第590話 完全制覇は近い!

 室内訓練場を出て、次は庭師たちの所へと向かった。魔石砕きは問題なし。いや、問題があると言えばあるのかな?


「なんだか魔石砕きが人気の仕事になっているみたいだね。レイブン王国の騎士団長に謝っておいた方がいいかな?」

「謝る必要はないとは思いますが、一言、お世話になっていますくらいは言った方がよいかもしれませんわね」


 ファビエンヌも苦笑いである。あとで菓子折りを持ってお礼を言いにいくとしよう。その際、初級体力回復薬も持って行こうかな。

 そんなことを考えている間に庭師たちの小屋へと到着した。さすがにこの時間帯に庭師たちはいなかったが、数人の騎士たちが作業をしていた。


「ご苦労様です」

「これはユリウス様ではないですか。いつもお世話になっております」

「お世話になっているのはこちらの方ですよ。ドンドンノビールの在庫を見せてもらってもいいですか?」

「もちろんですよ。こちらです」


 そう言って、作業をしていた騎士の一人が隣にある倉庫へと案内してくれた。その中にはいくつものドンドンノビールを入れた袋が積み上げられていた。

 そこそこの数ではあるが、あの山全体を緑で覆い尽くすにはまだまだ足りないようである。


 それもそうか。今、ドンドンノビールを作っているのはここにいる数人の騎士たちと、仕事が終わったあとの庭師たちだけだからね。一日中作業をしている魔法薬師たちや魔石砕きを行っている騎士たちと同じにするのはよくないか。


「今日からは私もドンドンノビールの作製を手伝いますよ。けがれた大地の浄化は順調に進んでいました。これからはもっとたくさんのドンドンノビールが必要になると思います」

「それは心強い。我々も引き続き、協力させていただきますよ。人数が足りないようでしたら言って下さい。手があいている者を連れてきますので」


 胸を張る騎士。でもそれをやると、また騎士団長に迷惑をかけることになっちゃうんだよなぁ。魔石砕きに取られていた騎士たちがようやく戻ってきたかと思ったら、今度は肥料作製に連れていかれる。さすがの騎士団長も一言物申したくなるだろう。


「ありがとうございます。考えておきますね」


 こんなときは笑顔で先送りだ。きっと明日の自分がなんとかしてくれることだろう。

 そんなわけで、さっそくドンドンノビールを作ることにした。こんなこともあろうかと、作業しやすい服装にしておいてよかった。


 ファビエンヌはもちろんのこと、ネロとライオネルにも手伝ってもらいつつ作業をしていると、一仕事終えた庭師たちが続々と戻ってきた。


 もちろん庭師たちからも、俺たちがいない間に何か問題が起きていないかを聞いた。その結果、特に問題が起きているという話は出なかった。

 だがしかし、庭師たちはドンドンノビールの生産量が伸びないことを気にしていたようだ。そのため、俺たちが手伝うと聞いてとても喜んでいた。


 ドンドンノビールの生産量は国土の復興の速度に関わっているからね。心配していたのだろう。だがもう大丈夫だ。俺たちが来た。俺とファビエンヌが全力で生産すれば、たぶん大丈夫だろう。なんと言っても他に仕事がないからね!




 その後は村と王城を行き来する日が続いた。

 けがれた大地の浄化も順調に進み、今では山の大半の浄化が完了している。ドンドンノビールの生産も絶好調。大地の浄化と共に禿げ山に散布中だ。もっとも、今では禿げ山ではなく、麓から徐々に青々とした木々が生い茂りつつあるのだけどね。


 それに伴い、いつもお世話になっている村には人が戻りつつあった。

 いや、正確には違うな。戻りつつある、というよりも、以前より人が増えているようだった。

 原因はいくつかある。その一つが森の精霊様が育てたミカンの木である。


 どうもあのミカンの木は他のミカンの木とは違うようで、今では高級食材として扱われているようなんだよね。

 確かに甘くておいしい。そして食べると、なんだか力が湧き上がってくるような気がする。気のせいだと思いたい。


 そしてどこでそのウワサを聞きつけたのか、買いつけにくる人が現れ始めたのだ。そうこうしている間に、気がつけば人が増えていたと言うわけだ。

 何を言っているか分からないが、村がにぎわうのならそれでもいいやと思っている。


 村のみんなに食べてもらおうと思っていたのに、なんだか予想外の方向に進んでしまったな。村長は俺の言いつけを守って、なるべく村の人たちに分けているみたいだが、お金にもなるので、痛しかゆしの状態のようだ。

 そこは村長の裁量に任せることにしよう。念のため、よく効く胃薬を追加で渡しておいた。


「あと一週間もすれば、完全に山も元通りになるね。そうなると、レイブン王国の国土復興作戦も無事に完了するというわけだ」


 今日の作業も終わり、村長宅にある部屋へと戻ってきた。ここには何度もお世話になっているので、すでに実家のような感覚になっている。置かれている調度品も派手ではなく、元々が庶民の俺にとっては、人目を気にせずくつろぐことができる素敵空間である。


「そうですわね」


 あれ? なんだかよく分からないけど、ファビエンヌが苦笑いしているぞ。理由が分からずにネロを見たが、ネロも分からなかったらしく、俺と同じように首をかしげていた。

 どういうことなの……。その一方で、ライオネルはファビエンヌと同じように苦笑いしていた。ムムム!


「ライオネル、言いたいことがあるならハッキリと言ってくれ」

「コホン、それではあえて言わせていただきましょう。……我々の仕事は国土の復興に目処をつけることではありませんでしたかな? それがどうして、国土の完全復興が目的になっているのでしょうか」

「あ……」


 し、しまった! 言われてみれば確かに、そんな話だったような気がする。完全に忘れていた。どうしてファビエンヌは止めてくれなかったんだ。


 自分の顔が引きつっているのが分かる。それでもなんとか笑顔を浮かべようと頑張りながらファビエンヌの方を見た。たぶん今の俺の顔は他の人には見せられない顔になっていることだろう。


「ユリウス様、本当に気がついておりませんでしたのね。てっきり私はユリウス様が期限内にすべてを終わらせるつもりなのだと思っておりましたわ」


 困ったように眉をこれでもかと下げたファビエンヌ。俺の変顔に困っているのか、それとも俺のやらかしに困っているのか。それはファビエンヌにしか分からない。


「どうして……」

「だって、あんなに毎日みんなと一緒に頑張っておりましたのよ? そう思わない方がおかしいのではないでしょうか。きっとソフィア様たちもそう思っているはずですわ」


 そんなバカな。ウソダドンドコドーン!

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