第491話 癒やし効果
庭の見学が終わると、そのままの流れでファビエンヌが管理している薬草園へと向かった。そこでもやはり、青々とした葉が元気よく茂っていた。
「これはすごいね。何度かユリウスが管理しているハイネ辺境伯家の薬草園を見せてもらったことがあるけど、遜色ないよ」
アレックスお兄様が薬草園を訪れていることは知らなかった。いつの間に見学していたのだろうか。温室には何度か来ているみたいだったけどね。あそこにはお茶をするためのテーブルが設置されているし、季節に関係なく、色んな花が咲いている。それを見るだけでも十分に癒やされるのだ。冬の間はとても重宝した。
「私が管理している薬草園よりも、ファビエンヌが手入れしている薬草園の方が穏やかに感じますね。向こうはなんだか殺伐とした雰囲気があります」
「殺伐とした雰囲気……なかなか面白い表現だね」
納得したのかは分からないが、なんとなく察してくれたような気がする。向こうは育成重視だから、美しさはそれほど追求していないんだよね。品質と量が確保できればよし。うん、殺伐としそうではあるな。
「ユリウスがそう感じるのも分かるわ。薬草園なのに、なんだか穏やかな気持ちになるのよね」
「それだけファビエンヌが改良した植物栄養剤の効果が緩やかだということですよ」
魔法薬の素材としての効果なのか、この場にいるだけでそれなりの癒やし効果を与えてくれるようである。ダニエラお義姉様がほんわかした表情になっている。
植物栄養剤に癒やしの効果を追加するか。考えたこともなかったな。これは新しい発見だぞ。
「ファビエンヌ嬢が改良した植物栄養剤をハイネ商会で取り扱いたいと思うんだけど、いいかな? もちろん、悪いようにはしないよ」
「私からもお願いするわ。この魔法薬が広がれば、もっと領地が豊かになるはずよ」
アレックスお兄様とダニエラお義姉様の問いかけに、うれしそうな表情になるファビエンヌ。アンベール男爵夫妻はそれを聞いて驚いて目を大きくしていた。
どうやら無事にファビエンヌの才能を認めてもらえたようである。婚約者としてうれしい限りだ。
「もちろんですわ。私が改良した魔法薬が皆さんのお役に立てるのならうれしいです」
「それじゃ、決まりだね。この魔法薬の効果はすでにこうして実証されている。何も問題ないよ。ファビエンヌが魔法薬師の資格を取るまで、ハイネ辺境伯家がしっかりとこの魔法薬の責任を受け持つから安心して欲しい」
「屋敷に戻ったら、すぐに農作物への影響を調べないと行けないわね」
うれしそうにファビエンヌが返事をした。それを受けて、アレックスお兄様とダニエラお義姉様もうれしそうに話している。もちろん俺もうれしい。
「ユリウスお兄様、温室でも使ってみたいですわ」
「そうだね。屋敷に戻ったらさっそく作って、温室でも使ってみよう。あそこなら色んな作物も育てられるから、ちょうどいいかもね」
「確かにそうだね。それじゃ、作物に対する試験はユリウスに任せてもいいかな?」
「もちろんですよ。任せて下さい」
ファビエンヌが作った魔法薬の効果を実証するには打って付けだな。失敗は許されない。油断せずにやろう。
アンベール男爵家での見学会を終えた俺たちは、ファビエンヌを馬車に乗せてハイネ辺境伯家の屋敷へと戻った。
帰り際にアンベール男爵夫妻に特製胃薬を渡しておいた。これで夫妻の胃は守られたはずである。
屋敷に戻るとすぐにアレックスお兄様とダニエラお義姉様はハイネ商会へと向かった。残った俺たちはさっそく調合室へ行き、魔法薬の作成に取りかかった。ファビエンヌから作り方を教わらなければならない。ついに俺もファビエンヌから教わる立場になったのだ。ちょっぴりファビエンヌが恥ずかしそうにしていたのが印象的だった。成長したね。
ロザリアは午前中の勉強へと向かった。ロザリアの授業が終われば、次は俺とファビエンヌ、ネロの時間なので、それまでの間に魔法薬を作り上げないといけないな。ちなみにミラは甘い匂いに誘われてふらふらと去って行った。あの方向は調理場だな。ドライフルーツでも作っているのかも知れない。
「まさかユリウス様に魔法薬の作り方を教える日が来るとは思いませんでしたわ」
「そうかな? 俺はいつかこんな日が来ることを夢見ていたよ。これで俺たちは対等な立場だね」
「それは……さすがに無理があると思いますわよ?」
ファビエンヌが眉をハの字に曲げている。どうやらまだまだ俺とファビエンヌとの間には差があるようだった。俺はそんなつもりはないんだけどね。でもファビエンヌが言うその差も、着実に縮まっていると思う。
王都から修行に来ている王宮魔法薬師のみんなと一緒にファビエンヌから魔法薬の作り方を学ぶ。なるほど、入れる素材の量を減らして、代わりに大ミツバチの蜜を入れているのか。大ミツバチの蜜には疲労回復効果が含まれていたな。それが植物にもいい感じに影響しているのだろう。
魔法薬には無限大の可能性がある。発想次第でファビエンヌが開発した魔法薬のように素晴らしい効果を期待することができるのだ。もちろんその逆に、毒を作ったり、悪い効果を発揮するものを作れたりもするんだけどね。
ファビエンヌが開発した魔法薬はすぐに王都にも伝えられることになった。これによって魔法薬の安全性が保証されるし、ファビエンヌが開発したことをとがめられることもないはずだ。王宮魔法薬師たちも絶賛しているからね。
そのうちファビエンヌにも、国から特別に魔法薬師としての資格を与えられるのではないかと思っている。俺と同じようにね。そうなれば、もっともっと色んな魔法薬を作ることができるようになるぞ。うは、夢が広がるな。
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