第679話 学園七不思議
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ」
玄関の前で待っていたタウンハウスの使用人たちにあいさつをすると、すぐに返事が戻ってきた。カインお兄様たちの姿が見えないところを見ると、どうやらまだ学園から帰ってきてはいないようだ。
「カインお兄様とミーカお義姉様は今日はここへ帰ってこないのかな?」
「いえ、そのようなお話は聞いておりませんよ。少し遅れているだけだと思います」
そう言って苦笑いする、タウンハウスの執事長。どうやら二人が遅れて帰ってくることはそれなりの頻度で起こっているようである。
一体、何をしているのか。まさか二人でいかがわしいお店に行ってるんじゃないだろうな?
そんな疑惑を抱きつつ、リビングルームで待っていると、ようやく二人が帰ってきた。日はもう暮れる寸前。本当に何をしていたのやら。
「ただいま~」
「ただいま戻りましたわ」
「お帰りなさいませ。こんな時間まで、一体何をしていたのですか?」
「なんだかユリウスがお母様みたいになってるな」
ハハハと乾いた笑いでごまかそうとするカインお兄様をちょっと目を細めて見つめた。
見つめられたカインお兄様はミーカお義姉様と目を合わせ、お互いにうなずき合った。何? 本当に何があったの?
「夕食の時間に話してあげるよ。楽しみにしてて」
「分かりました」
とは言ったものの、カインお兄様の笑顔はどこかイタズラ小僧みたいな様子で。
もしかして俺、何かに巻き込まれそうになってます? でもミーカお義姉様も知っているみたいだし、害はないのかもしれない。
うーんと思いつつも、夕食の時間までライオネルからの報告を聞くことにした。
どうやら聖剣を見てほしいと頼まれたのにはちょっとした事情があったようである。
「黒い魔物が目撃された?」
「はい。しかし、まだウワサの段階にすぎないようですが……」
「火のない所に煙は立たないからね」
「おっしゃる通りです」
実際にだれかが見たのはほぼ間違いないのだろう。それが俺たちが思っているモノと同じであるのかは分からないけどね。本当にそうなのか、単にそう見えただけなのか。
いや、意図的にそんなウワサを王都に流している可能性もあるな。
そんなことを話すと、ライオネルは無言でうなずいていた。
ライオネルだけに情報を集めてもらうのには無理がある。使用人たちに頼んでおこう。
ちょっと胸の中にモヤモヤするものを抱えたまま、ダイニングルームへ向かう。そこにはすでにカインお兄様とミーカお義姉様の姿があった。
「早かったですね。料理が運ばれてくるまでにはもう少し時間がありそうですけど」
「ユリウスもな。……気になるんだろう? 俺たちの話が」
「まあそうですが」
口角と眉をあげるカインお兄様。ミーカお義姉様もなんだか楽しげな表情である。一体、何をたくらんでいるんだ?
席に座ると、カインお兄様が話すのを待った。この場にはネロもライオネルもミラもいる。悪巧みなら話さないだろう。
「俺たちは今、学園の七不思議を追ってるんだ」
「え?」
思わぬ言葉に思わず声が出てしまった。確かカインお兄様とミーカお義姉様は剣術クラブに入っていたよね? そんなことをしている暇はあるのだろうか。
疑問が出ていたのだろう。カインお兄様が説明してくれた。
「実は超常現象クラブの人たちから護衛任務を頼まれているんだよ」
「うわぁ……」
「なんだよ、その顔。ユリウスも興味があるだろ? そうだろうと思って、本を借りてきたんだ」
カインお兄様から一冊の本をスッと差し出された。表題には”学園の七不思議”の文字がある。中央には目のついた三角形の絵が描かれていた。なんだかちょっぴりうさんくさい!
そんな失礼なことを思いつつ、本を見せてもらう。
なるほど。王城七不思議の学園版といったところか。そして当然のように、七個以上の不思議が書かれている。七不思議とは一体。うごご。
ザッと目を通すと、スッとカインお兄様へ本を返した。
「あれ!? 興味がない?」
「いや、以前に王城七不思議に挑んだことがありまして」
そう言いながらミラを見つめる。見つめられたミラはコテンと首をかしげた。なにこれかわいい。そう思ったのは俺だけではなかったようで、ミーカお義姉様がミラを抱きかかえてほおずりしていた。
いいなぁ……じゃなくて。
「これ以上、七不思議に挑む必要はないかなーと」
「う、なんだか妙な説得力があるぞ。まあ、それでも聞いてほしい。どうやら部長は今回の超常現象には自信があるみたいなんだよ」
ちょっと、それってこれまではずっと自信がなかったってことだよね? 大丈夫なのか超常現象クラブ。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、カインお兄様が話を続ける。
「なんでも、出るみたいなんだよ」
「出る?」
「そう。学園にある古い地下道に、ゾンビが出るみたいなんだよ!」
あー、ゾンビね。そう言えばつい最近、ゴーストやレイスと戦ったなー。そんなことをボンヤリと考えていると、”思っていたよりも反応が薄い!?”とカインお兄様が驚いていた。
その反応からすると、学園ではアンデット系統の魔物との戦闘訓練はしないのかもしれないな。
それっていいのかなー? いざというときに困るのではないだろうか。
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