第613話 ただいま根回し中
クローバー畑予定地から屋敷へ戻る途中に薬草園へ向かった。
今のうちに収穫できそうな魔力草を採取しておこう。これからたくさん必要になるだろうからね。む、思ったよりも生えていないな。どうやらしっかりと手入れされているようである。
「みんながキッチリと採取してくれているみたいだね」
「そのようですね。どういたしますか?」
「とりあえず、採取できるものだけ集めておこうかな」
薬草園の状況を確認するのと同時進行で、魔法薬の素材を採取していく。特に問題はないみたいだな。肥料の量も今のままで十分そうだ。与えすぎはよくないからね。
素材を採取した俺たちはその足で調合室へと向かった。そこではすでに、王宮魔法薬師たちが作業をしていた。
「おはようございます。薬草園の様子を見に行ったついでに、素材も集めてきました」
「これはユリウス様、おはようございます。何か素材が必要なのですか? もしそうであるのなら、自由に持っていって下さい。元々はユリウス様の物ですからね」
「ありがとうございます。ちょっと特殊な肥料を作ろうかと思っていまして」
みんなにはこれからそれを作ってもらうことになるかもしれない。そこで、他にはまだ話さないという条件で、みんなに新しい肥料と、これから作ろうと思っている魔法薬の概要を話した。
「なるほど、光属性を付与する魔法薬ですか。確かにそれがあれば、銀製の武器を集める必要がなくなりますね。銀は装飾品としても需要がありますし、武器にするとなれば、大量の銀が必要になりますからね」
魔法薬師たちも銀製の武器については思うところがあったようだ。確かに銀で武器を作るとなったら、とんでもない量の銀が必要になるからね。確か持ち手の部分まで銀でできていたはずである。
「しかしホーリークローバーですか。初めて聞く名前の素材ですね。さすがは高位の魔法薬師マーガレット様だ。そのようなことまで知っておられたとは」
魔法薬師たちが感心している。おばあ様の名前を勝手に使っているだけに、ちょっと気まずいな。ごめんね、おばあ様。でもおばあ様なら苦笑いくらいで許してくれるはずだ。だって俺はおばあ様の一番弟子だからね。
「ホーリークローバーを育てるために魔力草を使っても大丈夫ですか?」
「もちろん問題ありませんよ。騎士団には十分な量の初級魔力回復薬が備蓄されているはずですからね」
「ありがとうございます。念のため、騎士団でも初級魔力回復薬が不足していないか、聞いておきますね」
どうやらこちらは問題ないみたいだな。あとは騎士団で大量に初級魔力回復薬が消費されていないことを祈るばかりである。俺がいない間にも、魔物の間引きや、討伐戦が行われていたはずだからね。
午前中の最後に騎士団へと向かった。ハイネ辺境伯家へ帰ってきてからはバタバタとしていたので、なんだかんだで訪ねるのが最後になってしまった。ユリウスリサイタルのときにはみんな元気そうにしていたので、大きな問題は起きていないと思うんだけど。
まずはライオネルがいる執務室へと向かった。ここ数日の間に、ライオネルが騎士団の情報を集めてくれているだろう。情報が欲しいのなら、真っ先に訪ねるべき場所だ。
「おはよう、ライオネル。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今いいかな?」
「これはユリウス様。おはようございます。なんでしょうか?」
「初級魔力回復薬の備蓄は足りてる? ちょっと魔力草を使うことになってさ。しばらく初級魔力回復薬の供給が少なくなると思うんだ」
「少々お待ち下さい」
ライオネルが同じく部屋の中にいた騎士に目配せをすると、すぐにその騎士は本棚からファイルを取り出し、真剣な表情で調べ始めた。
ウチの騎士団はしっかりとしているな。どうやら魔法薬の管理も、キッチリと行っているようである。
「先日の魔物の間引きで、三つほど初級魔力回復薬を使いましたが、在庫はありますのでしばらくは問題ありません」
「三つか。もしかして、魔導師の数が足りてない?」
「いえ、そのようなことはありませんよ。むしろ、他の領地の騎士団よりも、多いと思います」
それならいいか。やっぱり魔物の間引きは大変みたいだな。ハイネ辺境伯領は広いので、あちこちで実施しなければならないからね。俺たちが作る魔法薬が役に立っているようなので、うれしい限りである。
「なるべく早くいつもの供給量に戻るようにするから、そこは安心しておいて。それに緊急で大量に必要になったら、遠慮なく言ってよね」
「分かりました。ありがとうございます。ところで、差し支えなければ、何を作るつもりなのかを聞いてもよろしいでしょうか?」
「これから庭にクローバー畑を作ろうと思ってるんだ。それで、その肥料に魔力草を使うんだよ」
目と口を丸くするライオネルと騎士たち。まあ、そんな顔にもなるよね。これだけ聞けば、何を言っているのか分からないだろうからね。
そこで俺はなぜ、クローバー畑が必要なのかをライオネルたちにも話した。もちろん、念のため口止めはしてある。
「なるほど、ホーリークローバーですか。それならクローバーの種が大量に必要になるのではないですか?」
「そうなんだよね。それで、クローバーを採取しに行きたいと思っている。時間を作ってもらえるかな? お父様からの許可ももらえると思う」
「分かりました。すぐに計画させていただきます。しかし、クローバーの種などあまり見たことがありませんな」
ライオネルが首をかしげている。確かに種を取ろうと思ったら、時期を見極めないといけないかもしれない。でも確か、茎挿しでも増やせるはずなんだよね。
「まずはクローバーの株をそれなりの数、採取しようと思っているよ。それを畑に植えてから、種や茎挿しで増やそうと思ってる」
「それなら我々でもなんとかなりそうですな。さすがに植物を育てる知識は、それなりにしか持ち合わせていませんからね」
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