第486話 レイブン王国であったことの報告会

 光の柱が消えるのを見届けて、俺たち一行はハイネ辺境伯領へ向けて出発した。『探索』スキルを全開にして確認したところ、どうやら無事にボーンドラゴンを討伐したようである。


 これでレイブン王国も一息つけることだろう。それからは国内の復興に励むことになるんだろうけどね。

 そのことをダニエラお義姉様にも教えたいところだが、「どうしてそんなことが分かったんだ」と突っ込まれるのが怖いのでやめておく。ちょっと心が痛いな。


「ユリウス、楽園への扉の向こうには何があるんだい?」

「何もないと思いますよ。真っ白い世界で魂まで分解されて終わりなんじゃないですかね?」

「魂まで……恐ろしい場所だね。どうして楽園への扉と呼ばれるんだろうね」

「きっとそこには恨みも、恐れもない、静かな世界だからじゃないですかね? もちろん、喜びも、楽しみもないでしょうが」


 死んだら意識も何もかもなくなる。それは人も魔物も同じだろう。記憶を持ったままで転生などしない限り。普通は記憶も分解されてなくなると思う。

 そんなことを考えていると、納得したのかアレックスお兄様が腕を組んでうなずいている。


「なるほどね。確かにそれは楽園なのかも知れないね」

「楽園への扉には人間は入れないんですけどね」


 楽園への扉をくぐれるのは死んだ者のみ。生きているものは一切入ることはできないのだ。死者の救済なのか、違うのか。それは俺にも分からないけどね。


 数日後、馬車は無事にハイネ辺境伯領へと到着した。思った以上にレイブン王国へいる時間が長くなってしまった。手紙を送ってはいるが、心配をかけているだろうな。

 ハイネ辺境伯家へ到着する。屋敷の前では家族みんなが待っていた。


「お父様、お母様、ただいま戻りました」

「うむ、ご苦労だったな。詳しい話はあとで聞こう。長旅で疲れているだろう?」

「そうですね。そうさせていただきます」


 アレックスお兄様に続いて俺とダニエラお義姉様もあいさつをする。残念ながら、カインお兄様とミーカお義姉様はすでに王都へと旅立ったあとのようである。学園へ行く前に、二人にちゃんとあいさつをしておきたかった。


「ロザリア、ミラ、いい子にしてたかな?」

「いい子にしてました。いい子にしてたのに、帰って来るのが遅いです!」

「キュ、キュ!」


 そう言って頭をグリグリと押しつけてくる二人。どうやら激おこプンプンのようである。手紙にはちゃんと戻るのが遅くなることを書いていたのだが、納得できなかったようだ。

 そんな二人を連れて、サロンへと向かった。


「ネロも疲れているだろう? この場は他の人に任せて、休んでおいで。リーリエも心配していただろうからね」

「ありがとうございます。そうさせていただきます」


 ネロが一礼してから去って行く。今回のレイブン王国への訪問は最少人数だった。そのため、ネロを含めた使用人たちの負担はかなり大きかったはずだ。しっかりと休ませないといけない。ライオネルを含めてね。


 サロンでお茶を飲みながらハイネ辺境伯家での出来事を聞いた。こちらでは特に何もなかったそうである。唯一、俺に会えないことが判明したときに、ミーカお義姉様がひどく落ち込んで、浮上させるのが大変だったということだった。


 ファビエンヌにはハイネ辺境伯家へ戻って来る日を話していたので、今日は遠慮してお休みにしたようだ。きっとファビエンヌには話せないこともあるだろうと、気をつかったようである。気にしなくてよかったのに。


「それでは次はアレックスからの報告を聞くとしよう。手紙には大体のことが書いてあったが、書けないこともあったのではないか?」

「まあ、そうですね」


 アレックスお兄様がチラチラと目配せをすると、使用人たちが一礼してからサロンから退出した。レイブン王国で起こった出来事をすべてこの場で話すつもりはないだろうが、ある程度、情報を共有するつもりのようである。


 ロザリアもいつまでも子供ではないからね。そろそろ貴族の一員として扱うことにしたようである。何かが始まるような気配を感じたのか、ロザリアの顔が固くなった。

 そうしてアレックスお兄様の報告が始まった。


「……というのが現在のレイブン王国の現状です。こちらへはどのくらいの情報が伝わっていますか?」

「うむ、ボーンドラゴンが現れて、現在、対処中だという報告を受けている。それですぐに国境沿いに騎士団と兵士を送っている。だが、どうやら無駄になったようだな」

「無駄になってよかったわ。国から一報が来たときには、すぐにあなたたちを呼び戻そうかと思っていたのよ」

「心配をさせてしまって申し訳ありません」


 アレックスお兄様からは国の情報よりも、もっと詳細な報告がハイネ辺境伯家へ届いていたはずだ。国も動いていたみたいだけど、俺たちのことは気がつかなかったようである。それもそうか。個人的に行っていたからね。


「ダニエラ様も国王陛下へ報告を入れておいた方がいいかも知れないわね」

「そうだな。私からも報告せねばなるまい。しかし、どこまで報告すればよいことやら……」

「その心配には及びませんわ。私が責任を持って、国王陛下へ報告します。その方が、不信感を持たれなくてすむと思います」


 ダニエラお義姉様の言う通りかも知れないな。聖剣に伝説の鎧、完全回復薬を使った話。機密事項が多すぎる。もしかすると、王都へ呼び出されるかも知れないな。ダニエラお義姉様もまさかこんなことになるとは思っていなかっただろうからね。


 ……その”こんなこと”の原因がどれも俺なんですけど。もしかしなくても、やらかしたのは全部俺なのでは? 結果だけを見れば、事態が大ごとになる前に鎮圧できたわけだけど、よくよく見るととんでもないことをしているな。


 もしダニエラお義姉様が俺に褒美をくれるのなら、今回のやらかしをなかったことにして欲しいところである。無理かな、やっぱり。

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