第481話 秘密の隠れ家

 腕を組んで考え始めたアレックスお兄様。あれ? もしかして「ノー」ですか? まさかそんなことないよね。心配になって周囲をキョロキョロと見ていると、ダニエラお義姉様と目が合った。


「そのお話は初めて聞いたのだけど、どのような魔法薬なのかしら?」

「えっと、塗ると魔法耐性がものすごく高くなる魔法薬ですね。ボーンドラゴンの攻撃は物理攻撃と魔法攻撃ですよね? そのうちの魔法攻撃だけでも防ぐことができたら、安全性がずっと高くなるかなと思いまして」


 ボーンドラゴンのブレスは当然、魔法の一種である。攻撃に追加されている毒攻撃も同じだ。それらを完封できれば、あとは純粋な”物理攻撃と物理攻撃のぶつかり合い”で決着がつく、ように見えるが、こちらの物理攻撃には聖剣による魔法攻撃が加わる。勝利する可能性は非常に高い。


「ユリウスは素材を持って来ているんだよね?」

「はい。一番、手にいれにくい素材だけを持って来てます」

「それならあとはどこで作るかだね。もう一度、調合室を借りたいところだけど、それだとユリウスが作ったことが知られてしまうよね? どうしたものか」


 どうやらアレックスお兄様が考えていたのはそのことのようである。それなら『ラボラトリー』スキルを使って……とも思ったのだが、こっちはまだだれにも言っていない秘密だ。安易に使うわけにはいかない。さて、どうしたものか。


 調合室はこれから毎日、夜遅くまで魔法薬の作成に使われるはずである。魔法薬師たちが寝静まったあとでコッソリと、というわけにはいかないだろう。どこかに秘密の部屋でもあればよかったのだが。


「それでしたら、王都の郊外に秘密の隠れ家がありますわ。そこに必要な機材と、素材を集めるのはどうでしょうか?」

「秘密の隠れ家? それってもしかして……」


 ソフィア様とエルヴィン様が顔を赤くしてうつむいた。

 おいおい、許されるのかよ、それ。あきれてアレックスお兄様とダニエラお義姉様を見ると、二人もなぜか顔を赤くしてうつむいていた。

 ……もしかして、アレックスお兄様とダニエラお義姉様も郊外に隠れ家を持っているのかな? 初めて聞く話だぞ。


 だが俺は紳士。それ以上の深い話はしないのだ。ならば乗るしかねぇ。このビッグウェーブに。


「コホン、それでは、必要な物を書き記した紙を渡しますので、その秘密の隠れ家に運んでもらえますか? ついでに伝説の鎧にするのにふさわしい鎧も持って来てもらいたいです」

「すぐに手配いたしますわ」

「伝説の鎧?」


 ここへ来てダニエラお義姉様が食いついた。まさかそこまでの代物が作られるとは思ってもみなかったようである。だが、この話をすると長くなる。あとで話すことにしよう。


「詳しいお話はお風呂のときにしましょう。先ほど気がついたのですが、もうだいぶ遅い時間みたいですし……」

「ああ、そうだったね。そろそろ夕食の時間だよ。ダニエラと一緒に呼びに行こうかと思っていたところだよ」

「すいません、時間が遅くなっていることに気がつかなくて」

「次からは時間も気にするようにね」


 アレックスお兄様が俺の頭をポンポンする。続いてダニエラお義姉様もポンポンしてきた。どうやらかなり心配をかけてしまったようだ。反省しよう。目覚まし時計でも作ろうかな。


 その後はすぐに晩餐会となった。聖剣を修復した話は国王陛下と王妃殿下にも伝わっているのだろう。何も言わなかったが、なんだか英雄でも見るかのような目で見つめられた。ちょっと困る。


 次期国王候補には二人の息子がいるらしいが、この場にはいなかった。たぶんだけど、聖剣の話は知らないのだろうな。もしかすると、その二人の息子には秘密なのかも知れない。


 これは何かいわくがありそうだが、他国の者である俺たちは何も言わずに黙っていた。レイブン王国のお家騒動は自分たちで解決して欲しい。厳しい言い方にはなるが、知ったことではない。ソフィア様とエルヴィン様のことは気になるけどね。


 そのまま当たり障りのない話をして夕食は終わった。出て来た料理はどれも素晴らしいものだった。スペンサー王国ではあまり食べることができない魚貝類のオンパレードだ。さすがは海に面した国なだけはあるな。


 アレックスお兄様とダニエラお義姉様は慣れているのか、普通に食べていたし、もちろん俺も日本人として普通に食べることができた。ちょっと驚いたような顔をしているダニエラお義姉様が印象的だった。食べ慣れているのが不思議だったのかな?


 夕食を食べ終わり、客室でまったりとしていると、お風呂の準備ができたと使用人が言ってきた。この客室には専用のお風呂がついている。大浴場よりも狭いが、それはそれでゆっくりとくつろげそうである。


「私たちだけなら水着はいらないわよね?」

「いります! 絶対にいります! ですよね、お兄様?」

「そ、そうだね。いくら三人だけで入ると言っても、ユリウスはもう立派な男の子だからね」


 苦笑いするお兄様。まさかみんなで丸裸になってお風呂に入るとは思っていなかったようである。ちょっと口をとがらせたお義姉様をなだめて、なんとか水着を着てからお風呂に入る。


 お風呂は三人でも十分に入れる大きさだった。さすがは王城の客室風呂。大きい。そしてダニエラお義姉様の胸も大きい。前よりも大きくなっているような気がするのは気のせいだろうか。


「残念だわ」

「お義姉様、背中を流しますよ」

「あら、ありがとう。それじゃ、次は私がユリウスの背中を流すわ」

「それはちょっと、どうなんでしょうか?」


 助けを求めてアレックスお兄様の方を向いたが、笑顔で首を振られた。


「ダニエラがそう言っているんだ。ありがたくちょうだいしなさい」

「分かりました。ありがたくちょうだいします」


 お兄様でも勝てないものはあるようだ。しょうがないよね。お義姉様の絹のような滑らかな背中を洗う。言ったのは自分だが、いいのかな、こんなことして。でも使用人が一緒に入っていないんだよね。


「それじゃユリウス、詳しい話を聞いてもいいかな? もちろんここでの話はお父様以外にはだれにも言わないからね」

「私もだれにも言わないわ。まずはどうやって聖剣を修復したかのお話からね」


 トホホ。これは逃げられないな。覚悟を決めて話すことにしよう。これでまた”ユリウスがやらかした”って思われるんだ。クスン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る