第669話 王城に滞在する
やっぱりそう言われるよね。遠くの人と話すことができる魔道具があったら色々と便利であることは間違いない。でもそれだけに、悪用しようと思えばいくらでもできてしまう。
それに、どうしてそんな魔法陣を知っているのかと聞かれると非常に困る。それならば、こちらから先手を打って言い訳をしておくに限る。
「実は、領都の宝石店で購入した二つ一組の指輪に、偶然、その能力が備わっていたのです。それで、これまでは指輪に描かれていた魔法陣の解析を行っておりました」
「なるほど。それで、その魔法陣の解析が終わったのだな?」
「はい。その通りです」
もちろん指輪にその魔法陣を描いたのは俺なので完全なマッチポンプなわけだが、そのことに気がつく人はいないだろう。俺が真実を言わない限りは。
国王陛下の食事をする手が止まってしまった。食事の時間にする話ではなかったかもしれない。昼食くらいは楽しく食べたかったことだろう。
でも、すでに湖の精霊様から聞いた”ちょっと暗い話”もしていたし、セーフ? そうだと思いたい。ちなみに俺の手も止まっている。なんか国王陛下を差し置いて俺だけ食べているのは違うような気がしたからだ。
「ユリウス、試しにその通信の魔道具を作ってもらえないだろうか? ただし、この話はだれにも話さないように。もちろん、専用の部屋を用意する」
「分かりました。直ちに作ります」
「あらあら、新しい化粧水の話もあるのに、どうしようかしら?」
そう言えばそうだったな。他にもたくさん、話さなければならないことがあるのだった。さすがに昼食の時間だけでは無理か。それは国王陛下も王妃殿下も分かっていたことだと思うけど。なんだか嫌な予感がしてきたぞ。
「それなら、今日は王城へ泊まることにしますわ。ユリウスとミラちゃんも一緒にね」
「キュ!」
ピッと敬礼するミラ。やっぱりそうなったか。これはもしかすると、数日間、王城に泊まることになるかもしれないぞ。カインお兄様とミーカお義姉様がガッカリしそう。いや、その場合、二人とも学園の寮へ戻ることになるか。それはそれで別に問題ないかもしれないな。
「分かりました。よろしくお願いします」
こうして俺は王城でお世話になることになった。ちなみにクロエは隣国へ行っているそうである。ちゃんと王族としての仕事をしているみたいだな。婚約の話も順調そうで何よりだ。
昼食を終えた俺たちはそのまま王妃殿下に捕まった。ここからは王妃殿下のターンである。
話の中心は抗老化化粧水と蓄音機の話だった。どちらも大変お気に召したようである。
「抗老化化粧水の作り方は王宮魔法薬師たちに教えているみたいね」
「はい。その通りです。ハイネ辺境伯で作った魔法薬を王都まで送るとなったら、時間がかかりますからね。それなら王城で作ってもらった方がよいと判断しました」
「助かるわ。貴族の奥様たちからの熱意がちょっとありすぎちゃって」
苦笑いする王妃殿下。王妃殿下に圧をかけるとか、なかなかできることではないぞ。どんだけ熱望してるんだよ。
早めに作り方を王宮魔法薬師たちに渡しておいてよかった。これならひたすら抗老化化粧水を作ることにならなくてすみそうだ。
「それから蓄音機のことだけど、あれはとっても素晴らしい魔道具だわ! もう、みんなからの羨望のまなざしがすごくてすごくて」
そう言いながらうれしそうに王妃殿下が笑った。どうやら王妃殿下も蓄音機をかなり気に入っているようである。こんなによろこんでもらえると俺もうれしい。これはロザリアにも報告しておかないといけないな。
「それで、蓄音機はハイネ商会でしか売りに出さないつもりなのかしら?」
俺ではなく、ダニエラお義姉様へ視線を向ける王妃殿下。ハイネ商会を取り仕切っているのがだれなのか、しっかりと把握しているようである。
ダニエラお義姉様も立派な、”次期ハイネ辺境伯夫人”になりつつあるな。なんだかうれしい。
「ええ、その通りですわ。蓄音機はハイネ商会の主力商品として売り出すつもりです。ただ、音楽の利用に関する問題がありますけどね」
「そうねぇ。そう言えば、記憶されていた音楽はどれも素晴らしかったわ~。さすがはレイブン王国の楽団ね。特にピアノの演奏が群を抜いていたわ。有名なピアニストなのかしら? 一度、お会いしてみたいわ」
目を輝かせているが、そのピアニストは俺だったりする。どうしよう。そのことを話すべきか、話さないべきか。たぶん今の俺の顔は苦笑いしていると思う。
うん、言わない方がいいな。なんだかトラブルの予感がする。
「お母様もそう思いますわよね? でも、お母様はその方にすでにお会いしておりますわよ」
「え?」
ちょっとまずいですよ、ダニエラお義姉様! 俺が内緒にしておこうと思った矢先にネタバレですか?
そんなこととはつゆ知らず、王妃殿下の視線がこちらを向いた。目と口をまん丸にして、まさか、と言いたそうである。俺は頑張って笑顔をキープした。
「まさか、あのピアノの演奏者はユリウスなの?」
「その通りですわ。ユリウスは演奏会も催してくれたのですよ」
そうしてワイワイとにぎわい始めた二人。やっぱりこうなってしまったか。始めからピアノの演奏なんてするんじゃなかった。俺が調子に乗ってしまったばかりにこんなことに。
そんな俺の肩をポンとミラがたたいた。どうやら俺を励ましてくれているらしい。これはもう、なるようにしかならないか。
その後は盛り上がった二人によって、王城で演奏会をすることになってしまった。どうしてこうなった。せめてもの抵抗に、演奏会に呼ぶ人の人数は最小限にしてもらった。
本当にどうしてこんなことになってしまうのかねー?
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