第600話 聖剣の使い手
聖剣以外でも倒せると聞いて、安堵の表情になったダニエラお義姉様。なんだかとても心配していたみたいだけど、何か理由があるのかな? ちょっと気になる。
そんなダニエラお義姉様は、黒い生物についてもっと知りたいのか、再びお父様に質問を投げかけた。
「魔法でも倒せるのでしょうか?」
「倒せることには倒せるが、普通の魔法ではあまり有効的でないようだ」
「それでは、一体、どんな魔法が有効的なのでしょうか?」
「浄化魔法が有効的なのではないかと言われているね」
「浄化魔法……」
うつむいて考え込むダニエラお義姉様。その背中をアレックスお兄様が優しくなでている。なかなか絵になる光景である。しかもなんか、ラブラブカップルみたいでうらやましい。まあ、間違ってはいないんだけどさ。
俺もアレックスお兄様を見習って、ファビエンヌが不安そうにしていたら、その背中をなでることにしよう。
まあそのファビエンヌは、今は張りついた笑顔をしているんだけどね。頑張って、ファビエンヌ。
黒い巨木を俺が魔法で一撃粉砕したからね。もしかすると何かを察したのかもしれない。
「浄化魔法なんて、存在するのですか?」
「そうだな、可能性はゼロではない」
アレックスお兄様の質問に答えを濁すお父様。おそらくお父様は俺が使った魔法が浄化魔法なのではないかと疑っているのだろう。だがしかし、俺はまだ一言も浄化魔法とは言っていない。すごい火魔法としか伝わっていないはずだ。
「エルヴィン様から聞いたのですが、聖剣だと一撃で倒せるそうですよ。だからそんなに心配する必要はないと思います」
ダニエラお義姉様を元気づけようと明るい話題を提供した……つもりだったのだが、どうやらこの言葉はタブーだったようである。ダニエラお義姉様の顔がどんよりと曇った。
お父様とアレックスお兄様の表情は苦笑いである。
「ユリウスは知らないのね。実は……この国の聖剣を使える人がいないのよ。少なくとも、今は、ね」
なん……だと……? てっきりスペンサー王国にも聖剣の使い手がいて、何かあればエルヴィン様のように退治してくれると思っていたのだが、どうやらそんなことはないようだ。
ダニエラお義姉様の言葉から察するに、聖剣自体は間違いなくこの国にもあるようだ。
「それは、聖剣の使い方が継承されなかったということですか?」
「詳しくは私も分からないわ。聖剣の詳細については機密事項になっているのよ」
聖剣についてのことはダニエラお義姉様にも秘密にされているのか。それでも聖剣の使い手が現在は不在であることについては、それなりに知られているようである。お父様とアレックスお兄様も知っていたみたいだったからね。
まさか隣の大陸にあるラザール帝国はそれを見越して何かをやろうとしている? いやらしい国だな。とても好きにはなれそうにない。
もしかして、ダニエラお義姉様が心配しているのはこっちか? 黒い生物も気になるけど、それを使ってラザール帝国が、スペンサー王国の混乱を狙っているのではないかと疑っているのかもしれないな。
「この件に関して気になるのはもっともだが、今は国からの情報を待つ方がいいだろう。勝手に辺境伯家が騒いで、仮にそれが他の領地に広まったら、冗談では済まされないからな」
「そうですわね。申し訳ありませんでした」
「何か情報が入ってくれば必ず話す。約束しよう」
お父様の言葉にうなずくダニエラお義姉様。これでこの話は終わりだな。
帰ってきてから早々にするような話じゃなかった。話の発端が俺なだけに、申し訳ない気持ちで一杯だ。これはなんとか挽回しなければいけないな。
とは思ったものの、お父様からすると、俺は頭が痛いことをたくさん抱える爆弾のようなものだからね。名誉挽回するまでには時間がかかりそうである。
それからの時間はみんなでこれまでの出来事を話す時間になった。途中で夕食について聞きにきた料理長に、レイブン王国で教わった熟成肉の作り方を教えた。あとついでにショウガ焼きのレシピも教える。
料理長はどちらもとても気に入ったようで、すぐにでも作ってくれるそうである。熟成肉ができるのが楽しみだな。俺の話を聞いて、お父様もうれしそうな顔をしていた。お酒のつまみになりそうだもんね。
俺がいない間もハイネ商会では問題なく商品が作られていたようだ。最近ではロザリアが開発した乾風器が特に売れており、女性陣からの熱い支持を受けているらしい。
そのため、ロザリアの魔道具師としての評判もうなぎ登りのようである。実にいいことだ。
これで俺の魔道具師としての名前も徐々に霞んでくるはずである。
「魔法薬は王宮魔法薬師のみなさんが頑張ってくれているみたいですね。あとでお礼を言っておきます」
「そうしてもらえると助かるよ。ユリウスが戻ってくるのを楽しみにしていたみたいだからね」
「それならさっそく、レイブン王国で開発した、浄化の粉の作り方も教えなければなりませんね」
現在、ハイネ商会の魔法薬部門を支えているのは、間違いなく、王宮魔法薬師からハイネ辺境伯家へ出向しているみんなである。
それだけじゃない。騎士団が使った魔法薬の補充も行ってくれているのだ。ハイネ辺境伯家からも給料が出ていると思うが、他にも何か特典があった方がいいよね?
その特典はもちろん、俺が開発した魔法薬の作り方をすぐに知ることができることである。作り方のコツや、改良のやり方も教えちゃうぞ。
そうだ、ついでにドンドンノビールの作り方も教えよう。だれでも作れる園芸品としてね。
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おかげさまで、600話まで到達することができました。
これもいつも読んでいただいている皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
これからも力の限り続けていきますので、
応援の程をよろしくお願いします!
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