第483話 秘密の隠れ家へ行く
お風呂からあがった俺たちは使用人を部屋へ呼んで、明日の動きについて確認を行った。さすがに必要な物は一日ではそろわないらしく、秘密の隠れ家に行くのは数日後になりそうだった。
ああ、ハイネ辺境伯家に帰るのがどんどん遅くなる。分かっていたとは言え、ロザリアとミラがへそを曲げていないか心配である。ファビエンヌとは毎日連絡を取っているから、そこまで寂しがってはいないと思うけど。
ミラとも何か念話のようなもので話せたらよかったんだけど、そんな能力はまだなさそうなんだよね。そのうち発現したりするのかな? 巨大化や、空を飛んだときのように。もしかすると、すでに使えたりするのだろうか。分からん。
翌日は国王陛下の勧めもあって、王城内を見学させてもらった。
俺たちが聖剣を修復したことは表に出すわけにはいかない。そのための国王陛下なりの配慮なのだろう。断ると国王陛下が困りそうだったのでありがたく見学させてもらった。
「ここ、宝物庫ですよね? 入ってもいいんですか」
「案内されたからいいんじゃないかな?」
「かなりの好待遇であることは間違いないですわね」
お城の地下にある宝物庫に俺たちはいた。どうしてこうなった。アレックスお兄様とダニエラお義姉様も顔がこわばっている。あまり見ない顔である。緊張してきた。
そんな中、案内してくれているソフィア様がこちらを振り向いた。
「宝物庫には鎧もあると聞いています。それを秘密の隠れ家へ持って行きたいと思っているのですよ」
「なるほど。もちろん、国王陛下からの許可は取ってあるのですよね?」
「はい。好きにしてくれ、だそうです」
おおう。ずいぶんと信頼されたものである。でもそれもそうか。国の一大事だからね。なんとしてでもボーンドラゴンを討伐してもらいたいのだろう。そのためなら、多少の機密漏れは構わないということか。
宝物庫にあった古い鎧を利用させてもらうことにした。なんでも、いにしえの勇者が身についていた鎧らしい。ところどころに黄金の装飾がある豪華な鎧である。『鑑定』スキルの結果はただの鎧だった。すごいのは見た目だけだったようである。
「これで準備は整ったのですよね?」
「はい。今は設備を搬入しているところだと思います」
「私のせいで家が狭くなってしまいましたね」
秘密の隠れ家がどのくらいの広さなのか分からないが、魔法薬作りに必要な設備を一式入れれば、一部屋は潰れてしまうはずだ。せっかくのソフィア様とエルヴィン様の愛の巣が台無しになるのは間違いない。
「気にしておりませんわ。むしろ、記念に残そうかと思っているくらいです」
なんの記念!? 驚いた俺の顔を見て、クスクスと笑っているソフィア様。もしかしてからかわれた感じのやつですかね? 思わず笑うと、みんなも笑った。ようやくソフィア様にも本来の笑顔が戻りつつあるようだ。
その翌日、みんなそろって王都の郊外にある秘密の隠れ家へと向かった。名目的には王都の見学に行くということになっている。準備ができるまで数日と聞いていたが、急ピッチで作業を行ってくれたようである。ありがたい限りだ。
馬車の窓から見えて来たのは、ちょっとしたお金持ちが立てたような屋敷であった。
木造の家に、赤い屋根が乗っている、二階建ての建物だ。出窓にはキレイな花が飾られている。もちろん庭にも色とりどりの花が咲いていた。隣の家までの距離もあるため、ゆったりと休日を過ごせそうな感じである。なかなかいいな。
「いい家ですね。落ち着けそうです」
「そうでしょう? とっても過ごしやすいのよ。肩の荷が下りるというかなんというか」
「分かります、その気持ち」
どうやらソフィア様は庶民向けの生活が性に合っているようだ。俺もそうだと思う。高い家具に囲まれていたら、どうも力が抜けないような気がする。最近ではずいぶんと慣れてきたけどね。
家の中をソフィア様が案内してくれた。エルヴィン様は今日も王城の訓練場で厳しい訓練をしているようだ。先日あったときはかなりのケガをしていたので、慌てて手持ちの初級回復薬を渡したくらいだ。飲んですぐに元気になったけどね。
ユリウス様が作った初級回復薬は一味も、二味も違う! と叫ばれたときにはどうしようかと思った。
次は絶対に負けられないという気持ちは分かるが、その前に体を壊してしまっては元も子もない。ソフィア様に注意してもらわないと。
「ここが調合室よ。どうかしら?」
「これだけの設備があれば十分です。素材も準備してあるみたいですね。すぐに魔法薬の作成に移りたいと思います」
簡易の設備だが必要な魔法薬を作るのには十分だ。本格的な設備をそろえようと思ったらもっと時間がかかっていたことだろう。
俺が魔法薬を作っている間に、お兄様たちには鎧の準備をお願いしておいた。
聖なる塗布剤が完成したら、すぐにコーティングを終わらせなければならない。それから耐久力チェックもね。
用意してもらったブラックスライムの粘液、緑の中和剤、毒消草、黒曜石の粉末、聖竜の毛をテーブルの上に載せて魔法薬の作成を開始する。念のため、ダミーとして他の魔法薬の素材を何種類も頼んでおいた。
これでもし悪いことを考える人がいても、聖なる塗布剤にはたどり着けないはずだ。もっとも、たどり着いたとしても、決め手となる”聖竜の毛”が手に入らないから、同じ物を作るのは無理なんだけどね。念には念をである。
以前作ったことがあるので、すぐに聖なる塗布剤を完成させることができた。あとはこれをお城から持って来た鎧に塗布するだけである。
外に控えていたネロにみんなの居場所を聞くと、一番大きな部屋でお茶を飲んでいるらしい。鎧もそこにあるそうだ。すぐにその部屋に案内してもらった。
「魔法薬が完成しました」
「お疲れ様。まずはお茶でも飲まないか?」
アレックスお兄様に誘われて席に座った。すぐにネロがお茶とお菓子を持ってきてくれた。大して疲れてないと思っていたけど、想像以上にお茶とお菓子がおいしかった。魔力をそれなりに消費していたようである。もしかして、聖竜の毛が原因かな? 高級素材を使うと、魔力の消費が激しいんだよね。
「毎回、ユリウスにばかり負担をかけてるね」
申し訳なさそうに眉を下げるお兄様。お兄様だけじゃない。ダニエラお義姉様もソフィア様も同じような顔をしていた。慌てて首を左右に振った。
「そんなことはないですよ。私が好きでやってることですからね。何度やっても、魔法薬を作るのは楽しいです」
これは本音である。魔法薬を作るのは楽しい。そして作った魔法薬がだれかの役に立って、喜んでもらえるのならもっと楽しくてうれしい。
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