第573話 ショウガ焼き定食
普通に作っただけだから、そんなに特別においしいはずはないんだけど……もしかして、『料理』スキルが何か悪さしちゃった感じかな? まあ、しかめっ面で食べられるよりかはいいか。いいということにしておこう。
隣を見ると、ファビエンヌもネロも、目を輝かせて食べていた。どうやら気に入ってもらえたようである。俺も食べよう。ん? これは……。
「うまっ! どうして?」
「どうしてって、ユリウス様がお作りになったのですよ? なぜ驚いているのですか」
ファビエンヌが苦笑しているが、フォークには次のショウガ焼きが刺さっている。気に入ってくれたんだね。よかった。
スーパーで見かけるショウガ焼き用の肉よりも、ちょっと厚めに切った肉からはジュワッとした旨味が飛び出してくる。それがショウガの味とからんで、口の中に絶妙なハーモニーを生み出している。つまり、すごくおいしいってこと。
「うめっ、うめっ! まさかこんなにおいしいとは思わなかった……」
「さすがはユリウス様ですね。ご自身でも驚くほどのおいしい料理を作り出せるだなんて」
ネロが感激しながらショウガ焼きを食べている。ライオネルは……あれから無言で食べ進めているな。スタミナ回復にもいいだろうし、帰ったら料理長に作り方を教えておこう。そして庭の薬草園にショウガを大量に植えなきゃ。なんだか大量に必要になりそうな気がする。
大好評だったショウガ焼き定食はあっという間に食べ終わった。ここで味噌汁があればよかったのだが、残念ながら味噌汁はない。欲しいな、味噌。それがあれば豚汁も作れるぞ。
うん、そうだな、味噌がなければ作ればいいじゃない。でもなんだか嫌な予感がするぞ。
早めの昼食を終えた俺たちは、これから戻って来る庭師や、外で作業している騎士たちへの食事を準備する。作るのは二度目になるので、ファビエンヌの手際もバッチリだ。
さすがはファビエンヌ。優秀だな。これならそのうちファビエンヌにも『料理』スキルが芽生えて、ファビエンヌのおいしい手料理が食べられるようになるかもしれない。うは、夢が広がりんぐ!
二人でせっせせっせと準備をしていると、みんなが小屋へと戻ってきた。
その瞬間、何かに気がついたようである。さすがは腹ぺこ星人たち。午前中の過酷な作業でおなかをすかせているのだろう。
「な、なんだこのおいしそうな匂いは……」
「なんでしょうか……始めての香り? でもどこかで嗅いだことがあるような」
おっと、人が増えすぎる前に、戻って来た人たちから順番に食べてもらわないと。休憩室はそれなりに広いけど、だからと言って全員が入れるほどの広さはないからね。
「戻って来た人たちから順番に、手を洗ってからテーブルに座って下さい。すぐにショウガ焼き定食を運びますので」
「ショウガ焼き定食? この香りはショウガの香りなのですね。でも、確かショウガは魔法薬の素材ではなかったですか?」
「よくご存じですね。魔法薬の素材としても使えますが、食材としても使えるのですよ」
ニッコリと笑いながら、手を洗ってテーブルに着席した人たちから順番にショウガ焼き定食を提供する。手を洗っていない人はスルーする。気がついたのか、慌てて手を洗いに行った。衛生管理、ヨシ!
「ショウガが食材として使えるとは知りませんでした。さすがはユリウス様ですね。なんでも知っていらっしゃる」
どうやら本当に、ショウガは食材として使われていなかったようである。これはまずい。どこかの本に、ショウガは食材にも使えますよ、おいしいですよ、みたいなことが書いてあることを願うしかない。
俺が神様に祈りをささげている間に、みんなが昼食を食べ始めたようである。
「それではユリウス様、いただきます」
「ユリウス様に感謝を」
なんの疑いもなく食べ始めるみなさん。俺が言うのもなんだけど、もうちょっと警戒した方がいいんじゃないかな? 一応、みんなが初めて食べる料理なわけだし。
内心で汗をかきながらみんなの様子を見守る。
ファビエンヌたちからの評判もよかったし、自分で食べてもおいしかったから問題ないとは思うけど、ドキドキするね。
「な、なんだこれは……うーまーいーぞー!!」
えっと、ちょっと待った。騎士たちからライオネルと同じ声があがったんだけど……。もしかして騎士たちの間で流行っているのかな? ライオネルは俺の隣で”そうだろう、そうだろう”と言わんばかりに、腕を組んだ状態でうなずいている。
「初めて食べる味ですが、これはおいしいですね。肉汁が調味料とよくからんでいます。これがショウガの味と力。どうして今まで使われていなかったのでしょうか?」
首をしきりにかしげている庭師たち。それはね、だれも食材と思っていなかったからだよ。
うーん、まずい。これは本格的にまずいぞ。このままではショウガが食材であることを俺が発見したことになってしまいそうだ。まさかこんなことになるだなんて。
だがしかし、やってしまったものはもうどうしようもない。俺たちはその後も続々と戻って来る庭師たちのために、追加のショウガ焼き定食を準備するのであった。
なお、お弁当を持参していた庭師たちもショウガ焼きをひとかけらほどもらったようだ。それを食した人たちは涙を流している。
君たち、間違ってもお弁当を用意してくれた人に対して不平不満を言わないようにね。俺のショウガ焼き定食が家庭崩壊を招く原因になるとか、嫌だからね?
「ようやく終わった。ファビエンヌもお疲れ様」
「ユリウス様もお疲れ様ですわ。料理人たちはいつもこのような状況で、料理を用意して下さっているのですね。もっと感謝して食事をいただかないといけないと思いましたわ」
「その通りだね。料理人に、すべての食材に感謝して食事を食べないといけないね」
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