第668話 国王陛下との昼食

 その日はゆっくりと二人との再会を喜びながら過ごした。少し悪いかなと思いつつも、湖の精霊様から聞いた話をカインお兄様とミーカお義姉様にもしておく。

 当然のことながら、二人の顔も曇った。


「隣の大陸ではそんなことが起こっているのか。話してくれてありがとう」

「私たちも気にしておくわね。学園には違う国から来ている子もいるから、そこから何か情報が得られるかもしれないわ」

「よろしくお願いします」


 よかった。どうやら二人に不快感を与えてはいないようだ。”なんでそんな話をしたんだ”なんて言われたら、どうしようかと思っていたところだ。


「それにしても、聖なるしずくか。俺の剣でも使ってみたいな」

「私も使ってみたい!」

「いや、あの、使うのはいいですが、一日しか効果がありませんよ?」


 さすがに二人にも改良型聖なるしずくの話はしていない。あれは封印することが決定しているからね。カインお兄様が学園を卒業して、正式にハイネ辺境伯騎士団に入隊したら、そのときに話すことになるかもしれないけど。


「それでも、使ってみたい……!」


 目を輝かせる二人。これは一度、使わせるしかなさそうだ。今は手持ちがないので、夏休みに領地へ帰ってからになるな。

 いや、これから王城へ行くので、そのときに作ることになりそうな気がする。それをもらってこよう。


「分かりました。なんとかします」

「さすがはユリウスちゃん!」


 ミーカお義姉様がムギュっと力強く抱きしめてきた。せっかく俺の呼び方が呼び捨てになっていたのに、またちゃん付けに戻ってしまった。俺ももう子供じゃないんだけど。

 ほら見てよ、カインお兄様がちょっとムッとした顔つきになって俺を見てるじゃない。




 翌日に王城から届いた手紙には、今日の昼食を一緒に食べようとのお誘いがあった。どうやら昼食の時間を利用して話をしようということらしい。おそらくはそこでしか時間が取れなかったのだろう。国王陛下も忙しそうだな。


 昼食の時間に間に合うように、俺たちはハイネ辺境伯家の馬車に乗って王城へと向かった。もちろんミラも一緒である。久しぶりの生まれ故郷に感慨深くなっているかな? でもミラからはそんな様子は見られなかった。

 離れていた時間が長すぎたんだ。王族の人たちが泣いちゃうかもしれない。


 事前に到着を知らせていたこともあり、すんなりと中へ通してもらった。

 あれから毒殺事件は起こっていない。それもそのはず。万能薬が作られているからね。毒を仕込んでも意味がないことが分かっているのだ。とてもよい抑止力になったと思う。


 そのまま俺たちは王族のプライベートスペースへと向かった。この国の王女であるダニエラお義姉様と一緒とはいえ、こんなところにまで俺が入ってもいいのかな? 前にもここへ来たことはあるけど、やっぱり何か間違っていると思う。


 案内されたのはサロンだった。どうやらここで昼食を食べるようだ。他の人が到着するまでにはまだ時間がありそうだったので、先ほどのことをダニエラお義姉様に聞いてみた。


「あら、別にそんなこと気にしなくていいんじゃないの? ダメならダメだって言われてるわよ」

「そうかもしれませんけど、ここって特別な人しか入れない場所ですよね?」

「うふふ、ユリウスも特別な人ってことだと思うわよ」


 うれしそうにダニエラお義姉様は笑っているが、俺の内心は複雑な気分である。王家と深く関わりすぎてしまったなー。しょうがないと言えばそうなのかもしれないけど。もっと他にもやり方はあったような気もする。


 そんなモヤモヤした気持ちのまま待つことしばし。国王陛下と王妃殿下がやってきた。そしてすぐに昼食が運ばれてきた。どうやら忙しい合間を縫っての昼食のようである。普通なら国王陛下と謁見するまでにはもっと時間がかかるだろうからね。


「二人とも、よく来てくれた」

「ダニエラも元気そうね。安心したわ」

「キュ!」

「ミラちゃんもよく来てくれたわね」


 ダニエラお義姉様の膝の上で自己主張したミラを、王妃殿下が表情を柔らかくして見ている。国王陛下はちょっとばつが悪そうに苦笑している。

 お互いの近況を話ながらも、ダニエラお義姉様は先に湖の精霊様から聞いた話をした。俺からはちょっと言い出しにくい話だったので、ダニエラお義姉様が話してくれてよかった。


「そんなことがあったのか。分かった。気をつけておこう。私にも精霊様の加護があればよかったのだが。ダニエラに戻ってきてもらうわけにはいかないからな」


 冗談交じりに国王陛下がそう言った。これは通信の魔道具の話をするなら今かな? 色々と問題が出そうな魔道具だけど、ここで俺がためらったことが原因で、国に何かしらの被害を出すわけにはいかないからね。


「あの、その話なのですが、実は遠くの人と話すことができる魔道具がありまして。通信の魔道具というのですけど」


 バッと三人の視線がこちらを向いた。みんな目が大きくなっているな。ミラだけはマイペースに果物をかじっているけど。ミラ用の前掛けを持ってきていてよかった。自慢の毛並みが果汁まみれになるところだった。顔は果汁まみれだけどね。


「ユリウス、詳しい話を聞かせてもらえないかな?」

「もちろんです。通信の魔道具は一対一でしか言葉のやり取りをすることができませんが、国内であれば、どこでもお互いに話すことができると思います」

「そんな魔道具があったのか。なぜ今まで言わなかったのだ?」

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