第477話 聖剣を見せてもらう

 両手を組み、目をキラキラさせてこちらを見ているエミリーさんとジョンさんを横目に、次の魔法薬を作る準備に移る。さすがは王城にある調合室なだけあって、初級回復薬と中級回復薬の素材も十分にあった。これなら問題なく教えることができるぞ。


「ユリウス様、私も解毒剤を飲んでみてもいいですか?」

「ソフィア様もですか? それは別に構いませんけど……」


 エミリーさんとジョンさんの反応と、先日聞こえたエルヴィン様の叫び声が気になったのだろう。

 ソフィア様は以前に解毒剤を飲んだことがあるのか、目をつぶりながらスプーンですくった解毒剤を口に入れた。


 見た目はおしとやかに見えるけど、もしかしたらおてんばなのかも知れないな。騎士であるエルヴィン様にひかれたのも、一緒にやんちゃすることができるからなのかも知れない。


「甘ーい! なにこれ、本当に解毒剤なの?」


 反応がエルヴィン様とまったく同じ! 思わず吹き出しそうになったのを全力で抑え込んだ。アレックスお兄様もあの場にいたはずなのに涼しい顔をしている。これが経験値の差か。しばらくは埋められそうにないな。


「エルヴィン様も同じ反応をしていましたよ。お二人はよく似ていらっしゃるのですね」

「そ、そうかしら?」


 真っ赤になるソフィア様。うれしいのと恥ずかしいのが入り交じっているようだ。

 うん、確かにこれならレイブン王国の国王陛下が二人の仲を認めるのも納得だな。これだけエルヴィン様のことをソフィア様が思っているのだから。


 ほほ笑ましいものを見る目でソフィア様を見たあとで、エミリーさんとジョンさんに魔法薬の作り方を教える。使う素材はほぼ同じ物なので、特に戸惑うことはなかった。


 改良版の飲みやすい初級回復薬の作り方は見送ることにする。あの魔法薬は俺のオリジナルなところがあるからね。それを教えると、魔法薬の作り方を教えたのが俺だということがバレてしまう。


「さすがは王家専属魔法薬師ですね。私が教えることはもうありませんよ」

「先生の教え方が素晴らしかったからですよ。あの、他にも色んな魔法薬を作れたりするのですよね?」

「まあそれなりに作れますが……あとはスペンサー王国の王宮魔法薬師たちに聞いて下さい」


 人はそれを丸投げと言う。

 これ以上、魔法薬を教えることになると、長期滞在することになってしまう。俺はレイブン王国の人間じゃないし、もう十分に貢献することができたはずだ。

 俺の発言を聞いて、あからさまにガッカリする二人。だが、それ以上は何も言わなかった。


「エミリーさんとジョンさんから他の魔法薬師に作り方を教えて下さい。もちろん、私の名前は出さないで下さいね」

「それはもちろんですよ……」

「先生の名前を出せないなんて残念です……」


 落ち込む二人。国王陛下からも秘密にするように言われているだろうし、まず大丈夫だろう。二人はこのまま調合室で、他の魔法薬師たちに作り方を教えるつもりのようである。

 俺たちはその邪魔をしないように調合室を出た。


「これで私の仕事は終わりましたね」

「お疲れ様。あとはボーンドラゴンがなんとかなればいいんだけどね」


 アレックスお兄様が頭をなでてくれたが、そろそろ恥ずかしくなってくる年齢である。俺もそろそろロザリアの頭をなでるのをやめなければいけないな。その代わりにミラをなでなでするようにしよう。


「私たちにも何かできることがあればよかったのですけどね」


 ダニエラお義姉様が顔を曇らせている。なんとか魔法薬で持ちこたえることはできそうだが、根本的な原因を取り除かなければじり貧になることは間違いない。俺もなんとかしてあげたいところなのだが……。


「ユリウス様は聖剣が見たいと言っておりましたよね? 魔法薬の作り方を教えていただいたお礼に、特別に見せてもいいと国王陛下から言われておりますわ」


 重くなった空気を軽くしようと、ソフィア様が務めて明るくそう言った。いい子やん。ボーンドラゴンの問題はレイブン王国の問題だ。そのことでみんなが暗くなる必要はない。そう言っているかのようである。俺もそれに乗ることにした。


「本当ですか! レイブン王国の聖剣が見られるだなんて、楽しみです」

「よかったね、ユリウス」

「それでは昼食を食べたあとに案内しますわ」


 王族のプライベートスペースにある中庭で昼食を食べたあと、ソフィア様に連れられて王城内を移動する。王城内の食堂を使わなかったのは、ソフィア様からのお礼なのだろう。出て来た食事はどれも珍しいものばかりで、話を聞くと、レイブン王国の特産品ばかりだそうである。


 ソフィア様に連れて行かれたのは王城内にある工房だった。どうやら武器工房と、魔道具工房がセットになっている場所のようだ。ソフィア様の姿が見えたのか、すぐに責任者がこちらへとやって来た。


「ソフィア様、お話は伺っております。こちらへどうぞ」


 それ以上は何も言わずに案内された。

 聖剣のことは秘密になっているようだ。他で言うつもりはないが、気をつけないといけないな。

 連れて行かれたのは工房の最奥。鉄の扉で区切られた部屋だった。その中央には折れた剣が安置されていた。


「あれがレイブン王国の聖剣ですわ」

「あれが聖剣ですか。神々しいですね」

「とても偽物には見えませんわね」

「え? あれってまさか、ゲートキーパー!」


 ゲーム内で散々見たことがある武器に思わず叫んでしまった。だってしょうがないじゃないか。ゲーム内の武器がそのままズバリの形で置いてあるんだもん。真っ二つに折れてるけど。


 ゲートキーパーはゲーム内でも聖剣扱いだった。ただし、それなりに手に入れやすい部類の聖剣である。もちろん俺も持っていたし、壊れたら修理もしていた。


 これってまさか……。自分に立つフラグにブルリと震えた。直せってことだよね?

 俺の叫び声を聞いて、その部屋にいた全員の視線が集まった。

 そしてポツリとソフィア様がつぶやく。


「どうしてその名前を知っているのですか?」

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