第675話 スペンサー王国の聖剣と対面する

 俺のあいさつにその場にいたみんなの視線が集まった。特に不快な視線は感じないので、子供だからといって見下されていることはなさそうだ。


「私の名前はイワンコフです。ユリウス様のウワサはかねがね聞いております。なんでも、レイブン王国にある聖剣を修復したとか?」

「ええ、そうですね。あちらの研究者たちの協力もあって、なんとか元の姿に戻すことができました」


 笑顔でそう言った。これなら俺一人の力で何もかもやったとは思わないだろう。それに、実際にレイブン王国の研究者のみなさんにも手伝ってもらったからね。ウソではない。俺の力は多分にあったとは思うが。


「我が国にある聖剣は壊れてはいないと思います。ですが、ご存じとは思いますが、現在、だれも使うことができないのです。それで、念のため見ていただけないかと思いまして」

「もちろん構いませんよ。どこまでできるか分かりませんが、やるからには全力を尽くさせていただきます」


 俺の言葉にうなずく研究者たち。こちらです、と案内された場所は奥の壁だった。ああ、なるほど。ミラを見つけたときと同じように、合い言葉で開く扉があるのか。そうとは知らないダニエラお義姉様が首をかしげていた。


 ゴニョゴニョとイワンコフさんがつぶやくと、目の前の扉がガシャガシャと動き始めた。それを見たダニエラお義姉様の目が大きくなっている。どうやら王族の中でも一部の人にしか知らされていないみたいだな。それだけ聖剣が貴重な物であるということだ。


 進んだ部屋の先にはガラスケースに入れられた聖剣が、テーブルの上に安置されていた。どうやらイジドルの話が正解だったみたいだ。

 個人的には石の台座に刺さった聖剣を抜いて、ゴマだれ~ってやってみたかった。


 そしてそのガラスケースはいとも簡単に研究者たちの手によって取り払われた。どうやら選ばれし者だけが~とかいう伝承はウソのようである。まあ、そうだよね。

 聖剣エクスカリバーは青みを帯びた銀色の刀身に金色の装飾が細かく施された美しい剣だった。ゲームで見たものとそっくりである。


「これが聖剣……実物をこれだけ間近で見たのは初めてですわ」


 ダニエラお義姉様が小さなため息をつきながらそう言った。キレイだもんね、聖剣。そんなことを思いつつ、聖剣を鑑定する。うん、特に問題はないみたいだ。単に使い手がいないだけのようである。


「特に問題はなさそうですね。参考までに、どうやって使い手を選んでいるのですか?」


 俺の回答にちょっと驚いたかのように目を大きくするイワンコフさん。懸念していた聖剣の破損がないと分かり驚いたのかな? ダニエラお義姉様はホッとしたような表情を浮かべている。


「ええと、剣を手にしたときに聖剣全体が光ると伝承には書いてあります。先代の使い手も、同じ現象が起こったそうです」


 聖剣に問題がないと分かり、研究者たちは聖剣の詳細な調査を行うみたいだ。何やら集まって話をしている。壊れていたら手を出しにくいからね。そこで得られた情報が偽りの情報である可能性だってあるのだから。


 それにしても、聖剣が光るねぇ。それって、持った人がたまたま光属性の魔法が得意だったんじゃないかな?

 聖剣エクスカリバーと光属性魔法は相性がとてもいいからね。無意識のうちに体が反応したのかもしれない。


 聖剣エクスカリバーに触ることができる剣士はほんの一握りなのだろう。その中で、なかなかレアな魔法属性である光属性を持った人がどれだけいるのか。確率はかなり低そうだな。

 実際には光属性が得意ではなくても使うことができる。そのため、国に選ばれし人たちに使わせてみる必要があるのだ。


「ユリウス、何か気になることがあるのかしら?」


 ちょっと考え込んだ俺にダニエラお義姉様が気がついたようだ。心配そうに眉をゆがめている。

 どうしようかと思ったが、言っておいた方がよさそうだな。


「ええと、光る、光らないを気にせずに、実際に一度、剣を振ってもらうのはどうかと思いまして。聖剣が使えるなら、それで何かしらの反応があると思うんですよね」


 俺の意見にシンと静まり返る部屋。確かにそうだ、という空気になっているような気がする。俺からすると、伝承に頼りすぎな気がしてならないんだよね。

 伝承はもちろん大事だが、長い月日でその伝承に変な記述が加わって、ねじ曲がっている可能性だってあると思う。


「なるほど、確かにそうかもしれませんね」


 イワンコフさんは納得してくれたようである。これならきっと、俺の意見を踏まえて、これからは聖剣の使い手を選定してくれることになるだろう。

 それなら近いうちに使い手が見つかりそうだな。俺の役目はこれで終わりだ。聖剣は壊れてなかった。修理する必要はないし、何か手を加える必要もない。


 懸念材料が一つなくなってホッと一安心。そう思ったのは俺だけだったようである。ダニエラお義姉様がなんだか意味ありげな瞳をこちらへ向けている。なんだろうか? なんだか嫌な予感がするぞ。


「ユリウスにお願いがあるのだけど」

「なんでしょうか?」

「聖剣に触ってみてもらえないかしら?」


 やっぱりそう来たか~。こうなるんじゃないかと思っていたんだよね。どうしたものか。断りたいけど、お義姉様とはいえ、この国のお姫様なんだよなー。その要請を断るのはちょっとまずいような気がする。それならば。


「それは構いませんが、一つ、約束してほしいことがあります」

「何かしら?」

「もしもの話ですが、聖剣が反応したとしても、何も見なかったことにして下さい」


 これならどうだ? これなら俺が聖剣を持って帰ることにはならないだろう。そんなものを持って帰ったら、カインお兄様とミーカお義姉様が喜ぶだけだ。俺は喜ばないぞ。

 少し考えた後、ダニエラお義姉様がハッキリと答えた。


「分かったわ。約束する」


 言質は取ったぞ。

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