第615話 蓄音機おひろめ会

 昼食を食べ終わった俺たちは蓄音機作りを再開した。まずは国王陛下へ献上する蓄音機の外装を完成させないと。前にスケッチしたミラを、慎重に浮き彫りにしていく。ロザリアも追加の模様を入れているようで、工作室にはコンコンという、小気味よい音が鳴り響いている。


 そうして蓄音機を作っていると、使用人が手紙を持ってきた。ファビエンヌからだ。休憩もかねて、手紙を確認した。そこには明日からこちらへ来たいと書いてあった。


「無理してないかな?」

「どうされたのですか?」

「ネロ、ちょっとこの手紙を読んでよ。意見を聞きたい」

「それでは、失礼します」


 ネロに手紙を渡し、その間にネロが用意してくれたお茶を飲んだ。ロザリアも一緒に休憩することにしたみたいで、リーリエがお茶の準備をしている。どうやらリーリエも、しっかりと従者として活躍しているようである。これで安心だな。

 手紙を読み終えたネロがちょっと考えるような仕草をしてる。


「どう思う?」

「申し入れを受けてもよろしいのではないでしょうか? ファビエンヌ様もこれから忙しくなりそうだと思っているようですし、毎日送り迎えするのなら、アンベール男爵夫妻も安心するのではないでしょうか」

「そっか。それならそうしよう。久しぶりに家族みんなでゆっくりと、と思っていたけど、そうさせてもらおうかな」


 便箋をネロに頼む。返事は後回しにせず、すぐに書いた方がいいからね。後へ回すと忘れるかもしれない。


「お兄様、ファビエンヌお義姉様が来るのですか?」

「そうだよ。明日から来ることになると思う。後でお父様に話しておかないといけないな」

「やったぁ! また一緒にお茶を飲みたいです」

「キュ!」

「そうだね。ファビエンヌもきっと喜ぶよ」


 どうやら二人も大歓迎のようである。よかった、嫌われていなくて。ファビエンヌが来てくれるのなら、魔道具作りと魔法薬作りを分担することができるぞ。クローバー採取はどうしようかな? さすがにファビエンヌだけ置いていくのはよくないか。


 その日の夕方、夕食の席でファビエンヌが明日から来ることになる許可をもらった。両親が言うには、”もう家族の一員なんだから、好きにしなさい”とのことだった。

 これで許可をもらわなくても、自由にファビエンヌを屋敷へお招きすることができるようになったぞ。


「お母様の蓄音機が完成しましたわ。食事が終わったらお見せしますね」

「あら、もう完成したの? ずいぶんと早いわね」

「頑張りました!」


 ドヤ顔をするロザリア。夕食の時間が来る間際まで手を加えていたもんね。俺も見させてもらったけど、素晴らしい一品に仕上がっていた。あれならお母様も喜んでくれること間違いなし。その顔を見るのが今から楽しみだ。


「ダニエラお義姉様、国王陛下へ献上するための蓄音機も完成しました。一緒に確認してもらってもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんよ。楽しみだわ」


 ダニエラお義姉様が目を輝かせている。その期待を裏切らない一品にはなっていると思うけど、ちょっと胃が痛いな。国王陛下の好みは外していないと思うんだけどね。

 夕食の時間には他にもクローバーの採取にいつごろ行くのかの話も出た。


 メンバーが増えただけに、時間の調整に少し時間がかかるようだ。もう少し待ってほしいとのことだった。

 その際、アレックスお兄様とダニエラお義姉様が敏感に反応したが、もしかして、一緒に来るつもりなのだかろうか?

 お姫様を魔境に連れていくとか、さすがにダメだろう。


 クローバーを採取しに行くのはまだ先になりそうなので、その間に新型肥料、ドンドンノビール二号を作るとしよう。さいわいなことに、明日からファビエンヌが来てくれる。間違いなく、作業がはかどるはずだ。


 問題があるとすれば、ドンドンノビール二号を肥料にするか、魔法薬にするかなんだけど……今回は限定された範囲内で使う予定なので、魔法薬として扱うことにしておこう。

 土に魔力を与える肥料だなんて、これまでなかっただろうからね。その方がよさそうだ。


 夕食が終わるとすぐに、サロンで蓄音機のおひろめ会になった。ロザリアが持ってきた蓄音機を見て、予想通り、お母様が歓喜の声を上げていた。さすがにほおずりまではしなかったが、今にもそれをやりそうな勢いである。


「ありがとう、ロザリア。最高のプレゼントだわ。私の宝物よ」

「喜んでもらえてよかったです!」


 ロザリアも誇らしげである。魔道具師として最高の瞬間なんだろうな。俺もダニエラお義姉様に蓄音機を褒めてもらったので、やりきった感はあるぞ。


「これなら国王陛下も喜んで下さると思うわ。お母様がこれを見たら、間違いなく欲しがるわね」


 苦笑いと共に、ダニエラお義姉様が不吉なことを言った。これは一緒に王妃殿下の蓄音機も作って送った方がよさそうだ。王妃殿下の機嫌を損ねたくないからね。

 サロンにはすでに音楽が流れている。それを聞いたみんなの顔は、だれもが満足そうな表情をしていた。


「ユリウス、これが私の言っていた曲の楽譜だ。演奏できそうかな?」

「拝見させていただきます」


 お父様から手渡された楽譜を確認する。フムフム、なるほど、なるほど、ってこの曲、俺がやってたゲームのオープニング曲じゃないか! ナンデ!? やっぱりこの世界とあのゲームとには、何かつながりがあるのか?


 うーん、よく考えろ。俺と同じように、この世界に音楽を広げてほしいとお願いされた人物が過去にいた可能性はないだろうか。年代は違うが、そもそも同じ年代に転生者を集める必要はないもんね。


 謎はますます深くなったが、今はお父様に返事をしなければならないな。この曲なら弾けますよ、でいいのかな? いいよね?


「演奏できそうな気がします」

「そうか。それなら……試しに演奏してもらえないか?」

「それは構いませんけど……」

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