第680話 やらかすのは俺だけじゃない

 ちょっと気になったので、思い切ってカインお兄様とミーカお義姉様に聞いてみることにした。そのまま巻き込まれそうでちょっと嫌な予感がするけど、断固拒否すれば、無理やり連れて行かれることはないだろう。


「学園ではゴーストやゾンビとの戦闘訓練はしないのですか?」

「さすがにないな。ユリウスは知らないかもしれないが、銀の剣って結構高いんだぞ? それを全員分用意するのはさすがに無理だって」


 そうなんだよね。いくら王都の学園とはいえ、騎士クラスの生徒全員に銀製の武器を渡すのは無理か。だから俺が聖なるしずくを作ったんだからね。

 ん? 何か引っかかるぞ。


「カインお兄様、もし本当にその地下道にゾンビが出たらどうするのですか?」

「そりゃあ、もちろん斬って倒すさ」

「どうやって?」


 笑顔を作る俺。カインお兄様も笑顔だ。ただし、お互いに作り笑顔である。そしてそのことにライオネルも気がついたようである。同じく笑顔だが、目は笑っていない。


「まさかカイン様、銀の剣を購入しておりませんよね? かなりのお値段がするはずですが」

「いや、その……護衛を頼まれたのなら必要だろうと思ってさ?」


 銀の剣を買ったのが先なのか、それとも超常現象クラブの部長から頼まれたのか先なのかは分からない。だがしかし、カインお兄様が銀の剣の試し斬りをしたいと思っているのは間違いなさそうだ。


「カイン様、購入されたのは一本だけですよね?」

「あの、ミーカも一緒に行くことになってるからさ」

「ミーカ様の銀の剣も購入したと?」

「うん」


 ああ、ライオネルが眉間のシワをもみほぐしているぞ。ハイネ辺境伯家騎士団がどうやって経費を節約しようかと思っているときに無駄遣いされたら、そりゃそんな顔にもなるよね。


「ラ、ライオネル、俺の物にするつもりはないからな? ちゃんと領地に帰ったら、騎士団の備品にするつもりだから。必要だろう? 銀の剣」

「それが、そうでもないんですよね」

「え、なんで?」


 ライオネルの思わぬ言葉に、カインお兄様だけでなく、さっきから気まずそうな顔をしていたミーカお義姉様の顔が、驚きの表情へと変わった。

 二人に見つめられたライオネルはその視線を俺の方へと向けた。そうなると必然的に、二人の視線は俺へ向く。


「……そう言えば、ユリウスがすごい魔法薬を作り出したんだったな」

「確かレイスを倒すことができるくらい、強力な魔法薬だったわね」


 どうやら思い出したようである。二人の目が再び輝き始めた。その目はまるで、新しいおもちゃを目の前に出された子供のようである。実際に二人はまだ成人していないので、カテゴリーとしては子供なんだけどね。


「ユリウス、どんな魔法薬なのか、もっと詳しく教えてくれないか?」

「それは構いませんけど……」


 そんなわけで、俺は武器に破邪効果を付与することができる魔法薬、”聖なるしずく”のことを二人へ話した。


「それなら、今、俺が持っている剣でもゾンビを倒せるってことだよな?」


 うれしそうに声を上げるカインお兄様。ミーカお義姉様の目も、今では期待に満ちあふれているかのようにランランと輝いている。

 これは……もしかして二人には内緒にしておいた方がよかったのかな? でも銀の剣のことがあるし。


「そうなりますけど、前にも言ったように、効果は一日しか持ちませんからね?」

「それでも十分。毎日使えばいいだけだからな」


 ちょっとカインお兄様、いくら俺が作っているとはいえ、毎日使うのは無理ですからね? サラッと言っているけど、それなりに作るのは大変なんだからね。


 頭の片隅に浮かんだ改良型聖なるしずくの存在を、頭を振って振り払う。そんなものがあることをカインお兄様とミーカお義姉様が知れば、二人の持っている剣がすべて門外不出の剣に変わってしまう。


「カイン様、魔法薬を無駄遣いさせるわけには参りません。何かあったときに備えとして、ユリウス様が作って下さったのですから。それと、銀の剣は返品するように」

「ええ! ……分かった」


 ライオネルににらまれて簡単に折れたカインお兄様。きっと銀の剣がなくてもなんとかなりそうだから、ま、いっか、と思ったんだろうな。

 でも、これでこの話は終わらないと思うんだけどなー。


 俺の予想は正しかったようで、夕食後、カインお兄様はライオネルに呼び出されていた。

 ミーカお義姉様も一緒に呼ばれなかったところを見ると、どうやら共犯ではないと判断されたようである。


 翌日、カインお兄様とミーカお義姉様を見送ると、王城へと向かった。アクセルとイジドルにあいさつをすると、その足で調合室へ向かう。

 そこではジョバンニ様たちから、昨日の演奏会のことを涙ながらに語られた。すごく感動したらしい。そして俺の多才っぷりに、まるで神のようにあがめられた。


 なんだかいたたまれなくなった俺は、そそくさと調合室を出ると、ダニエラお義姉様を訪ねた。俺のために用意されているという、専用の部屋の場所を聞くためである。


「お忙しいところ、申し訳ありません」

「いいのよ、気にしないでちょうだい。ところで相談なんだけど、ミラちゃんを……」


 俺が魔道具を作っている間は暇だろうから、ミラをダニエラお義姉様に預けることにした。どうやらダニエラお義姉様は今日も友達に会うみたいである。

 自分が王都にいない間の情報を集めているのかな? 今、人気があるものとか、これから人気が出そうなものなんかを調べているのかもしれない。

 なんと言っても、ハイネ商会を運営している重役の一人だからね。




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