第614話 図案と報酬
午前中にやりたかったことを終えて屋敷へと戻った。時刻はもうすぐ昼食の時間だ。そのまま休憩もかねて、ダイニングルームで待つことにした。
「午後からは蓄音機作りだな。なんとか今日中には国王陛下へ献上するための蓄音機を完成させたいからね」
「これからたくさん蓄音機を作ることになりますからね。私も手伝えればよかったのですが」
眉を下げるネロ。一緒に作ってもいいとは思うんだけど、ネロは魔道具作りに手を出さないんだよね。俺の邪魔になるとか思っているのかもしれない。そんなことないのに。
それとももしかして、俺が魔道具を作る速度は速すぎるから、引いちゃってる?
「ユリウスお兄様、ここにいたのですね」
「キュ!」
「どうしたの、二人とも。何かあった?」
ロザリアたちも午前中の作業を終えたのだろう。ミラを連れて、ロザリアとリーリエがダイニングルームへとやって来た。
俺の方へと弾丸のように飛び込んできたミラを両手で受け止める。ミラ、ロザリアに同じことをするんじゃないぞ。たぶん一緒に後ろに倒れることになるからね。
「いつまでたっても戻ってこなかったから、心配していたのですよ」
「キュ」
「ごめん、ごめん。図案のいい考えが浮かばなくてさ。気分転換に、薬草園や騎士団に行ってたんだよ」
「そうだったのですね。お母様の蓄音機は半分くらいできあがりましたわ。図案はお兄様の蓄音機と同じでいいのでしょうか?」
うーん、ロザリアが作ってくれたのなら、どんな図案でも問題ないような気がする。お母様はかわいいものが好きだし、かわいい動物たちの図案は喜ばれると思う。
でもその一方で、お母様が他の貴族の奥様方に蓄音機を見せるつもりであるならば、もう少し高級感のある図案にした方がいいのかもしれない。
「そうだね、お母様に聞いてみようか? その方が俺に聞くよりもいいんじゃないかな」
「分かりましたわ。そうします!」
どうやらロザリアも図案には苦戦しているようだな。それならお父様の希望も一緒に聞いておいた方がよさそうだ。プライベート用と外向け用の二種類を作ってもいいけど、それだとかなりの数を作ることになるので大変そうである。
ロザリアたちとあれこれと話している間に、お父様とお母様もダイニングルームへとやって来た。アレックスお兄様とダニエラお義姉様の姿が見えないところをみると、二人は商会で食べるみたいだな。
二人が席に座るとすぐに昼食が運ばれてきた。昼食はパンとシチューのようである。このシチューがおいしいんだよね。
「お父様、お母様、蓄音機の図案で相談があります」
「どんな図案がいいですか?」
俺とロザリアで二人の希望の図案を聞く。ロザリアにはお母様とアレックスお兄様の蓄音機を作ってもらうことになっている。そしてお父様とダニエラお義姉様の蓄音機は俺が作る。
話を聞くと、お父様は見栄えのよい図案にしてほしいらしい。お母様はかわいいと豪華を両立したものを希望していた。それならお母様の蓄音機には、動物たちの図案に大輪の花を混ぜた感じにするのがいいかな?
「貴重な意見をありがとうございます。ようやく図案が固まりそうですよ」
「魔道具作りには技術力だけじゃなくて、芸術的センスも必要なのだな。これは完成したら、報酬をあげる必要がありそうだ」
「ええ、そうね。もらってばかりでは悪いものね」
二人が笑っている。そういえば、これまで特に報酬とかはもらっていなかったな。まあ、もらったとしても、今のところは特に使う必要はないんだけどね。将来、アンベール男爵家へ嫁ぐことになるので、そのときのためにとっておこう。
ロザリアはどうするつもりなのかな? 研究のために、魔道具の本なんかを買うのかもしれない。女の子が買う物にしてはちょっと特殊かもしれないけどね。そういえば、ロザリアの年代の子って何を買うのかな。ドレス? 宝石? それとも食べ物?
「ユリウス、クローバー畑はどうなったのかしら?」
「庭のずっと奥の方に作ることにしました。今は土だけ耕した状態です」
「クローバー畑? お兄様、私もそこに行ってみたいです」
クローバー畑に敏感に反応したロザリアが目を輝かせてこちらを見ている。どんなものなのかは分からないが、面白そうだとは思っているようだ。俺の膝の上にいるミラも、ロザリアとそっくりな目で俺を見ている。これは断れないな。
「完成したら連れていってあげるよ。今は何もないから、見ても面白くないよ」
「楽しみにして待ってますね」
「キュ!」
喜ぶ二人。あたり一面、クローバー畑になる予定なので、きっと喜んでくれると思う。花の冠なんかも作れるかもしれないな。その上に寝そべったら気持ちよさそうだ。
「お父様、近いうちにクローバーを採取しに行きたいと思っているのですが、許可をいただけないでしょうか? ライオネルにはすでに話を通しています」
「許可しよう。だが、危険なところへは行くんじゃないぞ」
「もちろんですよ」
「私も一緒に行きたいです! ダメですか、お父様?」
「キュ!」
ロザリアとミラも同行希望のようである。ロザリアはあまり外に行く機会がないからね。別に行く必要はないとは思うが、ずっと屋敷に引きこもりっぱなしもよくないのではないかと思う。
考え込むお父様。どうやらロザリアは箱入り娘にしておきたいようである。俺と一緒に外に出れば、ワイルドなロザリアになりかねないと思っているのかもしれない。
確かに可能性はあるな。クローバーを採取しに行くのなら、魔物の出る森に行くことになるだろうし、そうなると、魔物に遭遇する可能性は十分にある。
「よし、それなら私も一緒に行こう。一度、ユリウスの採取する姿を見たいと思っていたところだからな」
「あら、それなら私も行くわ。たまには領都の外にも出ないと、歩き方を忘れてしまいそうだもの」
こうして急きょ、家族で行くことが決まった。ごめんね、ライオネル。まさかこんなことになるとは思わなかったんだよ。
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