第480話 聖剣の持ち主
研究者たちにはすぐにソフィア様たちを呼びに行ってもらった。間違いなく心配しているだろうからね。みんながここへやって来るまでの間に、扉の外にいるネロとライオネルに声をかけておく。
「待たせてしまったね。どこまで聞いてるか分からないけど、うまくいったよ」
「何かを修復しているというお話を伺っていましたが、うまくいったようで何よりです」
「ユリウス様のことですから心配はしておりませんでしたが、そろそろお止めしようかと思っていたところですよ」
ライオネルが窓の外に目をやった。すでに日が暮れている。全然気がつかなかった。それだけみんな集中していたということだ。二人がお世辞でも「そんなことはない」と言わなかったところをみると、本気で止めようと思っていたようだ。申し訳ない気持ちで一杯になるな。
「ユリウス、無事に終わったみたいだね。あの顔を見れば分かるよ」
「お疲れ様でした。今日のお風呂は一緒に入りましょうね。疲れを洗い流してあげるわ」
「あ、ありがとうございます……」
うん、これは断れないな。なんだかそんなオーラが見える。たぶん二人とも詳しい話を聞きたいのだろう。
アレックスお兄様とダニエラお義姉様の後ろからソフィア様とエルヴィン様がやって来た。二人とも執務をこなしていたんだろう。息があがっていた。
「ユリウス様、お疲れ様でした。ありがとうございます。なんだか呼びに来た研究者がずいぶんと興奮しておりましたけど、問題なく修復できたのですよね?」
「はい。研究者たちの力も借りて、間違いなく修復を完了しましたよ」
研究者たち、の部分を強調しておく。俺だけの手柄になるのは非常によろしくない。共に”やらかし”を被る共犯者が必要である。研究者たちの運がよかったのか、悪かったのかは永遠の謎である。
扉の向こうが気になるのか、二人がソワソワしている。もう遅い時間になっていたので、おひろめは明日に回そうかと思っていた。しかし二人の様子を見ると、今日のうちに見せて、使い方を教えておいた方がよさそうだ。俺は四人を工房の中へと招き入れた。
「これが修復が完了した聖剣、ゲートキーパーになります」
「これが……」
「前に見たときよりも美しいわね」
「これが聖剣の本来の姿」
「ユリウス様、手に取ってみても構いませんか?」
エルヴィン様は特に気になったようである。そうだよね。前回は中途半端な性能しか発揮しなかった聖剣を使って戦ったからね。本物の聖剣がどんな物なのか気になるよね。
俺がうなずきを返すと、ゆっくりと手に取り、天に掲げた。それに呼応するかのように、剣が瞬いた。
「ユリウス、今の光は?」
「おそらくエルヴィン様を持ち主に選んだのでしょう。聖剣は持ち手を選ぶと聞いたことがありますからね。私が持ったときはあのような光は出ませんでした」
「俺が聖剣に選ばれた……」
あ、エルヴィン様が泣きそうになってる。ボーンドラゴンに負けたときは屈辱だったのだろうな。いっそこのまま、とか思ったのかも知れない。でもソフィア様が待っていたからね。そんなことはできなかったのだろう。
このままだと間違いなくリベンジに行くことになるだろう。今度はボーンドラゴンに勝てるようにしておかなければならないな。
「エルヴィン様とソフィア様に聖剣ゲートキーパーの使い方をお教えします。さすがに他国の者であるアレックスお兄様とダニエラお義姉様には教えることはできませんが……」
「それで構わないよ。私たちは外に出た方がいいかな?」
「いえ、大丈夫です」
聖剣を持ったエルヴィン様とソフィア様を部屋の隅に連れて行く。そして柄と鍔の境目にあるセーフティーロックについて話した。やはり二人は知らなかったようである。リングを回すことで本来の力が発揮されることを話すと驚いていた。
「それが本来の使い方でしたのね」
「はい。ですが、以前のままでは発動しなかったと思います。聖剣の術式が失われていましたからね」
「この黒い筋がそうなんだよね?」
「そうです。研究者たちと共に書き直しました。永久に、とは言えませんが、しばらくは術式が失われることはないと思います」
念のために釘を刺しておく。永遠にその姿を維持できるものなどないのだ。悠久の時の中で、すべてのものは無に帰る。それが自然の摂理だ。それをねじ曲げることができるのは神様だけだろう。
「肝に銘じておくよ」
「これならボーンドラゴンを倒すことができますの?」
「可能性は十分にありますが、もう一手、欲しいかと」
「その一手とは?」
すがるような瞳でソフィア様とエルヴィン様がこちらを見てきた。ボーンドラゴンと相打ちなら間違いなく倒せるだろう。だがエルヴィン様が生き残るためにはどうしても必要なものがある。
「鎧ですよ。ボーンドラゴンの攻撃を防ぐことができる特別な鎧」
「特別な鎧か。確かにそれがあれば心強いが……」
「そのような鎧があるのでしょうか?」
「ありますよ。あると言うか、作れます。ちょっと特殊な塗布剤がありまして、それを塗ればエルヴィン様が身につける鎧を伝説の鎧に仕立て上げることができます」
ゴクリ、と二人がそろって生唾を飲み込んだ。いともたやすく俺が伝説の鎧を作れると聞いて、とんでもない話を聞いてしまったと思っているのだろう。そしてその”伝説の鎧”を手に入れるために、やらなければならないことにも気がついているはずだ。
「分かりましたわ。このお話はだれにも言いませんわ」
「俺も言いません。ソフィア様と、この聖剣に誓って」
「では決まりですね。あとはアレックスお兄様がうんと言えば大丈夫です」
間違いなく「イヤ」とは言わないだろうけどね。万が一に備えて、ミラの毛を少しだけ持って来ていてよかった。これでこの場でも”聖なる塗布剤”を作ることができるぞ。
密談も終わり、アレックスお兄様とダニエラお義姉様の元へと戻った。二人は相変わらず笑顔を浮かべているが、気にはなっているようだ。俺とソフィア様を見比べている。
「アレックス様にお願いがあります」
「何かな?」
ソフィア様が研究者たちを部屋から追い出し、先ほど俺と話したことをもう一度、アレックスお兄様に話した。
********************
ここまで読んでいただき、まことにありがとうございます!
もし、面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録と、星での評価をいただけると、今後の創作の励みになります。
よろしくお願いします!
********************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。