第677話 演奏会へのお誘い

 本日の夕食はこの部屋で食べることになった。さすがに連日、国王陛下たちと一緒に食べることにはならないか。国王陛下たちも、他に交流を深めたい人たちがいるだろうからね。


「ライオネルも遠慮せずに一緒に食べればよかったのに」

「ライオネル様は夕食を食べながら、情報を集めるそうですよ。ユリウス様のことをお願いされました」

「夕食くらい、ゆっくり食べればいいのに」


 どうやらライオネルは城で働いている人たちが使う食堂へ行っているようだ。それにしても情報を集めるって。何か気になることでもあるのかな?

 そんなことを思いつつ、ネロとミラと一緒に夕食を食べた。


 翌日、本日の演奏会にアクセルとイジドルを誘うべく訓練場へ行くと、ちょっとした人だかりができていた。もしかすると、聖剣についてのお達しが出てるのかな?


「アクセル、イジドル、おはよう」

「おはよう、ユリウス」

「おふぁよ~」

「眠そうだね、イジドル」


 そんな人だかりには興味なさそうな様子であくびをするイジドル。まあ、聖剣のことだとしたら、興味はないだろうね。イジドルは剣術は使えないみたいだし。


「は~、イジドルには分からないか。聖剣のすごさが」

「あ、やっぱり聖剣のことで集まってるんだ」

「なんだ、ユリウスは知っていたのか。どうやら近々、聖剣の使い手の選定が行われるみたいなんだ」


 そう言ってアクセルが視線を送った先には、木の立て札にデカデカとその旨が書いてあった。昨日の今日なのに素早いな。よほど聖剣の使い手が欲しかったようである。

 それもそうか。なんだか隣の大陸がきな臭いからね。抑止力として、聖剣の存在をアピールしたいのだろう。


「アクセルも参加するの?」

「もちろんさ。ユリウスもだろう?」

「どうかな? 選定が行われる前に領地へ帰るかもしれない」

「そこは選定を受けてから帰ろうぜ」


 苦笑するアクセル。アクセルは何も知らないからそう言うのだろうけど、すでに聖剣を使えることが判明しているからなー。受ける必要性がないというのが本音である。そのことを話せればよかったんだけど。


「うーん、ユリウスなら選ばれそうな気がするんだよね」

「やめてよね、イジドル。俺は騎士じゃないから」

「そうだったね。ユリウスは魔導師だったね」

「それも違うぞ」


 あまり説得力がないかもしれないが、どちらも違う。だから二人ともそんな目で俺を見るんじゃない。

 おっと、大事な目的を忘れるところだった。


「アクセル、イジドル、今日の午後から時間はあるかな? ちょっと成り行きでピアノの演奏会を開くことになったんだ。よかったら二人もどうかなと思ってさ」

「ピアノの演奏会? だれが演奏するんだ?」

「その話し方からすると、ユリウスみたいだけど……」

「いやぁ、それが、ピアノを演奏するのは俺なんだよ」

「……」


 あ、二人が遠い目をしている。だってしょうがないじゃないか。国王陛下と王妃殿下からのお願いなのだから。断るわけにはいかない。そんな話を二人にもする。


「おい、そんな場所に俺たちを誘うのか」

「ボクたちが行くのは場違いじゃないの?」

「大丈夫。ダニエラお義姉様からは友達を呼んでいいって言われているからさ」


 二人の苦笑いによってできる顔のシワが深くなった。あの笑顔は無理やり作った笑顔だな。それも超頑張ってるやつ。できれば行きたくないけど、そこまで言われると断れないと思っているやつだ。


「ユリウスってさ、いつから音楽家になったの?」

「これには色々と深い事情があってさ。聞く?」


 顔を見合わせた二人がこちらを向いてうなずいた。いいだろう。悲しくも儚いお話を君たちにもしてあげようではないか。

 そうして二人に話してあげると若干引かれた。つらい。


「さすがはユリウスと言いたいところだけど、これはもう訳が分からないな」

「そうだね。考えたら負けだと思うよ。それよりも、ボクもその蓄音機を見てみたいな~」

「イジドルは魔道具が好きそうだもんね」

「俺も好きだぞ」


 どうやら魔道具は男たちには大人気のアイテムのようである。それはそうだよね。魔道具には男のロマンが詰まっているのだから。あ、女のロマンも詰まっているかもしれない。


「それなら今度、二人にも蓄音機をプレゼントしてあげるよ。タウンハウスへ戻ればなんとかなるだろうし。いや、そう言えばここの設備を借りてもいいって言われていたな」

「それはとってもうれしいんだけど、王城で作った物をもらうのはちょっと気が引けるなぁ」

「イジドルの言う通りだな。なんか、悪いことをしているような気がする」

「大丈夫、大丈夫。好きに使っていいって言われているからさ」


 こうしてなんとか二人が演奏会に参加するという約束を取りつけることができた。他には、ジョバンニ様たちを呼ぶか? 以前に聞きたかったって言ってたからね。人数がかなり増えそうだが、そこは頑張ってジョバンニ様に調整してもらおう。


 そのまま俺は二人と一緒に訓練場で朝の鍛錬を行った。もちろんネロも一緒だ。ミラはダニエラお義姉様に預けてあるので、心配しなくてもいいだろう。

 今回のダニエラお義姉様の帰省は、ミラと王族との交流もかねているからね。きっと今ごろは王妃殿下も含めて、かわいがられていることだろう。

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