第581話 助かった……のか?
村に戻った俺は速攻で村長の家へと運び込まれた。そして速攻でファビエンヌを着替えさせた。先ほど座り込んだときにファビエンヌの服が汚れてしまっていたからね。主に俺のせいである。
着替え終わったファビエンヌが戻って来たところで昼食の時間になった。ネロが俺たちの分の昼食を部屋まで運んでくれた。
部屋の中には何かあったときのためにライオネルの姿もある。ごめんなさいをするなら今しかない。今ならソフィア様もエルヴィン様もこの部屋にいない。俺が倒れたという話を聞いたら、この部屋に飛んで来そうだからね。
食事を食べながら、まずは謝ることにした。
「ごめん、ファビエンヌ。ネロもライオネルもごめん」
「なぜ謝っているのですか? そのようなことをする必要はありませんわ」
「いや、あるんだよ。さっきの俺は魔力が切れた振りをしただけなんだ」
「え?」
ファビエンヌが固まった。そしてその目がだんだん細くなってきた。まずい、激おこぷんぷんファビエンヌになってる!
「違うんだ、違うんだよファビエンヌ。あそこで魔力が切れた振りをしないと、大変なことになっていただろう? そうだよね、ライオネル?」
「確かにそうですな。あのような大規模な魔法を使ったのに、何事もなかったかのようにピンピンしていたら、普通ではないと思われるでしょうな。それこそ、神の使徒かと思われるかと」
「か、神の使徒! ライオネル、キミは一体何を言っているのかな?」
思わず動揺してしまった。本当にいきなり何を言い出すんだ。実際そうかもしれないけど、そんなことを認めてしまったら、とっても面倒くさいことになりそうだ。
チラリとファビエンヌとネロの顔色をうかがうと、二人ともすごくいい笑顔になっていた。
おお、二人からも疑われておる。いや、この顔はライオネルの言葉に納得しているのかもしれない。どちらにしろ、あまりよくない状況になっているのは確かだ。黙っておいた方がよかったかな? でも、ファビエンヌにはあまり隠し事をしたくない。
「ユリウス様はやはり……いえ、なんでもありませんわ。ユリウス様の体調に問題がないのなら、それでよろしいですわ」
ニッコリと笑うファビエンヌ。助かった……のか? ネロがこのことを手帳に書いていないところを見ると、報告するのはまずいと判断したようである。……それって俺を神の使徒と認識したということだよね?
ライオネルくん? キミが余計なことを言うからややこしいことになってしまったじゃないか。どうしてくれんだライオネル。俺が普通とは少し違うと思われるのは仕方がないとしても、神の使徒と確定するのは許容できないぞ。
「三人に言っておくけど、俺は神の使徒なんかじゃないからね」
「分かっておりますわ」
「分かっていますよ」
「分かっておりますとも」
「本当? 間違っても外でそんなこと言わないでよね」
みんなのその笑顔がなんか怖いんだけど。だがこれ以上、三人を疑うのはよくないな。今はその言葉を信じて昼食を食べることにしよう。
モリモリと昼食を食べていると、ちょっと荒く扉がノックされた。
これはアレだな。ソフィア様とエルヴィン様だな。目配せをするとライオネルが声をかけだ。
「どちら様でしょうか?」
「ソフィアです。ユリウス様が倒れたと聞きました」
切羽詰まった声である。どうしよう。俺が元気に昼食をモリモリと食べていたら、さすがに困惑するよね?
ソフィア様は俺のことを心配してくれているのだろうが、さっきみんなに話したことをソフィア様にも話せば、これまで以上に俺を頼りにするかもしれない。
俺の魔法でけがれた大地をすべて浄化してくれ、なんて頼まれたらさすがに困る。そんなことをすれば、ここまでのみんなの頑張りがすべて無駄になってしまう。そして名を上げるのは他国の者である俺だ。それはよくない。
俺はライオネルに向かって、首を左右に振った。それに対してライオネルがうなずきを返す。
「申し訳ありませんが、ただいまユリウス様はお休みになっております。しばらく時間を空けていただけないでしょうか?」
「それは申し訳ありませんでした。時間を改めてまた来ますわ」
扉の向こうで、人が去っていく気配がした。
う、胸が痛い。だがやむなし。これ以上のやらかしは避けなければならない。黒い巨木討伐は森の精霊様が主体となってやったことにすれば問題ないだろう。あの光景を見ていたなら、俺一人の力で倒したとは思わないはずだ。
「ユリウス様、一国の王女様にウソをついたのですから、今日はベッドで大人しくしておかなければなりませんぞ」
「分かってるよ。昼食が終わったらベッドで横になっておくよ」
なんだかんだ言っても、ライオネルは俺の体のことを気にしているようだ。大丈夫だ、問題ないと言っても、全面的に信じたわけではないようである。それはファビエンヌもネロも同じようだ。ちょっと気づかうような目をこちらへ向けていた。本当に大丈夫なのに。
昼食を終えると、言われた通りベッドで横になった。そしてたちまち襲いかかって来る睡魔。大丈夫ではあるが、それなりに魔力を消費したようである。初級魔力回復薬を飲んでも回復しきれなかったようだ。あとはみんなに任せよう。俺は意識を手放した。
「……様、ユリウス様、ソフィア様がお見えになりましたわよ」
「んあ? おはよう。ファビエンヌ」
「おはようございます……ってそうではなくて、起きて下さい」
ベッドから体を起こす。すぐにファビエンヌが背中の辺りに枕を差し込んできた。うん、疲れはちゃんと取れているな。魔力も回復している。これでまたしばらくは頑張れるぞ。ファビエンヌからのご褒美があったら、もっと頑張れるんだけど。
「ユリウス様、入りますわよ?」
「ええ、どうぞ」
ソッと探るかのように、ソフィア様とエルヴィン様が部屋に入ってきた。ベッドの上に上半身を起こしている俺を見て、二人が眉を下げた。
まずい、ベッドの上じゃなくて、イスに座って二人を迎えるべきだったな。二人に余計な心配をさせてしまった。
「体調はどうでしょうか?」
「しっかり休ませていただきましたので、この通り元気になりましたよ」
二人にこれ以上の心配をさせないように笑顔を向けた。
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