第547話 土の精霊の加護
変な仮面をつけた二足歩行するカメがやって来て、村はさぞ微妙な空気に包まれるだろうなと思ったが、そんなことはなかった。村人たちの人数は少ないながらも、お祭りのような歓迎だった。
「土の精霊様がここへいらっしゃったということは、あの山を元に戻してくれるということですよね?」
「湖の精霊様に川の精霊様がいるということは、この辺りの水も使えるようになるのですか?」
質問攻めにされている精霊様たち。てんやわんやだな。だが村人たちの気持ちも分かる。今はこの村が存続できるかどうかの瀬戸際なのだ。
精霊様たちは村人たちの質問に丁寧に答えているようだった。
「もちろんあの山を元に戻すつもりだよ。でもそのためには、どうしてもユリウスの、みんなの力が必要なんだ。精霊といえども、なんでもできるわけじゃないんだ。残念だけどね」
「水の浄化にはまだ時間がかかるじゃろう。じゃが、汚染の広がりを食い止めることはできるぞ。その間にユリウスと、皆の力で浄化するのじゃ」
……なんかちょいちょい俺の名前が出てるんだけど。別に要らないですよね? そこは”みんなの力で”でいいですよね?
そうこうしている間に、話を聞きつけたのか研究者たちが戻って来た。ダッシュで。山道で全力ダッシュすると危ないぞ。
「ユリウス様、聞きましたよ!」
「あ、お帰りなさい」
「こちらが精霊様ですが! おおお、なんと神々しいお姿でしょうか」
そうか? それはさすがにないだろうと全力で否定したい。でもできない。見た目が変態でも精霊様だからね。粗相はできない。俺が紹介すると、歓喜の涙を流しながら握手していた。
やっぱり精霊様たちはすごい人たちだったのか。全然実感が湧かないけど。
「ユリウス様は精霊様とつながりがあったのですね」
「ええ、まあ……」
「ユリウスとは加護で結びついておるからな。お呼びとあれば、即、参上、じゃ」
「精霊様の加護……ですと……?」
絶句する研究者たち。村人たちも同様だ。そして俺を見る目になんだか奇妙な色が宿りつつあった。俺は神様じゃないからね? たぶん女神様の使徒ではあると思うけど。
この微妙な空気をなんとかしようと思っていると、土の精霊様がマイペースに話しかけてきた。
「おっと、忘れるところだった。ユリウスにボクの加護をあげるよ。はい、どうぞ」
「え? あ、ありがとうございます」
手の甲に土の模様が浮かび上がった。
土の精霊の加護、ゲットだぜ! これで精霊の加護は全部で五個。目指せ、精霊マスター! って、なんでだよ! どうしてこうなってしまうんだ。なんでそんなにさらりと何事もないかのように加護をくれるんだよ。
もっとそこはほら、なんか神々しい場所で秘密裏に儀式が行われるものなんじゃないですかね~? 今さらだけど。こんなことされたら、嫌でも目立っちゃう。ほら、みんなが注目しているじゃないか。どうしよう。
「えっと、それでは、土の精霊様、けがれた大地を元に戻す方法は他にはないのですか?」
「さっきみんなでまいてた粉を使うのが一番早いかな。あの粉はすごいね。一瞬で大地が浄化されるんだもん。ボクの力だと、広範囲を浄化できるけど、時間が結構かかるんだよね」
「結構ってどのくらいですか?」
「二万年くらいかな?」
結構ってレベルじゃねぇぞ。この地上から文明がなくなっていてもおかしくないレベルだ。これはダメだ。引き続き浄化の粉を作って浄化していくしかない。
だがその一方で、土の精霊様が頼りになることもある。
「それではけがれた大地の浄化は引き続き私たちがやりますので、汚染の拡大を防いでもらえませんか?」
「任せてよ。ボクがこの辺りに戻って来たからには、これ以上、汚染が広がることはないよ」
「おおおおお!」
歓喜の声を上げる研究者と村人たち。ひとまず汚染によってレイブン王国全土が使い物にならなくなる事態は避けられたようである。
これならあとはレイブン王国の人たちに任せても大丈夫かな? 浄化の粉の作り方は教えてあるし、あとは地道にそれをまけばいいだけだ。
「あの粉を使うのもいいけど、魔法で一気に浄化するのもありかもしれないよ?」
「そのような魔法があるのですか?」
土の精霊様の意味深なセリフに、研究者の一人がそう言った。そして俺の方をチラチラと見る土の精霊様。
これは俺が浄化の魔法を使えることがバレてるな~。どこからバレたんだろう。やっぱり女神様からかな?
そうなると、女神様と精霊様との間にはなんらかのやり取りがあるということだ。困ったときに相談すれば、女神様に話が行くかもしれない。これはこれで何かのときに使えそうではあるな。逆もまたしかりだけどね。
「あると言えばあるよ。まあ、使える人は限られているけどね」
土の精霊様の発言に耳を疑った。もしかして、俺以外にも浄化の魔法が使える人物がいる可能性があるのか? 聖女の話はウソみたいだったけど、この世界には本物の聖女がどこかにいるのかもしれないな。
「貴重な情報をありがとうございます。国王陛下に報告して、その人物を探すように進言しておきます」
深々と頭を下げる研究者さん。これでもし見つかれば、今度こそ俺はお役御免になるだろう。レイブン王国の滞在時間が延びるかと思っていたが、短くなる可能性も出て来たぞ。
その後俺たちはこれからのことを話して、精霊様たちとお別れすることになった。
お礼としてドライフルーツを渡しておいたのだが、これでよかったのだろうか? 当然のことながら量は足りていないだろう。
ハイネ辺境伯家の神棚に追加のドライフルーツをお供えしてもらうように手紙を書いて頼んでおこう。
「ライオネル、手紙に土の精霊様から加護をもらった話を書いたら怒られるかな?」
「いえ、そのようなことはないかと……まあ、驚きはするでしょうが」
「そうかもしれないね。それに、またあきれられそうだな」
「いつものことですから、旦那様ももう慣れておりますよ」
うーん、あんまり慰めになっていないぞ。おそらく事実だろうから反論はできないけど。こうなったらアレだ。ファビエンヌにあきれられなければいいやと思うんだ。
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