第690話 大商会も夢じゃない
学園にある地下道の調査は俺たちに一任する、か。ずいぶんと信頼されているようだ。
この話を聞けば、カインお兄様もミーカお義姉様もきっと喜ぶぞ。何しろ、王家からの信頼が厚いということになるのだからね。
「危険があればすぐに逃げることを約束します。護衛として、私の友達も一緒に行きたいのですが、構いませんか?」
「もちろん構わないわよ。ユリウスが認めた友達なら、何も問題ないでしょうからね」
クスリと笑うダニエラお義姉様。俺もずいぶんと王家から信頼されているようだ。なんだかクモの糸に絡め取られているような気が少しだけするが、悪い気はしないな。
権力とのパイプは太い方が何かと便利だろうからね。俺だけじゃなく、将来はファビエンヌとも縁がつながることになるわけだし。
「万が一に備えて、聖なるしずくも作ってあります。ハイネ辺境伯家から持ってきた素材をジョバンニ様たちに渡してあるので、こちらでもある程度の数の聖なるしずくが確保できるかと思います」
「助かるわ。聖剣の使い手が選ばれれば状況が変わってくるかもしれないけど、それでもだれでも使える聖なるしずくがあるのは心強いことには違いないものね」
同時に何カ所かで黒い生物が確認された場合にも対応できるようになるからね。聖なるしずくはあるだけで十分な備えになることだろう。きちんと保管すれば長期保存することができるからね。
「追加の通信の魔道具はもう少しかかりそうです」
「ありがとう。あせらなくてもいいわよ。王都にはもうしばらく滞在することになりそうだからね」
「何かあったのですか?」
「うふふ、ユリウスが作った抗老化化粧水や、蓄音機、チョコレートが思った以上に評判になっちゃってね。その交渉にもう少し時間がかかりそうなのよ」
うれしそうだな、ダニエラお義姉様。それらの交渉がうまくいけば、ハイネ商会はさらなる発展を遂げることになるだろう。王都にある支店も一店舗だけでなく、増やす必要があるかもしれないな。
もしかすると、他の領地にも店舗が必要になるかもしれない。そうなれば、スペンサー王国有数の大商会になる可能性も出てくるぞ。これならアレックスお兄様とダニエラお義姉様の間にたくさんの子が生まれても、働くところに困ることはなくなるだろう。
それはもちろん、俺とファビエンヌとの間に生まれる子も同じである。俺たちの子供が魔法薬師になるにしろ、ならないにしろ、働く場所はあるだろうからね。って、どうして俺は気の早いことを考えているのだろうか。
「アレックスお兄様も喜びそうですね」
「ええ、喜んでくれていたわ」
どうやらダニエラお義姉様は精霊の加護を使った”遠距離会話”を、すでにアレックスお兄様との間でおこなったようだ。
やっぱり遠くの人といつでも話ができるのは便利だよね。そのうち普及版の通信の魔道具も作りたいところである。そのためには色んな問題を乗り越えないといけなさそうだけど。
それから俺とダニエラお義姉様は学園にある地下道についてのことを話した。もちろん、その場所がどこにあるかも聞いている。まさか学園内にある教会の近くに隠されているとは思わなかった。
確かにここなら学生たちが敷地内を嗅ぎ回るのは難しいだろう。教会にはいつも人がいるから、監視の目も厳しいはずだ。
話を進めると、その教会の司祭様は秘密の抜け道があることは知っているようである。
それもそうか。何かあったときに対処しなければいけないからね。さすがにカギは持っていないようなので、中に入ることはできないみたいだったけど。
「それでは司祭様に調査をお願いする方が、色々と都合がよいのではないでしょうか?」
「それが、司祭様はかなりのご高齢なのよ。私のお父様が学園へ通っていたころからずっとそこでお勤めしているそうだわ。それだけ地下道のことを他の人には秘密にしておきたいということなのでしょうけどね」
確かにご高齢なら難しいかもしれないな。一人で行くわけにはいかないだろうし、騎士団に頼むにしても、見慣れない騎士が教会の敷地内にいれば何事かと思われるだろう。
やはり王家からの信頼も厚い俺たちが行くのがいいのかもしれないな。学生なら教会に足を運んでも不審に思われない。
俺とアクセル、イジドルは学生ではないけど、パッと見ただけでは、それとは分からないはずだ。
ウソか本当か、怪しげなお告げもあることだし、しっかりと調べておいて損はないだろう。
「それならば全力で地下道の調査をやらせていただきますよ。もちろん、危険があればすぐに撤退します」
「タウンハウスに戻ったら、カインくんとミーカちゃんにも同じことを話すつもりだけど、ユリウスもお願いね」
「もちろんです」
「キュ!」
手をあげるミラ。ミラを連れていくのはちょっと難しいかな? たぶん、こんなにかわいいモフモフが学園を歩いていたら、ものすごい騒ぎになると思うんだよね。今はダニエラお義姉様が連れているから遠慮があるだろうけど、その神通力が切れたらどうなるか。さすがに予想がつかない。
「ミラには悪いんだけど、お留守番になるかな~?」
「キュ!?」
ショックを受けた表情になるミラ。ここはフォローが必要だな。ミラに悲しい顔をさせるわけにはいかない。
「その間はダニエラお義姉様にミラを頼むつもりだから、何かおいしいものでも食べて待っててよ」
「キュ!」
元気よく返事するミラ。丸くなるおなかの件は、学園の七不思議を解決してから考えることにしよう。
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