第548話 夕食と報告

 その日の夕食は昨日よりも豪華だった。どうやら秘蔵していた食料を提供してくれたようである。そんなことしなくてもいいのにと思ったのだが、村人たちと研究者たちの気が収まらなかったようである。


 申し訳ない気持ちになりながらも、せっかくなのでみんなでおいしくいただいた。特に秘伝の熟成肉が最高においしかった。あまりのおいしさに作り方を教わったので、ハイネ辺境伯家へ戻ったら、さっそく料理人たちに伝授しようと思う。


 明日にはこの村を出て王都へ戻ることになる。王都へ戻ったら、この村へ支援物資を送ることにしよう。この村だけじゃない。周辺の村にも届けなきゃ。廃村になれば、また一からやり直さなければならなくなる。そうなると、復興までにどれだけの時間がかかるか分からない。


 夕食を終えた俺はベッドにゴロンと横になった。この村にはお風呂がないみたいで、夜はお湯で体を拭くだけである。これからこの村はけがれた大地を浄化する最前線になるのかな? そうなると、施設の充実は必要な項目なのかもしれない。


「今日はけがれた大地の浄化に大きく前進しましたわね」

「そうだね。まさか本当に精霊様たちが来てくれるとは思ってなかったよ」

「ユリウス様が精霊様を呼んでくれたおかげですわ。さすがユリウス様です」


 目を輝かせるファビエンヌが俺の隣に座った。ベッドがポヨンと揺れる。土の精霊様が来て加護をもらったのは予想外だったけど、これでよかったと思うことにしよう。

 先ほどの出来事を研究者たちが報告すれば、国王陛下はさぞかし喜んでくれるだろうな。


 これで一気に国土浄化作戦が進むかもしれない。問題は魔石の粉と枯れてしまった緑の再生だけど……まあなんとかなるだろう。ここで考えてもどうにもならないこともある。壁にぶち当たってから考えよう。


「レイブン王国に帰ったら、まずはハイネ辺境伯家へ手紙を書かないといけないな。ファビエンヌもご両親に手紙を書く?」

「そうですわね。そうさせていただきますわ」


 よしよし。これでファビエンヌからアンベール男爵家へ手紙が行けば、少しは夫妻も安心することだろう。俺がファビエンヌを大事にしていることも分かってもらえるはずだ。


「手紙を書いたら次は植物栄養剤をどうするかだな。あとは蓄音機の追加も作らなきゃ」

「ユリウス様、私はあの山の状態を見て、ますます植物栄養剤が必要だと思いましたわ」

「そうなんだよね。あの状態だと、木材を伐採できるようになるまでには数年かかるのは間違いないと思う。そうなると、それまでこの村はまともな収入がないことになるからね」


 さすがにそれだと村の存続は厳しいか? 数年後に改めて開拓村を作って、とかになるのかな。この場所は先祖伝来の土地だって言ってたし、ご先祖様が寂しい思いをするかもしれない。


「万能植物栄養剤では植物が急激に生長することはありませんわ。やはり違う種類の植物栄養剤が必要だと思います」

「そうだね。王都に戻ったら、それも踏まえて考えることにしよう」


 王都へ戻ったら色々やらなきゃいけないな。忙しくなりそうだ。英気を養うためにも今日は早めに休むとしよう。とりあえず今はファビエンヌに膝枕をしてもらおう。




 翌日、俺たちは村人たちから惜しまれつつも村を去った。早朝からの出発だったので、今日の夜には王都へ到着できるそうだ。

 今日は移動だけで終わりだな。王都へ戻ったら、夕食を食べて、お風呂に入ってから寝る。これで決まりだ。本格的に動くのは明日から。


 そう思っていたんだけど、どうやら俺が色々とやらかしたことはすでに国王陛下を始め、王妃殿下やソフィア様、エルヴィン様にも伝わっていたようだ。もちろんジョバンニ様たちにもである。


 浄化の粉の試験結果の報告のついでに、ジョバンニ様たちにも話が伝わったようだ。

 まあ、遅かれ早かれ伝わることにはなるんだけどね。今日くらいはゆっくりと過ごしたかった。


 そんなわけで、もちろん夕食は国王陛下たちと一緒だった。ファビエンヌと一緒にゆっくり食べたかったんだけどね。一日馬車の移動で疲れているし。

 その場で報告できるのが俺しかいなかったので、一通りのことを話すことになった。詳しい話は研究者たちに聞いてもらうことにしよう。


「ユリウス様にはなんとお礼を言ったらよいか。本当にありがとう」


 国王陛下がただのしがない辺境伯の三男坊に頭を下げてきた。これはまずい。このままではスペンサー王国がレイブン王国の上に立っているように見えてしまう。

 そんなことになれば、レイブン王国の国民にも、他国からも目をつけられることになるだろう。それはお互いに望んでいないはずだ。

 慌てて言葉を選んで返事をする。


「いえ、気にしないで下さい。友好国として、できる限りのことをしたに過ぎませんから」

「何か我々にできることがあればなんでも言って欲しい。遠慮はいらないぞ」

「ありがとうございます。何か考えておきます」


 今朝出発した村の支援を頼もうかと思ったが、それはやめておいた。国が特定の村を支援するのは平等とは言えないからな。間違いなく、他の苦労している町や村から不満が出る。ここは俺個人で動いた方が後腐れがなくてすみそうだ。


「ユリウス様、浄化する方法は魔法薬以外にもあるそうですね」


 研究者たちからの手紙に書いてあったのだろう。エルヴィン様がそう聞いてきた。偽物の聖女の話があるからね。疑わしく思っていても仕方ないことだろう。ここは浄化の魔法の使い手を探してもらう意味も込めて、ちゃんと話しておいた方がよさそうだ。


「土の精霊様の話によるとそうみたいですね。魔法もそうですが、もしかすると、聖剣でもできるかもしれませんよ」

「聖剣でも……それならまだまだ使いこなせていないということか」


 レイブン王国にある、聖剣ゲートキーパーを使えば、浄化することは可能だ。単に楽園への扉を開くだけの剣じゃないのだ。その性質が際立っているのは確かだけどね。

 俺が使い方を教えることができればいいんだけど、それをやっちゃうと色々と問題になりそうなんだよな。他国の聖剣の使い方を知っているとか、ダメに決まっている。


 すでに聖剣を修復したという実績はある。だけどあれは、どこかで見た本に書いてあったということで納得してもらっているのだ。さすがに二度目も同じ手が通用するとは思えない。

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