢できなくなったのか、途中からダニエラお義姉様も加わった。


 そしてそのままついて来そうになったところを、カインお兄様と二人で押しとどめることになった。

 ダニエラお義姉様の気持ちもよく分かるけど、さすがにお姫様をゾンビがいるかもしれないところへ連れて行くわけにはいかない。


 頑張った俺たちは、みんなで一緒にお風呂に入ることを条件に、なんとかダニエラお義姉様にあきらめてもらうことに成功した。

 やれやれだぜ。おてんばなお義姉様たちだことで。

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