第657話 改良型聖なるしずく
抗老化化粧水の取り扱い方針は決まった。まずは効果をしっかりと確かめて、その間にどうするのかを決めることにしたようだ。
きっとその間に、どのくらい評判になるのかも調べるつもりなんだろうな。その影響力によっては王都の王宮魔法薬師のところへ、作り方を書いた物を送る必要が出てくるかもしれない。
執務室を退出した俺たちは屋敷へと戻ることにした。もうすぐお昼の時間だが、庭を散歩するくらいの時間はありそうだ。
息抜きは必要だからね。ブラック企業のような働き方はよくない。これは魔法薬師たちや、商会で働いている職人たちにも言っておかないといけないな。
「抗老化化粧水はきっと話題になるよ。さすがはファビエンヌ」
「ありがとうございます。でも、私はユリウス様が作った魔法薬を組み合わせただけですわ」
「そんなことはないよ。ファビエンヌも分かっていると思うけど、単に組み合わせただけでは、ちゃんと効果のある魔法薬は作れないよ」
そうなのだ。そんなに簡単に魔法薬は作れるものではないのだ。それぞれの素材の特性をしっかりと理解して、その配分を決めないといけないし、ときには素材の足し算、引き算をする必要がある。
それらを乗り越えて抗老化化粧水は完成したのだから、ファビエンヌはすごいのだ。
俺がベタぼめしたからなのか、ファビエンヌが赤くなっている。そんなファビエンヌの手を引っ張って庭を歩く。こうして庭を歩くのもたまにはいいな。いつもは薬草園に行くことで散策の代わりにしていたからね。
「午後からは聖なるしずくの改良をしてみようかな」
「ミラちゃんの毛を素材に使うのですよね?」
ファビエンヌの顔に大丈夫なのですか? と書いてあるような気がする。大丈夫じゃないかもしれない。でも、他に有効な方法が思い浮かばなかったし、試してみたいという、俺の中の好奇心を抑えることはできなさそうだ。
効果が高すぎたらお蔵入りにすればいい。やらない後悔よりも、やってから後悔する方がいいような気がする。
そんな話をファビエンヌにすると、苦笑いされたのちに許してくれた。ただし。
「問題になりそうな魔法薬が完成したら、しっかりと保管しておいて下さいね」
「もちろんそのつもりだよ。約束は守るから、ネロもそんな顔をしないでよ」
どうやら二人とも、お父様から言われたことをしっかりと守ろうとしているようである。すなわち、俺がまた妙なことをしようとしているときは全力で止めること。
個人的にはみんなの役に立つことで、妙なことではないとは思うのだが、そこは意見の相違と言うやつである。
昼食を済ませ、調合室へと向かう。もちろん部屋からミラの毛を持って来ている。この素材には限りがあるからね。大事に使わないといけない。もっとも、ミラを丸刈りにすれば問題ないのだが。
そんな空気を察したのか、ミラはロザリアとお母様のところを行き来しているみたいだ。ちょっと寂しいぞ。
「ミラちゃんに嫌われましたわね」
「あとでお菓子をあげてご機嫌をとっておかないと」
「そんなことはしないと約束してあげればいいじゃないですか」
ファビエンヌとそんな話をしながら調合室へたどり着いた。調合室にいるみんなに、午前中にアレックスお兄様とダニエラお義姉様に話したことを伝える。
「分かりました。外へは出さないことをお約束します」
「それなら追加の抗老化化粧水が必要になりますね」
「あの、私たちも使ってもいいのですよね?」
それぞれの質問に答える。追加の抗老化化粧水を作ることを指示し、もちろん使用許可も出す。ついでにその経過をレポートにするように頼んでおく。みんなは心地よく引き受けてくれた。
「これでよし。俺たちも作業を開始しよう」
あいている作業台を陣取ると、必要な素材を集めていく。聖なるしずくにミラの毛を加えるくらいでいいかな? 多分、ミラの毛は魔法薬の効果を高める左様があると思うんだよね。前に作った聖なる塗布剤がそれに近かったような気がする。
ファビエンヌと一緒に聖なるしずくを作りながら、ミラの毛を加えていく。さすがに添加する量までは分からないので手探りだ。色んな配分を試しつつ、いくつか作ってゆく。
「これはどうでしょうか? よさそうな気がします」
「そっちもよさそうだね。これなんかはどうかな?」
「これは……効果が高すぎるのでは?」
なるほど、そういう見方もあるな。俺の中では効果が一番高い物を、という考えがあったが、そうとは限らないというわけか。
高い性能を持つ魔法薬は目立つ。それを避けるためにはほどほどの物にしなければならない。
結局、どれがいいのか分からなかったので、実際に使ってみることにした。鑑定結果からでも大体のことは分かるのだが、百聞は一見にしかずである。使ってみればすべてが分かる。その危険性も含めて。
試しに使ってみるならば、やはり騎士団でするべきだろう。もしもとんでもない効果を持つ物が完成していたら、”緊急時に備えて”という形で保管してもらえばいいからね。
レイス以上に強力なゴースト系の魔物が出たときに、きっと役に立つはずだ。
備えあれば憂いなし。ライオネルもきっと理解してくれることだろう。
そんなわけで、俺たちは完成した改良型聖なるしずくを持って訓練場へと向かった。
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