第574話 滋養強壮効果
昼食を食べ終えた俺たちみんなは、午後からの作業に取りかかった。
だがしかし、これは一体どうしたことか。なんだか体が軽いような気がする。気のせいだよね? 俺の作った料理に、なんか変な滋養強壮効果が付与されているとか、ないよね?
……そういえば、ゲーム内での料理にはステータスアップ効果がついているんだったな。だがここはゲーム内ではなく現実世界。そんな特殊な効果があるはずはない。あってたまるか。そんな話、聞いたこともないし、見たこともないぞ。頼む、なしにしてくれ。
「なんだか体が軽いような気がしますわ」
「そう? 気のせいじゃない?」
まずい、どうやらそう思ったのは俺だけじゃないようだ。全力でごまかさなければならない。すでに悪い予感しかしないぞ。
そんな俺の隣で、ネロもしきりに首をひねっていた。それ以上、何も言うんじゃない。ネロ、ステイ、ステイ!
「ファビエンヌ様もそう思いますか? 私もなんだか体の調子がいいような気がするのですよね」
「同感ですな。体が軽い、というよりか……筋力が増強されているようですな」
重そうな肥料を片手で持ち上げていたライオネルが、今度は指一本で持ち上げ始めた。うっそだろお前。どんだけ偉大な力があるんだよ。そしてそんな疑うような目で俺を見るんじゃない。知らなかったんだよ、本当に。
「気のせいだよ、気のせい。ライオネルのレベルが上がったんじゃない? そんなことよりもほら、仕事、仕事。明日こそはドンドンノビールを現地にまきに行くんだからね」
「レベルが上がる?」
おっと、そういえばこの世界にはレベルアップの概念がなかったな。余計なことを口走ってしまった。俺は何も言っていない。いいね?
片方の眉を器用に上げたライオネルの顔が視界の片隅に映ったが、俺は何も見なかったことにした。なんて冷静で的確な判断力なんだ。
「ほら、みんなも動いて。午後からは庭師たちも加わるから、ますます忙しくなるよ」
「ごまかしましたな」
「ごまかしましたわね」
「ごまかしましたね」
アーアー聞こえない、聞こえない。俺には何も聞こえなかったぞ。そんなことよりも早く作業に戻るんだ、キミたち。
みんなに持ち場へ戻るように言おうと思ったそのとき、バタンと扉が開かれた。
「ユリウス様、大変です! なんだか力がみなぎってきたのですが、これは一体?」
そう言って数人の騎士たちが入って来た。タンクトップがはち切れそうなほどパンパンになっている。力を込めたらはじけ飛びそうである。やめてよね、ファビエンヌの前だからね。
それよりも、どうして上着を脱ぐ必要があったんだ。
そんなファビエンヌは自分の顔を隠すかのように俺の後ろにしがみついた。それに気がついた騎士たちが、イヤンとばかりに両手で体を隠した。うーん、これが美女だったらよかったのに。
「もしかすると、ショウガの効果かもしれません。一応、魔法薬の素材ですからね。はい解散。作業に戻って」
パチンと手をたたいてその場を解散させる。これは魔法薬の効果。きっとそう。俺が料理を作ったからじゃないはずだ。間違いない。ドライフルーツを作ったときはなんともなかったし。
……いやでもあれはほとんど魔道具に入れただけだもんな。調理したかと言えば微妙か。
ライオネルたちはそれで納得してくれたのか、作業に戻ってくれた。俺も作業を再開しよう。
うお、魔法の威力も上がっているし、なんだか魔法を使ったときの疲労感もいつもよりか軽い気がする。どんな滋養強壮効果だよ。
そうこうしているうちに、仕事を終えた庭師たちが続々と戻って来た。……戻って来るのが早くないですかね。昨日はもっと遅かったですよね?
「ユリウス様が作って下さった昼食を食べたおかげか、いつもの倍の速度で仕事を終わらせることができましたよ」
「さすがはユリウス様が作って下さった食事ですね。力がみなぎる感じがしましたよ」
見事な力こぶを作る庭師。いやー、うん。実際にみなぎっているんだよなー。
その後も次々と庭師たちがあいさつにやってきた。そしてお互いの体調のよさをアピールしたいのか、超高速の反復横跳びをお互いに披露している。ムダに速いな……。
そんな力あふれる庭師たちの力を借りつつ、ドンドンノビールを生産していく。
途中で苗木の試験場へ行き、肥料をまく量を決めておいた。前回の反省を生かして与える量を計算すると、二十分の一くらいでよさそうだ。この量なら、二週間ほどかけてジワジワと大きく育ってくれることだろう。
試しにその量を小さな苗木に与えておく。明日の朝には結果が出ているはずだ。
急激に大きく育ったシダーウッドの大木を、念のため『鑑定』スキルで調べて見たが、特に問題はなさそうである。すこぶる元気だ。鑑定結果の中に”レイブン王国の御神木”と書かれていたのは見なかったことにした。どうしてこうなった。
結局その日は、昨日の倍くらいの量を作ることができた。これだけあれば、明日から本格的に始まる、けがれた大地の浄化作業にも間に合うことだろう。
「このペースなら問題なさそうだね。念のため、しばらくの間は浄化作業について行こうと思っているんだけど、ファビエンヌはどうする?」
「う……い、行きますわ」
前回のあの山の光景を思い出したのだろう。一瞬だけグッと顔を曇らせたが、そのあとはしっかりと俺の目を見てそう宣言した。ならばよし。一緒に行くとしよう。もちろん、ファビエンヌがあの光景を見なくていいように、極力配慮はするつもりだけどね。
目隠しプレイとかどうかな? やっぱりいやらしいかな?
今日の作業は終わりにして、みんなを解散させた。庭師たちも要領をつかんだようである。これなら俺が不在でも、それなりの量のドンドンノビールを生産できそうだ。
心に安心感を覚えながら城に戻ると、俺たちを待ち構えていたかのようにソフィア様とエルヴィン様が現れた。何かあったのかな? まさか……。
「ユリウス様、庭師から聞きましたわよ。なんでも、ショウガ焼き定食とか言う名前の昼食をみなさんに振る舞ったそうですわね?」
「あー、まあ、そうですね?」
やっぱり! どうして俺は口止めしておかなかったんだ。こうなってしまっては、もう後の祭りである。二人には食材や、ドンドンノビールの素材で多大なるお世話になっているので腹をくくるしかないな。料理人に教えるくらいでいいよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。